人もどき
人のためではなく、それが自身の利己だと気づくのにこれほども時間を要してしまった。必要なのは、金や安定といった通俗的なものでなく、もっと自然的な母性、または父性とでも喩えよう生物の根幹なのである。そういったものを受けず愛情が欠落してしまっているが故にこのような社会的な通俗にすら適応のできない「人もどき」として世の中に紛れ、周りの目を気にしては気づかれぬよう悟られぬよう本性を隠して冷や汗を流しながら必死に生きているのだ。
実に惨めで情けない。
しかし人もどきもそう誰かに知らしめなければ人と変わらぬ姿形を持ち、社会においては人と同じような待遇を受けることも可能である。反面、人と同じように扱われる以上容易に死ぬことも出来ないのだ。
人もどきは死を望む。死こそが自身にかけられた呪いを解く唯一の方法なのだ。誰にも頼れず、孤独で、生きる。身も心も好きなように弄ばれ、しかし誰にも打ち明けられず、人もどきであるが故に人のすることを甘受しなければならないのだ。そうしてただでさえ根っこのない哀れな人もどきは、脆くて壊れやすくて消耗品のように扱われては世界から消えていく。
なんとか、なんとか、必死で死に方を見つけて、それはまるで死ぬために生きているような。邪魔をする人は全て恐ろしい、最後の一滴まで血肉を絞るつもりなのだ。残すとこなどなく、全て全て搾取することが「人」のすることなのだ。
私は人もどきだ。人を憎むことはない。憎むことも許されない。人もどきにとって人は憧れで高尚で崇高な存在なのだ。憎めない。恨めない。だから自死するしかないのだ。そしてそこまで人に対して利他的な人もどきが唯一利己を通すならば、自死なのだ。人のために死ぬわけではなく、人もどき自身のために死ぬのだ。
死の命。死の生き物として今日も生きている。
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