夏日

 いやに蒸し暑く、蝉の声がまだらに聞こえる頃。コップの表面を水が滴る。駅から近くボロアパートに一人暮らししている男の部屋、壁紙が黄色く変色はしているが空調のよく効いた涼しい小部屋でハイライトに火をつけると、コップをそっと端へ押しやり代わりに灰皿を自身の前に持ってくる。壁にもたれながら天井を眺め二、三度ふうと息を吐き出すとあたりが真っ白になり思わず換気扇を回しに席を立つ。立ち上がったついでだ、と冷蔵庫の前まで行くと晩酌のために買っておいた缶ビールに手を伸ばす。一瞬手を止め躊躇したが欲望には抗えずいそいそとプルタブに指をかけ力を込める。カシュっと心地の良い音を立てて独特の臭気を一面に放つアルミ缶を口元へ押し当て中身を一気に胃袋へと追いやる。——つもりだったが、やはり景気良くごくりごくりとは飲めないもので中身のほとんどが残ったままキッチンへ置くと自身の定位置ともいえようテーブルの脇にあるワタの抜けたボロボロの敷布団へと座る。鳥の羽が突き出ている枕を壁と自身の腰の間へ挟み込みまたモクモクとタバコを蒸す。


 三本目のタバコに火をつけた頃。携帯電話がヴッヴッヴッと短くバイブレーションする。「今出川のバス停に着きました。」それだけの短いメールだったが、男は急いでパーカーを羽織り、スウェットをジーンズに履き替え家を飛び出した。アパートの玄関に止めてある自転車にまたがり普通に漕いでいれば五分程度の距離を十分かけて目指す。メールでは17歳と言っていた少年。そんな少年に27にもなるが年甲斐もなく気分を良くし緊張をしながら少しいたずら心をはたらかせて待ち合わせ場所へと向かう。確か今日の服装は…昨晩の記憶を頼りにしながら版権ものの白いシャツを着た少年を探す。よれた襟元を隠すために羽織ったパーカーが想像以上に暑く、またなかなか見つからない少年に焦りを感じ額へと汗がたまるたびに次第に不機嫌になっていく。交叉点の信号が三度目の青に変わった頃、ようやくお目当ての少年らしき人影が見え自転車を手で押しながら近づく。少年の方が先に男に気づいたようで少し恥ずかしそうに目線をそらしながら近くまで来る。


 すみません。分かりにくかったですか…。少年が不安そうに自身のシャツと男の顔を交互に見る。男はそんな少年の表情に思わず咳払いをし先ほどまでの不機嫌さはなくなっているにも関わらず同じように険しい顔を向け、大丈夫とだけ短く返した。背丈が180センチほどありそれに加え体重も100キロほどあるであろう巨体の男のその様子を見て、対になるかのように細くて華奢な少年はその肩をすくめますます小さくなる。しばらく無言のまま歩きアパートの近くまで来ると男はこういうことは初めてなのかと聞き、少年は男の方を見上げ顔を強張らせながら頷いた。


 ——ガチャ。男は立て付けの悪いドアの鍵を開けるとジメジメして埃っぽい自室へと少年を通した。一切振り返らず奥へと歩いていく男に対して、お邪魔しますと少し震えているかのような小声で少年はそう発し自身の脱いだ靴を丁寧に並べると男の背中へ一瞬目をやり素早く男の靴も整えた。男はそんな素振りに気づかないまま自身の定位置へと腰を下ろし、ハイライトに火をつける。少年は玄関から続く暗く短い廊下を抜けたワンルームの小部屋へと少し急ぎ足で入ると、今度はどこにいればいいのかと異物のような自分に落ち着かずそわそわしている。男はその様子を見ながら喫煙を深め、キッチンにあるビールを持ってくるよう少年に指示する。少年は頷くと同じ部屋の中にあるキッチンへと振り返りそこにある気の抜けたビールに中身があることを確認して男の方へ向き直す。男はそれでいいよ、と低い声で返事をして自分の横に来るように少年に向け手をひらひらと動かす。少年は少し安心したような顔をしてビールを両手で抱え男の横へすとんと座った。男は少年からビールを取り上げるとゴクゴクと飲み干しすぅーっと深くタバコを吸いその煙が少年へとわざとかかるように吐き出し苦しそうにしている少年を眺めて嬉しそうにニヤリと笑った。


 タバコを吸い終わると男は少年の肩へと手を回し耳元でいただきますと呟くとほとんど床と変わらないような布団へと押し倒した。少年はびくっと驚き、さらに打ち付けられるような痛みで視界が定まらぬまま男に唇を重ねられた。タバコの匂いとビールの匂い、それとハーブ系の歯磨き粉の匂いが一度に口内へ押し込まれ少年は思わず顔を逸らしてしまう。男はそんな少年の顔を掴み、恥ずかしがらなくていいよと言うとまた唇を重ね今度は少年が本当に窒息する直前まで自身の唾液で少年の顔を汚し続けた。少年がやっぱり…と言いかけると同時に男はジーンズを脱ぎ今まで見たこともないくらい大きく膨らんだ男根を見せつけ少年の服をはぎとろうとする。少年はぐっと力を込め自分で脱げますから、と告げると部屋の隅で衣服を脱ぎ丁寧にたたむとそれらを重ね置いた。体毛は綺麗に処理されており色白な肌がより官能的に見えた。


 あれから何時間経ったであろうか、男はもはや自分自身を抑制することが出来ず少年の髪を嗅ぎながら自慰に耽り、少年の耳から足の先までくまなく舐めまわした。それに対し少年は冷静な顔をして天井を見つめ時折唇が重ねられるたびに少し体を捩らせる程度の反応しか示さなかった。ところが少年の腰へひやっとした感触が伝わった瞬間少年は全身を強張らせ男への許しを請うた。しかし男はうるさいとだけ返し少年の臀部へと指を埋めるとしばらくくちゃくちゃと動かし少年の体をぐっと引き寄せ自身の男根をゆっくりと打ち込んでいった。少年はあまりの苦しさに今までになく強い意思表示をしたがそれすら男の耳には届かず男は激しく腰を振った。

 男は事後、少年の口へ自身のものを含ませると満足げに服を着ながら少年のもとへ彼の服を蹴った。少年はそれを拾うと着衣し、シャツに男の体液が付いていることに気づいた。少年が不快感からどうしていいか狼狽えていると男はそれを着て帰りなとだけ告げまたも不機嫌そうな顔をしながら少年を家から追い出した。


 男はタバコの空き箱を放り投げまたいつもの定位置へと座り天井を眺める。ヴッヴッヴッ、男の携帯が短くバイブレーションをした。

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