第14話決断

「今回は猪四郎が迷惑をかけてしまって申し訳ない。

 きよから話を聞いたのだが、深雪殿の本心はどうなのだ?

 猪四郎の事を嫌っているのなら、はっきりとそう言ってもらいたいのだが」


「和泉屋殿。

 好きとか嫌いとかではないのです。

 実家の沢田家は借財で頚が回らない状態なのです。

 だからこそ、佐々宗治郎殿との婚約を解消して、用心棒をやっています。

 大奥の火之番を目指しているのです。

 よほどの誠意を見せて頂かないと、結婚など無理です。

 私としては、きよ殿の護衛を続けたいのです」


「率直に言ってもらえてはっきりしました。

 完全に見込みがない訳ではないのですね。

 誠意については、猪四郎の覚悟を試しましょう。

 それまでは、ここに近づけないようにします。

 その点は安心してください。

 それときよの護衛ですが、このまま続けてください」


 深雪は一安心していた。

 用心棒を解雇されるのが一番不安だったのだが、少なくともそれは回避された。

 問題は猪四郎との結婚話だった。

 完全に否定してもらえれば安心だったのですが、否定はしてもらえなかった。

 あの猪四郎であれば諦めずに色々と手を打ってくるでしょう。


 だから最低限の条件を設定することにした。

 本当は結婚などしたくはないという事。

 佐々宗治郎殿との婚約を破棄しておいて、結婚などしたくなかった。

 少なくとも、佐々宗治郎殿が新たに婚約するか結婚するまでは、自分は結婚できないと思っていたし、そうはっきりと伝えた。

 だから本当に厳しい条件を出す事にした。


 最初の条件は借財の完全返済だった。

 沢田家の借財二百両弱を完全に返済する事が第一条件だった。

 非常用の貯金を持っていなければいけない。

 二百両程度の余裕資金を手元にいておく必要がある。


 だがそれでは、収入より支出の多い武家はまた借財が増える事になる。

 武家の体面を傷つけない方法で、収入策を講じなければいけない。

 道場や芸事を教える手段を講じなければいけない。

 だがそのような技術が、一朝一夕に手に着くわけではありません。

 目先の、早急に収入を得られる方法を手に入れなければいけません。


 その点で言えば、猪四郎の使った、町地に長屋を建てて運営するという方法があるが、武家地では長屋を建てることができない。

 町地を購入できるのならそれが一番だが、それでは初期投資が大きすぎる。

 その点を和泉屋喜平次と相談して解消できるのなら、猪四郎と結婚する事も厭わない覚悟だった。

 沢田家を護るためなら、自分の身を売り渡す覚悟をしていた。

 

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