第6話指示

 深雪が巳三郎の案内で座敷に入ると、予想外に四人の御歴々が座っていた。

 深雪は思わず居住まいを正し、気合を入れ直して部屋に入り、丁寧に挨拶した。


「お呼びによりまかりこしました」


「よく来てくれた。

 今日はほかでもない。

 先日の願いについて、我ら四人で話し合った結果を話す」


 四人の中で現道場主である槍一郎が話をするようだ。


「お手数をお掛けしてしまいました」


「なに、大切な弟子の頼みだ、手を尽くすのは普通の事だ。

 それでだ、単刀直入に言えば、大奥への推薦は可能だ。

 だが仮親や宿元などの各所に払う礼金が、今の深雪には厳しいと思う。

 何か金を稼ぐ方法を探さねばならぬと考えたが、師範代にするにも、古参の者達の妬み嫉みが不安だ。

 そこで女専門の用心棒をやってもらうことにした」


「女専門の用心棒でございますか?」


「そうだ。

 嫁入り前の娘に、男の用心棒をつけて間違いがあってはならん。

 妾宅に用心棒をつけたいが、男では不安だ。

 そう考える者は意外と多い。

 そういう所に行ってもらうことにした」


「分かりました。

 よろこんで行かせていただきます」


「ただ毎日用心棒の仕事があるわけではないので、普段は今まで通り道場に通ってくれてもいいし、大奥のお吟味に向けて習い事をしてくれてもいい」


「習い事でございますか?」


「薙刀の一芸だけで大奥に入るのは難しい。

 読み書き算盤ができるのは当然として、踊り、琴、三味線の芸事もできなばならんし、裁縫が下手では話にならん。

 読み書き算盤と裁縫に関しては、母から学んでいると聞いた。

 だが踊りと琴と三味線は全くできておらんのであろう」


「……はい。

 ですが、私は別に大奥で出世を目指しているわけではありません。

 薙刀の技で火之番になりたいだけです」


「分かっている。

 確かに深雪の薙刀の腕前はどこに出しても恥ずかしくない。

 だがそれだけで合格できるかは、我々には分からん。

 万が一不合格になれば、安くない礼金が無駄になる。

 それは深雪にいも沢田家にも大きい事であろう?」


「……はい」


「だから事前にできる事は全てやっておけ。

 薙刀だけでも合格できると分かれば、直ぐに伝えてやる」


「はい、ありがとうございます」


「それと、明日は用心棒の仕事が入っている。

 蔵前の札差和泉屋喜平次の所に行ってもらう。

 その心算で準備しておいてくれ。

 これが紹介状だ」


「ありがとうございます」


「今日の話はこれまでだ。

 下がっていぞ」


「はい、ありがとうございました」


 深雪は四人に丁寧に挨拶して座敷を後にした。

 そのまま道場で鍛錬しようとした深雪だったが、巳三郎が待っていた。


「四人に呼びだされるなんて、何かあったのかい?」


「いえ、特に何かあったわけではありません。

 これから身の振り方を御相談させていただいていただけです」


「そうかい。

 何かあった私にも相談してくれ。

 私なら道場主という立場ではなく、同じ門弟として手助けできるからね」


「ありがとうございます。

 その時は御相談させていただきます。

 鍛錬がありますので、これで失礼させていただきます」


 男心の分からない深雪だった。


「大奥の採用基準」

1:事前に手習い・踊り・琴・三味線などを習得する。

2:御家人以下の武士や町人などの娘は旗本を仮親とする。

3:「お吟味」と呼ばれる採用試験を受ける。

4:振袖姿で御広座敷に行き御年寄にお目見えする。

5:書の試験として、小奉書に「上々様御機嫌能被為成御目出度有難がり候」と書き、親の名前と自分の名前を書いて提出する。

 :裁縫に試験として、裁縫の良し悪しを示す袖形を提出する。

6:合否が決まるまで宿元に滞在し、数十日かけて身元調べが行われる。

 :宿元は小姓・小納戸役・奥医師などが当たる。

7:「お呼び出し」といわれる合格

 :御広座敷で御年寄から大奥での通り名や役向を貰う。

 :これを「御名下され」という。

 :御目見え以上は御台所にお目見え。

 :長局への廻勤してお披露目が行われる。

8:守秘義務などを課せられる誓詞の提出する。

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