第4話提案
秋月家では四人の人間が話し合っていた。
初代から四代目までの道場主が一堂に会して話していた。
大切な弟子の将来がかかっており、そう簡単に決めるわけにはいかないのだ。
「大奥に奉公に上がりたいか。
全く伝手がないわけではないが、それなりに礼金がいる。
今の深雪にそれを用意するのは難しいだろう」
初代道場主の虎太郎が困った表情をする。
「父上。
何か適当な仕事はありませんか?
私も弟子に受け入れて直ぐに徒士組に出仕して、跡を父上や槍一郎に任せたことが気になっているのです」
二代目の龍造にも、自分が弟子入りを認めたのに、直ぐに道場主を辞めたことに対する負い目のようなモノがあった。
「私が師範代に任命するわけにはいかないのです?」
四代目継承が決まってる段次郎が不思議そうに質問した。
「男の嫉妬ほど醜いモノはない。
段次郎が深雪を師範代に任命すれば、古参の弟子たちが嫉妬する。
道場主交代直後に余計な波風は立てない方がいい」
虎太郎が諭すように段次郎に話しかける。
「だったら何か仕事を斡旋すべきですが、それも古参の弟子が嫉妬しますね」
槍一郎が悩ましそうにつぶやいた。
秋月道場に通う者は、生活の苦し者が多い。
歩のいい仕事を深雪ばかりに斡旋するわけにはいかない。
それに深雪は女だ。
何か間違いがあってはいけない。
女だからこそ任せられる仕事もあれば、女だからこそ頼めない仕事もある。
「ぼて振りが、朝から晩まで一日足を棒にして売りあるいて四百文。
大工の日当が銀四匁から六匁。
傘張や提灯作りの内職だと、二百文も稼げれば御の字だが、通いとはいえ深雪にそんな事は不可能だからな」
虎太郎は言葉に出しながら思案した。
秋月家の副業を手伝う事で三食を保証されている深雪が、それを放り出して内職などしても、実家の食費に消えてしまうだけだ。
内職しながら食事を保証すれば、これも古参の弟子たちが嫉妬する原因にもなる。
「おじい様、父上。
女しかやれない用心棒を探してやるのではどうでしょう?
江戸中の口入屋に、秋月道場推薦で、女専門の用心棒を引き受けると伝えれば、それなりの仕事が入るのではありませんか。
これなら古参の弟子たちも文句は言いますまい」
槍一郎が虎太郎に提案する。
「ふむ。
駄目で元々で試してみるか」
「用心棒の日当」
1:町娘のボディー・ガードが三日で一両(七〇〇〇文)
2:道場の剣術指南が三日で一分(一七五〇文)で食事つき
3:幕府高官の護衛が一日に二分(三五〇〇文)で食事つき
4:大工の日当が銀四匁(四四〇文)
5:ぼて振りの一日の売り上げ四〇〇文
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