疑問

 ここに来てから一時間程だった。

 しかし、その中で僕はある疑問が頭に浮かんでいた。


 それは、いつ泳ぐのか?ということだった。


 というのも、ここに来てからウォータースライダーを滑り、流れるプールを歩き、水分補給にと売店で飲み物を買って休む。そして、再びウォータースライダーに行き……という流れだった。


 人が全くいないんだ。泳ぐことだってできる。

 現に普通のプールにはほとんど人はいない。

 まさかとは思うが……


「ねぇ、そろそろ泳がない?」


 再び流れるプールに行こうとした倉田さんの後ろから僕はそう声をかけた。

 さぁ、どんな反応をする……?


「き、桐谷が来てからにしましょうよ……」


 何故かどもる倉田さん。

 うん、決まりだな。

 というか、桐谷さんも何してるんだよ。

 未だに姿を見せないし。


「桐谷さんがいつこっちに来るのかもわからないしさ、疲れないうちに泳ごうよ。せっかく人もいないんだし」


「あ、あなたがそこまで言うなら仕方ないわね……」


 ガチガチに固まった身体を動かし、歩いていく倉田さん。

 うん、右手と右足が同時に出ちゃってるよ。

 昔のロボットでもあんなコミカルな動きしないよ。

 あんな風に緊張する人初めて見た。


 素直に泳げないって言ってくれたらいいのに……


 そんなことを思いながら、僕達はプールに入った。


「……」


 入ってすぐ、倉田さんは表情を曇らせる。

 かと思えば、すぐに潜り、バシャバシャと泳いでいく。


「お、おお……?」


 こ、これはまさか?


「ぷはっ……」


 そして、少し経ってから顔を上げる。


「……」


 そして、すぐ横にいる僕。


「あ、あれ、あなた歩いて移動したの?」


「いや、ここから動いてないよ……泳いでるはずの倉田さんが何故か後ろに下がってきたんだよ……」


 僕は自分の目を疑ったよ。

 ものすごい水しぶきを上げたから、泳いでるのかと思ったら、ただ動かしてるだけだったなんて。しかも、ゆっくりこっちに下がってきたし。


「泳げないんだね、倉田さん……」


「……」


 僕のその問いに倉田さんは恥ずかしそうにゆっくりと頷くのだった。

 プールに行きたくなかった理由はこれか……

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