プール

「そ、それじゃあ行こうか……?」


「そうね」


「そうだな」


 一時間後。準備の整った倉田さん、桐谷さんとともに家を出る。

 しかし、二人共、相変わらずテンションがずっと低く、僕としても少し気がかりである。


 そんな状態で駅まで向かい、電車に乗り、揺られること一時間程で目的地へと辿り着いた。その間、誰も何も話さなかった。

 いや、話しかけてもすぐに会話が終わってしまうのだ。

どうしたもんかと悩むしかなかった。


 そして、駅を出てから、歩くこと五分。


「おお……」


 でかい建物が僕達の目の前に現れた。

 これはプール施設っていうより、レジャー施設だな。

見た感じ、今はオープン前だからプール以外は開いていないようだけど。


 入り口の近くに警備員さんがいたので、チケットを見せて、通してもらう。

 そして、中の受付のところで再びチケットを見せ、表に名前を書いていく。


「それじゃあ、着替えて中で集合でいいよね?」


「ええ、それじゃあ後でね」


 そう言って、倉田さんと桐谷さんは女子更衣室の方へと向かっていった。


「……」


 その後ろ姿を見つめながら、僕も男子更衣室へと入っていくのだった。













 ♦︎













 水着に着替えた後、僕はプールサイドで二人が来るのをそわそわとしながら、待っていた。

 い、いよいよ二人の水着を見るのか……

 そわそわというより、むしろドキドキしてしまう。


 それにしても人が少なくていいな。

 僕は緊張をほぐすように周りを見回した。

 プレオープンだけあって、人はかなりまばらだった。

 家族連れと僕達のようなグループが数組いるくらいだった。

 みんな、この大きなプールを楽しんでいた。


「お、お待たせ……」


 と、そんなことを思っていた時、後ろから声をかけられた。

 その声の主が倉田さんと分かり、僕は後ろに振り向いた。


「……」


 振り向いた瞬間、僕は言葉に詰まった。


「変じゃない?」


「う、うん、大丈夫……似合ってるよ……」


「そ、そっか……」


 僕からそんな言葉を言われると思ってなかったのか、倉田さんは恥ずかしそうに俯いた。無理もないだろう。僕自身、そんな言葉を言うとは思ってなかった。


 予想はしていたとはいえ、こうして倉田さんの水着姿を目の当たりにすると反応に困ってしまう。

 誉める誉めない以前にまともに直視すらできない。

 控えめな水着を着てくるのかと思ったら、なんと予想を大幅に良い意味で裏切るビキニ姿で倉田さんは現れた。


 おかげで、そのスレンダーなボディがやけに強調されてて、腰から上がほとんど見れていない。

 かといって、腰回りもやたらきゅっと絞まっていて、もはやそれは生き地獄に近かった。

 思春期の男子にとって眼福ともいえるシチュエーションだが、実際、そういう場面に遭遇したら戸惑ってしまうのが現実だった。


「と、とりあえず準備運動してからプールに入ろっか……」


 僕は恥ずかしさを隠すようにそそくさとプールサイドに移動した。


「そ、そうね……」


 倉田さんも恥ずかしいのかどことなく、動きがぎこちない。

 意識しなくても意識してしまう。そんな状態だった。


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