忘れ

 待ちに待った週末。

 いや、待ちに待ったわけではないが、この日が来るまでずっとソワソワしていたのは確かだ。だって、二人の水着姿を拝め……ではなく、見れるのだ。

 ソワソワしないわけがない。

 今は朝の九時。僕は部屋ですでに身支度を済ませていた。


 さっき、朝食を食べた時は二人ともまだ部屋着だったけど、準備してくれたのかな……

 そんなことを思いながら、僕は部屋を出て、リビングへと入る。


「あら、着替えてどこかに行くの?」


 リビングに入ってすぐソファに座っている倉田さんが僕の姿を見て、そう聞いてきたので、僕はかなり拍子抜けしてしまった。


「え、えっと、今日はお父さんのくれたチケットでプールに行くんじゃなかったっけ……?」


「あら、そうだったわね。それじゃあ、今から準備するから一時間程待っててくれる?」


「う、うん。わかった……」


 そう言った後、倉田さんはリビングを出ていった。


 あの反応、忘れてたのかな……?

 でも、倉田さんに限って、それは無さそうだけど……

 と、とりあえず準備が終わるまで待つか……


 僕はケトルでお湯を沸かし、コーヒーを淹れる。

 そして、イスに座り、テレビを見ながら、コーヒーをすすっていると。


「……」


 リビングに桐谷さんが入ってきた。

 が、何故か、汗だくである。

 おまけに普段と違い、ジャージ姿だ。


「ど、どうしたの、その汗!?」


 慌てて、駆け寄る。


「なんでもない……トレーニングしていただけだ」


「と、トレーニング……?」


 こんなに汗だくになるトレーニングを外でしてきたってことなのかな……

 しかも、年頃の女の子が……


「とにかく、汗を流してくる……」


 そう言って、リビングから出て行く桐谷さん。


「きょ、今日はプールに行く日だけど、大丈夫……?」


「ああ、そういえば、そうだったな……汗を流した後、準備をするから、待っててくれ」


 そして、足早に洗面所へと消えていく。


 そういえばって、桐谷さんも忘れてたのかな……?

 二人揃って、忘れるなんてことあるのかな。

 それとも、何か行きたくない理由があるとか……?

 でも、それならチケットが届いた時点で捨てればいい話だよね……

 ま、まぁ人間だし、忘れちゃう時もあるよね。

 あまり考えすぎないようにしよう。


 僕はなんとか自分に言い聞かせ、深く考えないように努めた。

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