正体

 翌日。昼休みにて。


「今日は紹介したい人がいるの」


 いつも通り、屋上でご飯を食べていると倉田さんが改まった様子でそう言ってきた。


「え、うん、わかった……」


 僕は食べ進めていた箸を止めて置いた。


 誰だろ……

 学校だから、生徒の誰かな。

 いや、あえての教師ということもある。

 僕はゴクリと喉を鳴らした。

 それに倉田さんから、紹介するってことは許嫁関係なのかもしれない……


「こんにちはー」


 そんな挨拶と共に一人の人物か僕の前に現れた。ん、あれ、今の声は……


「あれ、奏多さん?」


「あ、やっぱり香澄ちゃんだったのか」


 僕は安堵の息を吐いた。

 そうか。今日が転校初日だったのか。


「え、何、二人は知り合いなの?」


 倉田さんは驚いたように声を上げる。


「うん。まぁ色々あってね。引越しの手伝いしたりとか色々」


「へぇ……いつのまに」


「いや、それよりもなんで倉田さんが香澄ちゃんを紹介するの?」


「これでも一応、私の許婚だからよ」


「これでもってなんですかー」


「だって、あなたのその格好。まさかとは思ったけど、わざわざ女子用の制服なんてね。

 よく学校側が許可したものだわ」


 倉田さんは呆れたように肩を竦めた。


「へへへ、可愛いから許可するって言ってもらいました」


「全く……」


「え、いやいや、ちょっと待って」


 僕はそんな二人の間に割って入った。


「どうしたの?」


「香澄ちゃんは女の子なんだよね?なんで倉田さんの許婚に……?」


「あ、こう見えても僕、男の子なんです」


「……」


「本当だぞ」


 僕達の様子を見ていた桐谷さんが肩を叩きながら、言ってくる。


「ええええ!いやいや!嘘でしょ!こんな可愛いのに!?」


「「可愛い……?」」


 僕の言葉に何故か、やたら反応し、こちらを睨んでくる倉田さんと桐谷さん。


「いやだ、もう。可愛いなんて……」


 一方、頬を染め、嬉しそうに身体をくねらせる香澄ちゃん。

 なんかもう、反応が女の子そのものなんですけど!?


「まぁ可愛いかどうかは置いておいて、男の子なのは本当よ。だから、許婚の一人に選ばれたの」


「えええええー……」


それじゃあ、香澄ちゃん、いや、この場合は君付けの方がいいのか……?

とりあえず、彼はネットなんかでよく見る男の娘ってこと……?

いや、もう本当に女の子にしか見えないんだけど……


「まぁ僕は興味ないんですけどね……でも、お嬢様のお父様が言ってくるから、とりあえずそういうことになってます」


「そ、そうなんだ……」


 って、お嬢様……?


「なんか、倉田さんの呼び方が桐谷さんに似てるね……」


「まぁいとこだからな」


「ええええー」


「さっきから、えーしか言ってないぞ、お前」


「いや、だってさー……」


 だから、名字が同じだったのか……

 にしても、色々詰め込み過ぎだって。

 全然脳の処理が追いついてないよ……


「まぁ、前と違って、この子は無害だから大丈夫よ。私達の関係も既に話してあるから」


「え、あ、そうなんだ」


 それならよかった。遠藤さんの時みたいなのはごめんだからな。


「まぁ仲良くしていきましょ」


「はい!よろしくお願いします」


 言いながら、香澄ちゃんは深々と頭を下げた。


「え、あ、こちらこそ……」


 それを見て、僕も頭を下げた。

 うーん、ますます広がりを見せることになってきたな……

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