センス

 翌日の朝の9時過ぎ。


「本当にありがとうね」


「ううん。元気になって良かったよ」


 倉田さんはすっかり体調が良くなったようだった。

 単なる風邪でよかったとは思う。


「あなた達、ご飯まだよね?早く作っちゃうわね」


「あ、いや、その前に相談があるんだ」


 僕は倉田さんが動こうとしたので、止めた。


「相談?」


「うん。少し考えてみたんだけど、倉田さんが風邪をひいたのは僕達が原因なんじゃないかって」


「あなた達が?」


「うん。ここでみんなで住むようになってから、僕達のために何も言わずに家事を引き受けてくれてたでしょ?ご飯だって、毎回手料理を作ってくれてたし」


「確かにそうだけど……」


「倉田さんが風邪をひいて、改めて自分達が何もしてないなって思ってさ。だから、一緒に暮らす以上、家事の分担をしたいって思って」


「……」


「とりあえず、今日の朝ごはんは僕が作るよ。倉田さんはゆっくり休んでて。で、ご飯を食べてから、具体的にどう分担するか、話し合いたいんだ」


「ありがとう。わかったわ。それじゃ、朝ごはんはお任せするわね」


 というわけで、僕は早速台所に立った。

 しかし、引き受けておいてなんだが、台所にまともに立つなんていつぶりだろう。

 いやいや、何を気負いしているんだ。

 朝ごはんくらい簡単だろう。


 そう思い、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出す。

 よし、目玉焼きとベーコンを焼こう。

 ベーコンエッグという選択肢もあったが、さすがにいきなりは成功する気がしない。


 僕はフライパンに油を敷き、熱していく。

 そして、少し温まったところで卵を落としていく。

 よし、あとはこのまま熱していけば……













 ♦︎













「あのね、聞きたいんだけど」


「はい……」


「あなたは目玉焼きを作ってたのよね?」


「はい……」


「どう考えても、これはスクランブルエッグだと思うのだけれど」


「すいません……自分でもどうしてこうなったのか……」


「まぁ食べられないわけではないからいいけれど……色々教える必要がありそうね」


 いいながら、倉田さんは目玉焼きもといスクランブルエッグを口に運んでいった。

 はぁ……自分の料理のセンスの無さにびっくりする……

 これじゃ、倉田さんの負担を軽くするどころか増やしてる気がするよ……

 誰かに相談できないかな……

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