急用

 二人でアパートを出てから、商店街の方へと向かう。

 週末ということもあり、商店街はかなり混み合っていた。


 その中で僕達はファミレスを見つけたので、中へ入る。

 中はかなり混んでいたが、まだ席は空いており、テーブル席へ案内される。


 席についてから、香澄ちゃんは早速タブレットを手に取り、料理を注文していく。


 そして、程なくして料理が運ばれてくるのだが、本当に食べ切れるのかって感じの量を注文していた。


 パスタにピザ、ハンバーグ、おまけにポテトにサラダって……

 大丈夫なのかな、こんなに……


「それじゃ、いただきます……」


 手を合わせて、そういうと香澄ちゃんはまるで火がついたかのように猛烈な勢いで、料理を食べ進めていく。


 あっという間にピザが無くなったかと思うと、次はパスタ、最後にハンバーグと次々と胃に運んでいく。


「……」


 僕はその様子を呆気にとられながら、見ていた。

 見かけによらず、すごい大食感なのかな……

 にしたって、この量をあんな軽々とよく食べられるな……


 僕はピザを頼んだのだが、香澄ちゃんの様子を見ているだけでお腹いっぱいになりそうだった。


「はー、美味しかった……」


 全ての料理を完食した香澄ちゃんは、ナフキンで口を拭き、満足そうな顔を浮かべる。


 しかし、おれが香澄ちゃんのことをジッと見ていたので、顔を火照らせ、慌てたように取り繕う。


「す、すいません……!朝から何も食べてなかったので……」


「いや、別に大丈夫だよ。すごい食べるんだなぁとは思ったけど」


 僕は笑いながら、そう言った。


「す、すいません……」


「それでお腹いっぱいになった?」


「そうですね……で、デザート頼んでもいいですか?」


 僕の問いに恥ずかしそうにしながら、小さく言う香澄ちゃん。

 僕はそれを見て、やっぱり女の子だとデザートは別腹なのかなと思い、少しだけ微笑んでしまう。


 結局、その後、香澄ちゃんはケーキを三つも食べて、大変満足そうな顔をしていた。

 うーん、是非とも、倉田さんの料理を食べてほしい。

 彼女の美味しすぎる料理を食べたら、香澄ちゃん、きっと喜ぶんだろうな。

 一度、倉田さんに紹介してみようかな。

 そういう機会があればだけど。














 ♦︎














「なので、こういうコーデにすることで……」


「なるほど……」


 ご飯を食べ終えた僕達はジュースを飲みながら、盛り上がっていた。


 というのも、恥を忍んで香澄ちゃんに服のことについて相談したところ、服に詳しいようで色々とアドバイスをしてくれていたのだ。


「いやー、本当に助かるよ、ありがとう」


「いえいえ。これくらいなんともないです。その気になる方と上手くいくといいですね」


 言って、香澄ちゃんは微笑む。

 香澄ちゃんには倉田さんのことは名前を伏せた上で、気になる人と言ってある。


「そうだね、ありがとう」


 と、僕がそう言った時、ポケットに入れていた携帯が震えた。


「ん?」


 僕が携帯を取り出すと、なんと桐谷さんから電話がきていた。

 彼女から電話が来るなんて一体、どうしたんだろう……


 僕は少し不安を抱えつつ、電話に出た。


「もしも……」


「奏多!今すぐ帰ってきてくれ!」


 被せ気味に焦った様子の桐谷さんの声。


「ど、どうしたの!?」


「お嬢が、お嬢が……」


 いつもクールな彼女がこんなに取り乱すなんて、何があったんだ……!?


「とにかく、すぐに帰るよ……!」


 僕は急いで、電話を切ると、席から立ち上がった。


「ごめん!ちょっと帰らなくちゃいけなくなって……!」


「みたいですね……私のことは気にせず、早くいってあげて下さい」


「ありがとう!」


 僕は力強く返事をすると、ファミレスから出ていった。

 ああ、もちろん、きちんとお会計をした後で。

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