引越し
ショッピングモールから歩くこと三十分。
ようやく、彼女が住むアパートにたどり着いた。
一階に住んでいるようで、鍵でドアを開け、運んできた荷物を中に入れる。
「はぁはぁ……」
僕は息を切らせながら、最後の力を振り絞った。
こ、こんなに遠いとは思わなかった……
それに自分の体力の無さを痛感したな……
「疲れましたよね、ありがとうございます」
そんな僕の様子を見て、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ、いや、自分で選んだことだから、気にしないで」
なんとか息を整え、そう言う。
「それじゃあね」
僕は踵を返して、そこから離れようとする。
「あ、あのよかったら、お茶でも飲んで行きませんか?」
すると、彼女はそんなことを言ってきた。
「いいの……?」
一人暮らしの女の子の家に男を上げるなんて、結構勇気がいると思うが……
まぁ変なことをするつもりは毛頭ないし、何より彼女はそんなつもりで声をかけたわけではないだろう。
「もちろんです。お礼の気持ちも込めて……」
「そういうことなら、お言葉に甘えようかな」
そうして、僕は彼女の家へと入っていった。
「まだ全然片付いていないんですけど……」
恥ずかしそうに言う彼女。
確かに家の中には段ボールの箱が沢山積まれてあった。広さ的には1K程度だと思われる。
「荷ほどき大変だね」
「まぁボチボチやっていきます」
苦笑いを浮かべながら、冷蔵庫から取り出したお茶を注いだコップを運んできてくれる。
そして、それを小さなテーブルの上に置いてくれる。
「どうぞ」
「ありがとう」
僕はお礼を言うと、コップに口をつけた。
実のところ、かなり喉が乾いていたので、水分補給をしたかったところなのだ。
「そういえば、名前聞いてなかったね。僕は高木 奏多だよ。二年生なんだ」
「あ、私は桐谷
「そうなんだ。ん、桐谷……?」
まさかな……?
それに桐谷なんて沢山いる名字だし。
「どうかしましたか?」
「ううん。なんでもない。それより、お腹空かない?」
僕は携帯に映し出されている時刻に目をやると、もうすぐ昼の十二時になるかというところだった。
「そうですね……」
「何か食べに行こうか、よかったらご馳走するよ」
「え、そんな悪いですよ……」
「まぁ引っ越し祝いってことでさ」
それにたまには外食もしたいなぁと思っていたところだったので、良いタイミングだと思ったのだ。
「そ、そういうことなら……ありがとうございます」
香澄ちゃんはペコリと頭をを下げて、少し嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔がものすごく可愛くて、僕は少しだけ顔を逸らしてしまうのだった。
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