怒っている

 夜の八時を過ぎた頃、僕は藤堂さんと共に道を歩いていた。

 ネコカフェを出てから、ファミレスで軽い晩ご飯を食べていたので、こんな時間になってしまった。陽も落ち、辺りもすっかり暗くなってしまったので、藤堂さんを家まで送ることにした。


 しかし、ファミレスではどうやって僕と倉田さんが付き合ったのかとか、好きなところはどこなのかとか、根掘り葉掘り聞かれてしまった。おかげで隠すのが大変だった……

 帰ったら、倉田さんに話を合わせてくれるように話しておかないとな……


「ネコちゃん達、可愛かったね」


 僕がそんなことを考えていると、隣を歩く藤堂さんが顔を綻ばせながら、そう言った。


「そうだね」


「また行こうね?」


「え、う、うん……」


 藤堂さんのその言葉に僕は少しだけ、というか、かなり戸惑ってしまった。

 また行こうねって、それはネコ目当てなのかな……

 いや、藤堂さんのことだから、きっと気を使ってそう言ってくれただけだ。深い意味はないに決まってる。事実、今日のことも僕のことを聞くために来たようなものじゃないか。

 変な期待はしないようにしよう。

 それより、僕は倉田さんとの距離を縮めないといけないんだから。













 ♦︎











 マンションのエレベーターを降りた辺りで、ふと思った。

 そういえば、倉田さんに遅くなることと、晩ご飯いらないって言うの忘れてた。

 倉田さんのことだから、作って待ってくれていたりする気がする。

 うーん、お腹はいっぱいだけど、自分のせいだし、食べないとな。


 そう思いながら、玄関のドアをガチャっと開ける。


「ただいまー」


 僕は靴を脱ぎながら、言ったが、中から返事はない。

 あれ、いないのかな……?

 でも、リビングの電気はついてるしな。


 どうしたんだろうと思いながら、リビングへと入る。

 リビングにはソファに座る倉田さんがいた。

 なんだ、いるんじゃないか。


「ただいま」


「あら、おかえりなさい」


 倉田さんは僕の方に振り向くと、ニッコリと微笑んだ。気持ち悪いくらいに。何故か、背筋にぞっと寒気が走る。


「遅くなるなんて思ってなかったから、ご飯作っちゃったわよ」


「ああ、ごめんね……」


 言いながら、倉田さんはソファから降り、台所へと向かった。

 そして、棚から何かを取り出し、それをテーブルの上にダン!と置いた。


「はい、晩ご飯」


 倉田さんが置いたのは、カップ麺の容器だった。


「え……?」


「ほら、晩ご飯。食べてね」


 ニッコリと微笑む倉田さん。

 これは……怒っているのか……?


「ええっと……」


「ほら、遠慮しないで」


「あ、う、うん……」


 僕はこれ以上、倉田さんを怒らせないように機嫌を伺いながら、ケトルでお湯を沸かせた。


 なんでかわからないけど、ものすごく怒っているみたいだ……

 今度から、ちゃんと連絡しないとな……

 僕はそう反省しながら、出来上がったカップ麺をすするのだった。


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