奇妙な偶然


 ネコカフェに来てから、早一時間。

 未だに目は見れないが、ようやく落ち着いた僕達は、頼んだドリンクを飲みながら、ネコと戯れていく。ちなみに僕はオレンジジュース、倉田さんはコーヒーを飲んでいる。


「あなたもネコ好きだったのね。なんだか、意外ね」


「そ、そうかな?」


 僕のあぐらの上に座っているマンチカンのネコの毛を撫でながら、そう返事をする。


「ええ、そもそもあなたって好きなものあったのね」


「そ、それくらいあるよ……」


 結構心外なセリフだなぁ……

 さすがに傷つくぞ……


「ああ、ごめんなさいね。そういうつもりじゃないんだけど、あなたって結構無趣味っぽいから。家だって、すごくシンプルだったし、あまり物事とかに興味ないのかなって思ってね」


「ああ、なるほど……」


 確かに言われてみれば、そうかもしれない。

 趣味といえるものは何一つないしな。

 僕って、結構寂しい人間だったんだな……

 いや、待てよ?

 逆にこれは使えるんじゃないか?


「実は、今、趣味というかハマれるものを探しててさ。倉田さんって何かハマってるものってあるかな?好きなものとかさ」


 だから、僕はこう言ってみた。

 これなら、倉田さんの好きなものを知ることができるし、何より上手くいけば共有もできると思ったからだ。我ながら、よく考えたと思う。


「そうね、好きなもの……強いて言えば、映画かしらね」


「映画?恋愛ものとか?」


「うーん。たまには見るけど、そこまでね。SFとかアクションものをよく見るわよ」


「そうなんだ。なんだか意外だね」


「よく言われるわ」


 そう言って、倉田さんは苦笑を浮かべた。


「じゃあ、今度おすすめの映画とか一緒に見てくれないかな?レンタルしてきたやつとかさ」


「ええ、いいわよ。じゃあ今度借りに行きましょうか」


「う、うん。ありがとう!」


 よしよし、いい感じに聞けたし、中々の反応だぞ。僕は心の中でほくそ笑んだ。

 それに、今日一日で結構な前進をしたと思う。この調子でどんどん、色々と進展させていこう。


「それよりさ、少し気になったんだけど、倉田さんってかなりのネコ好きっぽいのに、ネコ飼ってないのね?」


 一度、家に行っただけだから、会わなかったかもしれないが、ネコが住んでる形跡も見られなかった。


「ええ、父がね。ネコアレルギーだから、飼えなくて」


 言いながら、倉田さんは少し寂しそうな顔をした。小さい頃は飼いたい、飼いたいって揉めたのかな。そういえば、僕も小さい頃は犬がほしいってすごい親に言った記憶がある。

 どうせ、世話ができないだろうって一蹴されてしまったけど。


「あ、そうなんだ。あのさ、不躾な質問だけど、お父さんってなんの仕事してるの……?」


 そして、僕はかねてからの質問をそこでしてみた。


「あら、言ってなかったかしら?医者よ。大学病院で働いてるわ」


「大学病院……?」


「ええ。駅前にあるでしょ?」


「ああ、うん……」


 倉田さんの言葉を聞いた瞬間、僕はその言葉が引っかかり、ネコを触るのをやめてしまった。突然、触られるのをやめられて、ネコも不本意そうに鳴いているが、それよりも気になることができてしまった。


 というのも、僕の両親が働いてるのもその大学病院なのだ。

 もちろん、大きな病院なので全く面識がないという可能性もある。

 しかし、何故かそれはないような気がした。

 果たして、これはただの偶然なのだろうか……?

 それとも、何か仕組まれているのだろうか……

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