ネコ

 二人で学校を出てから、ショッピングモールへと向かう。

 ショッピングモールへは、学校から20分ほどで到着し、エスカレーターを使い、目的地のネコカフェがあるフロアへと降り立つ。


「いらっしゃいませー」


 カフェに入ると店員さんの挨拶が聞こえてくる。と、同時にドア越しにわらわらとネコ達が集まっているのが見えた。

 平日だからか、別のお客さんはほとんどいないようだった。


 とりあえず二時間のプランを選択し、ドアを開けると一気にネコが押し寄せてきた。


「ネコちゃん……」


 そんなネコ達を見て、恍惚の表情を浮かべる倉田さん。なんか手がワキワキしてるけど、大丈夫かな……?


 はぁはぁと激しく息を切らしながら、ネコに近づいていく。うん、これは大丈夫じゃないね。その様子を見ながら、僕はそう悟った。

 案の定、危険を察知したのか、一斉にネコ達は倉田さんの周りから離れ、今度は僕の周りに集まってくる。


「にゃおーん」


 そして、その中の一匹が人懐っこい声ですり寄ってくる。


 この子はマンチカンかな。ふさふさしてて、とてもかわいい……

 僕が手を伸ばし、喉の下を触ると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。

 それを皮切りに他のネコ達も触ってくれと言わんばかりに寄ってくる。

 僕は床に腰を下ろすと、手当たり次第に触っていく。ははは、かわいいな。こんなに人懐っこいネコ達だなんて。ほれほれ。


「なんで、あなたなのよ……私がこんなに愛しているというのに……」


 すると、その光景を見て、激しい憎悪と哀しみを向けてくる人物が一人。

 やばい、まさかのヤンデレ属性持ちか……?

 それは予想外すぎる。というか、キャラ変しすぎだよ……


「とりあえず、私にもよこしなさい!」


 倉田さんは、いきなりそう叫ぶとまるで飛びかかるようにこちらに迫ってくる。


「うわわ……!?」


 しかし、床がツルツルしていたため、靴下との摩擦がほとんどなく、そのまま勢いよくこちらに覆いかぶさるように転倒してしまう。


「いてて……って……!」


 軽く床にぶつけてしまった後頭部をさすりながら、ゆっくりと目を開けると、目の前には僕の胸の上に乗っかっている倉田さん。

 少しだけだが、抱きしめるような形になってしまっている。ほんのりと良い匂いが漂ってき、柔らかい肌の感触が伝わってくる。


「いたた……」


 やや遅れてから、彼女も目を開ける。

 そして、自分がどういう状況になっているのか、確かめるように、ゆっくりと上目遣いで僕の方を見てくる。


「……!」


 目があった瞬間、途端に赤くなる顔。

 それを見て、僕の顔も一気に赤くなっていくのが分かる。


「ご、ごめんなさい……!」


 倉田さんはそう言うと、慌てて僕の上から離れ、起き上がる。

 そして、恥ずかしいかったからか、少し距離を取った所に座る。

 そんな倉田さんを見てか、何匹かのネコが近寄ってき、ピタッとそばに寄る。慰めているのだろうか。


「……」


 倉田さんは無言でそのネコ達を撫でている。

 ネコ達もどことなく、嬉しそうだ。

 倉田さんも少しだけ微笑んでいるように見える。


 一方の僕はバクバクと鼓動を刻む心臓を抑えるのに精一杯だった。

 ものすごい至近距離に倉田さんの顔があった。それこそ、少し距離を縮めれば、お互いの顔が触れ合ってしまうほどにって、何考えてんだ……!


 しかし、考えないようにしてもどうしても、触れ合った肌の温もりや感触を思い出してしまう。


 こりゃ、しばらくは目を見て話せそうにないかもしれないな……

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