お誘い
ようやく待ちに待った昼休みになった。
屋上にて、三人揃って倉田さんの作ってくれたご飯を食べる。
そして、あらかた食べ終えたところで僕は話を切り出した。話とはもちろん、ネコカフェのことである。
「ってことなんだ。よかったら一緒に行ってくれないかな?」
いきなり、一緒に行かない?と誘うのも、勇気がいるし、何よりそれは完全なるデートのお誘いになるので、新しくできたネコカフェに行ってみたいのだが、男一人だと少し恥ずかしくて、一緒に行ってほしい。という程にしておいた。めちゃくちゃネコ好きってわけではないけど、まぁこの際、許してほしい。
「いいわよ。実は私も少し気になっていたの」
「本当?よかった……」
すんなりと倉田さんがそう返事してくれたので、僕は安堵した。
しかし、問題はもう一つあった。
「桐谷さんも行くかな……?」
そう。この場には桐谷さんもいる。
彼女だけ除け者にはできない。かといって、コソコソと倉田さんだけを誘うのも、怪しまれると思ったので、あえてこの場で言うことにしたのだ。
「ああ、桐谷なら行かないわよ」
しかし、本人に確認も取らず、何故か倉田さんはそう言った。
「え、なんで?」
「それはね……」
そこまで言ったところで、離れた場所で一人ご飯を食べていた桐谷さんの箸が鋭く飛んできた。むしろ、鋭過ぎて背もたれにしていた壁に突き刺さっている。僕のすぐ横に。
どんな腕力してるんだよ……
ってか、何故僕になんだ……
「お嬢。それ以上は」
「はいはい。ごめんなさいね。と言うわけだから、桐谷は行かないから」
「わ、わかった……」
僕はゆっくりと突き刺さっている箸を触ってみる。しかし、力を入れても全然抜けない。
まさか、箸が凶器になるなんて、思っても見なかったよ……
それよりも、誘うことには成功した。
後は上手く会話を盛り上げて、色々と聞いていこう。桐谷さんが何故行かないのか、いや、むしろ行きたくないのかもしれないな。
その理由が何故なのか、すごく気になるが、気にしないようにしよう。もしかしたら、僕のことが嫌いだからかもしれないし……
「あ、そういえば、気になってたんだけど、なんで毎回屋上のカギって開いてるの?」
屋上は確か、転落防止などの理由から原則利用はできなくなっている。使うにしても、許可がいるはずだ。しかし、その許可を昼休みに使いたいという理由で下ろすはずがない。
「ああ、それは桐谷のおかげよ」
「え、桐谷さんの?」
「ふん。これくらいのセキュリティどうってことはない」
言いながら、腰元に付いていた工具らしきものを取り出す。ってか、何付けてんのさ……
「要するにピッキングってこと……?」
「その辺りは言えないわね」
言いながら、涼しい顔でお茶を飲む倉田さん。
うーん、相変わらず、めちゃくちゃだ……
僕は箸で掴んだご飯を口に入れながら、そう思うのだった。
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