真実

「ただいまー……」


 程なくしてマンションへと帰ってきた。

 玄関のドアをガチャっと開けた後、一応言ってみる。しかし、案の定、中から返事はなかった。

 やっぱり、まだ帰ってきていないようだ。


 僕は靴を脱ぐと、そのままリビングへと向かい、ドアを開ける。


「やぁ、おかえりなさい」


 しかし、そこには予想外すぎる人物がイスに座っていた。


「え……どうしてここに……!?」


 僕は思いっきり目を見開いて叫んでしまう。


 なんと、倉田さんのお父さんが何故か家の中にいたのだ。

 パリッとしたタキシードなんか身につけている。なんで、またタキシードなんか着てるんだろうか

 いや、それよりも倉田さんと桐谷さんを呼び出したんじゃなかったっけ……?!


「どうしてって、私が買った家だぞ?この通り、カギを使って入ったし、何の問題もないと思うが?」


 言いながら、カギをテーブルの上に置く。


「そ、それは確かにそうですけど……」


 僕が言いたいのはそういうことじゃなくて……

 ああ、やっぱりこの人苦手だな……

 何を考えてるのか、わからないよ。


「まぁ私がここに来た理由はどうだっていい。それよりもキミと話がしたかったんだ」


「え、僕と……?」


「とりあえず、座りなさい。立ったままだとキチンと話もできないだろう?」


「え、あ、はい……」


 そう言われ、お父さんが座っている向かい側のイスに座る。

 一体、何の話なのだろうか……

 僕はごくっと喉を鳴らした。


「単刀直入に聞くが、キミは香澄のことが好きなんだね?」


「あ、は、はい……」


「どこが好きなのか教えてくれるかな?」


「ど、どこって……」


 いきなり、そんなこと聞かれても答えられないよ……

 何より、僕は彼氏のフリをしているだけなんだ。倉田さんをそういう目で見たことはない。しかし、このまま答えられないのも不自然だ……

 なんとか、上手く言わないと……


「りょ、料理上手なところですかね。胃袋を掴まれたと言うか、こんな手料理が毎日食べられたら幸せだなぁ……なんて」


 って、この言い方だと結婚を前提に。みたいに思われるんじゃないか……?!

 僕は言った矢先に後悔する。

 それに付き合う前から、手料理を振る舞ってくれるなんて、完全に倉田さんの方から脈アリだったってことになるよね……

 そんなわけないのに。


「はっはっは!なるほどね。胃袋を掴まれたか。しかし、それは無難な答えだな」


「ぶ、無難?」


「正直に言ってもいいんだぞ。キミはウソをついている。そうだろう?」


 お父さんにそう言われたとき、僕は心臓がドクンと跳ねるのがよくわかった。

 ここでバレるわけにはいかない……

 僕は必死に心の内を悟られまいとした。

 ポーカーフェイスをするんだ……


「う、ウソなんて……」


 しかし、肝心なところでどもってしまう。

 これでは、認めてるようなものじゃないか……


「言いづらいのなら、こちらからハッキリ言おうか。キミは香澄の彼氏などではないのだろう?あの子にフリをしてくれと頼まれたとか、大方そんなところだろう」


 そして、無情にもお父さんはそう言ってきた。

 もしかして、全てバレていたのか……?

 一体、どこから……


 永遠とも思える時間がその場にゆっくりと流れるのだった。

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