髪型とニヤニヤ
「はぁ、ようやく終わった……」
そう呟きながら、机の上に突っ伏す。
先ほど、午前の授業が終わったところだ。
寝不足な上に古文という最も眠気を誘う授業だったため、睡魔と闘うのがとても辛かった。なので、今が待ちに待った昼休みというわけだ。おまけに今日も倉田さんのお手製のお昼なので、それもずっと楽しみにしていた。
「それにしても遅いな……」
言いながら、教室にかかっている時計にチラッと目をやる。
昼休みに入ってから、そろそろ五分は経とうとしている。いつもなら、昼休みに入ってすぐに倉田さんが来ていたのに、遅いな。
もしかして、先に屋上にいるのかな?
とりあえず、隣の教室を見てみるか。いなかったら、屋上にいけばいいし、それでもいなければ、携帯に連絡してみよう。
というわけで、席を立ち、隣の教室へ向かう。
そして、ドアから教室の中を見てみると、何やら人だかりが。時折、女子達の色めき立つ声が聞こえてくる。何をしてるんだろう……
少しだけ気になっていると、その人だかりから、なんと倉田さんが出てきた。何故かフラフラとした足取りだった。
「ど、どうしたの?」
慌てて駆け寄る。
「え……あら、あなただったの。実は……」
と、倉田さんが何か言おうとしたその時。
「も、もうやめてくれ……!」
その人だかりから、誰かの大声で叫ぶ声が聞こえてきた。そして、その輪から抜け出してきて、僕の前にやってきた。今の声は……
「か、奏多!?どうして、ここに……?!」
そして、桐谷さんは僕の姿を見た瞬間、目を見開き、声を上げる。
「いや、昼休みになっても教室に来ないから、どうしたのかなと思って見にきたんだけど……」
言いながら、桐谷さんをチラッと見る。
「か、髪型変えたの?」
「違う!これはクラスの連中が面白がって……!」
そう言いながら、恨めしげに、どこか恥ずかしそうに桐谷さんを取り囲んでいた女子達に目を向ける。
桐谷さんはなんと、髪型をポニーテールにしていた。とても似合っているし、正直めちゃくちゃかわいいとさえ思ったのだが、それをこの状況で本人には言えないと思った。
「朝からずっとこの調子で遊ばれているのよ……」
倉田さんはやれやれと言った様子で首を横に振った。
「だってさー、桐谷さんの髪、サラサラだし、色々似合うんだもん」
すると、桐谷さんを取り囲んでいた女子の一人がそう言った。
「あなたもそう思うでしょ?」
そして、あろうことか僕に話を振ってきた。
「え……あ、その……うん、似合うと思うけど……」
なんで僕に振るんだよ……!
まぁ似合ってるのは、本当なんだけどさ……
「お、お前まで、何を言っているんだ……!」
急に顔の赤みが増した桐谷さんはそう言ってから、結んでいた髪の毛のゴムを取ってしまった。
取った瞬間、周りから残念がる声が聞こえてくる。
「ほら、早く行くぞ!」
そして、ズンズンと教室から出て行ってしまった。
「なんか、見たことない反応だったね。それに桐谷さんって、男子と話すんだ。クラスの男子とは一切口聞いてないのに」
すると、その様子を見ていた女子の一人がボソッとそう言った。
「……」
口下手だから話せないってわけじゃないよね……?
嫌われてると思ってたけど、案外そうじゃないのかも……
「なんか、ニヤニヤしているけど、どうしたの……?」
すると、僕の様子を見ていた倉田さんが怪訝そうに言った。
「え、ニヤニヤなんかしてた?」
「ええ、そりゃ気持ち悪いくらいに」
「そ、そうだったんだ、気をつけるよ……」
気持ち悪いくらいって、かなり傷つくな……
それにしても、嫌われてないってわかっただけで、こんなにニヤつくなんて、僕って案外単純なんだなと思う……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます