別の人


「え、遠藤さんが倉田さんの許嫁……?!」


 僕はその言葉が信じられずに、二人の顔を交互に見てしまう。

 ま、まさか遠藤さんが許嫁だったなんて……

 想像もしてなかったよ。いや、でもこの前呼び出されたのも、そういう理由なら納得がいく。

 しかし、てっきり、勝手なイメージだが、どこかの会社のボンボンが相手だと思ってた……

 いや、もしかして、遠藤さんは実は大企業の息子とか……?

 そんな話聞いたことないけど、深く知っているわけではないし、ありえない話ではないと思う。


「うるせぇぞ。お前は黙ってろ」


 遠藤さんは言いながら、こちらをギロリと睨んでくる。

 うーん、失礼だが、もし彼が社長の息子だったりしたら、ものすごく嫌だな……

 なんというか、上から目線というか、立場の弱い人を下に見てそうな気がする。


「そんな言い方やめて。彼は私にとって大事な人なのよ?」


 その言葉を聞いた瞬間、遠藤さんは怒りのあまりに近くの壁をドンと殴りつけた。

 殴った先はコンクリートでできた壁。痛くないはずがない。無論、手からは血が出ているが、まるでその痛みを感じていないように見える。それほどまでに怒っているというか……

 それほど倉田さんのことを想っているのか、それとも別の理由か。

 勝手な憶測だが、後者の意見だと僕は思った。


「なんで、こいつなんだよ?なんで、こんな奴に負けんだよ……?!」


「こういうのは勝ち負けじゃないわ。それにあなたのそういう性格も相入れないと思っているの」


「そういうわけだ。だから、さっさと帰れ」


 矢継ぎ早に、しっしっとまるで犬でも追い払うように、手を振る桐谷さん。

 それを見た瞬間、限界に達した遠藤さんが襲いかかってくる。


「ふざけんじゃねぇ!」


 まずはすぐ目の前までやってきていた桐谷さんに追いかかる。


「やれやれ、忠告はしたのにな……」


 ため息を吐きつつ、そう言って、近づいてくる拳をゆっくりと掴んだ後、そのまま、その勢いを緩めることなく、遠藤さんの身体ごと背負うと一気に地面に叩きつける。


「が……?!」


 背中から思いっきり、地面に叩きつけられたしまった遠藤さんは苦痛に顔を歪ませ、そのまま、気を失う形で地面に倒れ込んでしまった。


 せ、背負い投げ……

 あれって、あんな簡単にできるものなのか……?

 体格もまるで違うのに、あんなあっさりと……

 すごすぎる……


「さぁ、お嬢。帰りましょうか」


 パンパンと服についたホコリを払い、桐谷さんは冷静に言う。


「そうね。でも、この調子だとまた別の人が現れるかもしれないわね……」


 倉田さんのその言葉に僕は疑問を覚えた。


「別のって何……?」


 まさか、遠藤さんはクローン人間だった。なんて、急にSFみたいな話にならないよね……?


「そうか。まだあなたには言ってなかったわね。実は私の許嫁は……」


 その時、倉田さんから聞いた衝撃の言葉に僕は思わず、自分の耳を疑うのだった。

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