父と子
「はぁ……」
その日の夜。
僕はマンションを出て、フラフラと自宅へと向かっていた。
というのも、教科書や勉強道具などの一式を家に置いたままになっていたので、それを取りに行くところだった。しかし、それだけが目的ではなかった。
「なんというか、後出し過ぎるよな……」
最初からそう言ってくれれば良かったものを後から言ってくるなんて……
というか、倉田さんって後出しが色々と多い気がする。だからといって、嫌いになるわけじゃないけど、最低限伝えておくべきことってある気がする。まぁ今更、何を言っても仕方ないし、この生活をやめるつもりはないけど。
そんなことを思いながら、自宅のマンションへ辿り着く。
そして、鍵を使い、玄関を開けると、そこには見慣れない靴があった。
もしかして、帰ってきている……?
そう思いながら、ゆっくりとリビングへ入るドアを開けると、テーブルイスに座っている父さんの姿があった。
「お、久しぶりだな」
風呂に入っていたのか、濡れた髪をガシガシとタオルでかきながら、そう言ってくる。
「ああ、うん。久しぶり……」
対する僕はやや冷えた反応だった。
こうやって、家で会うのはいつぶりだろうか。会話をするのも、かなり久しぶりな気がする。
「帰ってきてたんだ」
「ああ、久しぶりに少し時間が取れてな。たまには家の風呂に入ろうと思って。やっぱりいいな、家の風呂は」
そう言って、少し笑みを見せる父さん。
しかし、目の下にはクマがあり、よく見れば白髪だって、かなり増えており、仕事の過酷さを物語っていた。
「お前はどこに行ってた……って、そうか。あれだったな」
言いながら、何故かそっぽを向く。
勝手に承諾したことを気まずく思っているのだろうか。
「忘れ物を取りに来たんだ」
そう言って、足早にリビングから立ち去った。
いつも思うが、父との会話の仕方がよくわからない。他の家庭はどういう風に会話しているのだろうか。昔は自然にできていたのに、今は意識しないと、いや、意識をしてもうまくできない。倉田さんにでも聞いてみようか。いや、でも、あのお父さんだしな。
こう言ってはなんだが、あまり参考にならない気がする。
そういえば、桐谷さんのお父さんってどういう人なんだろう。お母さんは確か、亡くなっちゃったって言ってたもんな。今度、機会があれば聞いてみようかな。まぁ、嫌われてるから話してくれるかはわからないけど。
そんなことを思いながら、自分の部屋に入り、持ってきたカバンに必要な物を詰めると、僕は足早に家から出て行った。
本当は一人になりたくて、ここに来たのに、父さんがいると、なんとなく気まずいから、帰ることにした。
どこかのカフェにでも行こうか。いや、それだと倉田さんが心配しそうだしな。家にいることにして、行ってしまえばそれでいいかな。いや、でも後でバレたらめんどくさいし、やっぱり帰ることにするか。
「ん?」
その時、ポケットに入れている携帯が震えた。
何かと思い、取り出すと、新規のメッセージを受信していた。差出人は父さん。
そこには「色々とすまない」と短く書かれていた。
色々ってなんなんだよ。
というか、謝るなら面と向かって言ってほしい。さっきまで同じ空間にいたんだから。
僕は少しだけ、心にモヤモヤを抱えたまま、携帯を再びポケットに入れると、二人の待つマンションへと向かうのだった。
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