1章

予期せぬ訪問

 待ちに待ったわけでもないが、週末になった。


「あーあ、土曜日の朝はのんびりでいいな……」


 そんなことを言いながら、リビングにあるソファに座る。

 今は昼の11時。明日から休みだと思うと、ついつい夜更かししてしまい、先程起きてきたところだ。しかし、最近の定額制の動画配信サービスはすごいな。ついつい色んなものを見てしまい、あっという間に時間が過ぎてしまう。


 今日は倉田さんからのお誘いもないし、このまま家でのんびりと過ごそうかな。そう思っていた時だった。


 ブーブーとテーブルの上に置いていた携帯が震える。連続だから、どうやら電話のようだ。しかし、電話なんて一体、誰が……

 僕に電話をかけてくる人なんて、だいぶ限られている。


 僕は疑問に思いつつ、携帯を手に取る。

 電話をかけてきたのは、なんと倉田さんだった。いつもメッセージでのやりとりなのに、何事かと思いながら、電話に出る。


「もしもし?」


「あ、突然でごめんなさいね。今ってご自宅にいるかしら?」


「え、うん。そうだけど」


 電話口から急いでいるような空気を感じる。

 どうしたんだろうか。


「よかった。これから時間あるかしら?」


「大丈夫だけど……」


「よかった。それじゃ、15分後にマンションの下に来てくれる?」


「え、わ、わかった」


「それじゃあ、後でね」


 そして、倉田さんとの通話は切れた。


 また突然のお誘いだな……

 しかも、15分後だなんて。

 とりあえず、さっさと準備して下に向かおう。

 僕は洗面所へ向かうと、支度をするため、蛇口から水を出すのだった。














 ♦︎













 約束の15分後。

 僕は下におりて、倉田さんが来るのを待っていた。


 そろそろかな。

 そう思っていると、黒いタクシーが僕の目の前に止まった。

 そして、後部座席のウィンドウが降りる。


「おまたせ」


「え、倉田さん?」


 なんとタクシーに乗っていたのは、倉田さんだったので、僕は驚いてしまう。

 高校生なのに、やたらタクシーに乗るのが似合うのは倉田さんくらいではないかと思う。


「説明は車内でするから、とりあえず乗ってちょうだい」


「う、うん」


 そう言われ、僕は慌てて、タクシーに乗り込むとタクシーは走り出した。


「突然ごめんなさいね。でも、少し困ったことになって……」


「え、困ったこと……?」


「ええ、父が突然、あなたに会いたいって言い出して……」


「え……ええええええ!?」


 その言葉に僕は盛大に驚いてしまう。

 その声量にタクシーの運転手さんも何事かとミラー越しにチラチラとこちらを見てきている。


「まぁそういう反応よね、当然。でも、これは避けられない事だから、こうなったら来てもらうしかないの」


「そんなこと言われても、心の準備が……」


「心配しないで。適当に頷いてれば大丈夫だから。とにかく私に話を合わせてちょうだい。いい?」


「わ、わかったよ……」


 倉田さんのお父さんに会うなんて、とんでもないことになっちゃったな……

 今日なのんびり過ごせると思ってたのに……

 さっきから心臓の鼓動が早くなってきたよ……

 なんだか、胃もキリキリと痛くなってきた気がする……

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