変貌

「んん……」


 カーテンから溢れる光が顔に当たり、眩しさから目を覚ます。


「ふわぁ……」


 僕はあくびと共に上半身を布団から起こす。


 いつのまにか寝てしまってたみたいだな。

 そっか。確か、昨日は桐谷さんと……


 そう思いながら、ソファに目を向けると、そこには丁寧に畳まれた毛布しかなかった。


 もう出て行ったのか……

 身体はもう大丈夫なんだろうか。

 そんなことを思いながら、近くに置いていた携帯の画面をつける。


 ディスプレイには6時40分と表示されていた。

 まだ学校に行くには早いか。

 でも、二度寝すると起きられなくなりそうだし、このまま起きることにしよう。


 僕は布団から立ち上がると、布団と毛布を片付け、準備を始めるのだった。















 ♦︎












 いつの通りの時間に家を出て、いつも通り学校につき、靴を履きかえる。そこまではいつも通りだった。


 階段を上がり、教室へ向かっていると、隣のクラスがやけに盛り上がっているような、騒いでいる声が聞こえてきた。


 なんだろ……?

 僕は首を傾げながら、教室へ入ろうとしたが、横からぐいっと腕を引っ張られる。


「うわ!?」


 たまらず、そんな声を出してしまう。


「って、倉田さん?」


 僕の腕を引っ張ってきたのは倉田さんだった。


「いきなりごめんなさいね。でも、どうしても聞きたいことがあって」


「聞きたいこと?」


「ええ、桐谷のことなんだけど……」


「き、桐谷さんかどうかしたの……?」


 もしかして、昨日泊まらせたことがバレたんじゃ……

 僕は内心、そう思った。悪いことをしたわけではない。だが、年頃の女の子と一つ屋根の下にいたんだ。聞こえようによっては、変な想像をされても仕方ない。


「実は昨日帰ってこなくてね。かと思えば、今朝早くに帰ってきたんだけど……そうね、直接見てもらった方が早いと思うわ……」


 そう言って、倉田さんは隣のクラスに入っていくと、程なくして誰かの手を引いて戻ってきた。


「……」


 倉田さんが手を引いて戻ってきたのは、とても可愛らしい女の子だった。

 しかし、僕はその人物を見た瞬間に目を見開いてしまった。

 何故なら、そこにいたのは女子用の制服に身を包んだ桐谷さんだったからだ。


「な、なんで……?」


「お、お前が言ったんだろ……」


「え……?」


「そのままの姿でいてほしいって……」


 言いながら、桐谷さんは恥ずかしそうにその長い髪を触る。


 その仕草がものすごく女の子っぽくて、僕はたまらずドキドキしてしまう。やっぱり、めちゃくちゃかわいいよね、桐谷さん……


「全く、いきなり帰ってきたと思ったら、突然この制服を着るなんて言い出して……おまけに今日から自分を偽るのはやめるなんて言って、何がどうなってるのか、さっぱりだわ……」


 倉田さんは頭を抑えながら、その時の出来事を思い出しながら話す。


「ああ、そういえば、昨日世話してくれたんですってね?」


「え……?」


「桐谷から聞いたわ。おかげで身体も治ったそうよ」


「そ、そうなんだ。ならよかったよ」


 どうやら、倉田さんには上手く説明してくれたようだ。隠し事がなくなって、僕は少しホッとした。


「いえ、ちょっと待って。桐谷を泊めて、家に戻ってきたと思ったら、こんなことになったのよ?あなた、一体何したの?」


「え、いや、何もしてないよ……?」


「嘘おっしゃい!何もないのに、こんなことになるわけないでしょ!そのせいでクラスは大混乱。しかも、これからは、ずっとそばで行動するって言ってるの。昨日と今日で言ってることがまるで正反対なのよ?!」


「そう言われても、本当に……」


「お、お嬢、本当に昨夜は何も……」


 困り果てた僕を見て、助け舟を出そうとしてくれる桐谷さん。


「あなたは黙ってて!」


「は、はい!」


 しかし、一喝され、すっかり黙り込んでしまう。

 やはり、主人には逆らえないようだ……


「さぁ、ゆっくり聞かせてもらいましょうか……?」


 そう言いながら、詰め寄ってくる倉田さん。

 本当に何もしてないのになんで、こんなことに……


 結局、倉田さんを説得するのに丸一日費やすハメになるのだった。

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