一つ屋根の下

「私に構うな……寝てれば治る……」


「いや、そういうわけにはいかないよ」


 言いながら、僕はテーブルの上に買ってきたスポーツ飲料と栄養ドリンク、保冷シート、風邪薬を置いた。後はおかゆでも作ればいいかな。

 症状を聞く限り、風邪だと思われる。

 何でも、体調を崩しかけていたところに先ほどのゲリラ豪雨が襲ってきてしまい、そのまま倒れてしまったそうだ。

 にしても、なんでまたあんなところにいたんだろうか……

 近くに木があったし、そこに登って、僕の観察でもしてたのかな。だとしたら、何でわざわざそんなことをしていたのか、疑問でしかない。まぁそれは体調が回復したときにでも聞いてみようかな。


 とりあえず、桐谷さんは洗面所で身体を拭いた後、僕が用意したジャージに着替え、再びソファの上で横になっている。

 しかし、僕と目を合わせることはせず、毛布にくるまりながら、ふて寝している。


「それより、これからどうしようかな……」


 このまま、家に泊める訳にもいかないしな。

 まさか、桐谷さんが女の子だったなんて予想外だったし。まぁ、ある意味納得はしたけど。


「心配するな、少し休んだら一人で帰る……」


 すると、毛布からひょっこり顔を出した桐谷さんがそんなことを言ってくる。その仕草が妙にかわいく思えてしまう。いや、元々かわいいのはわかっていた。それが強調されている感じだ。


「いやいや!それは無理だって。しばらく安静にしていないと」


「ここに泊まれっていうのか……?さっき、見ただろう、私は……」


 その言葉で僕は先ほどの光景を思い出してしまう。そういえば、女の子の裸を見てしまったんだよな……

 途端に顔が赤くなってきてしまう。


「お、思い出すな……!」


 そんな僕を見て、桐谷さんはタオルをぶん投げてきた。


「ご、ごめん。じゃあ、とりあえず倉田さんに連絡してみようかな……」


 そう言って、僕は携帯を取り出す。

 彼女に言えば、迎えにきてくれるだろう。車付きとかで……


「や、やめろ!お嬢にだけは言うな……こんな私を見て、なんと言われるか……」


 しかし、僕の携帯の操作を止めようと、桐谷さんは慌てて布団から飛び起きた。


「でも……」


「わ、わかった。ここに泊まればいいんだろ……?でも、なんと言われようと、明日の朝には出て行くからな……」


 そう言って、再びソファの上に横になり、毛布にくるまってしまう。


 倉田さんに言われるのがそんなに嫌なのか……

 仕方ない。本人もこう言ってることだし、今日は泊まっていってもらおう。

 しかし、女の子と一緒に寝ることになるなんて、夢にも思ってなかったな……

 何事も起きなきゃいいけど。


 とりあえず、おかゆを作って、それを食べてもらおう。

 というわけで、僕はかなり久々に台所に立つことになるのだった。

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