第三者

「それでね、クラスの子がそんなこと言うもんだから、もうパニックになっちゃって……」


「それは災難だったね」


 学校までの道中、僕は倉田さんとの談笑を楽しんでいた。この前とは違い、色々と話せている。まぁこの程度の会話なら、他の誰かに見られても、仲の良い男女って感じかな。

 そんなことを思っていた時だった。


「あれ、奏多君?」


 後ろから聞こえてきた声に、僕は歩みを止めて振り返った。


藤堂とうどうさん……」


「隣にいるのって、隣のクラスの倉田さん……だよね。仲良かったんだ……?」


「ああ、まぁね……」


 僕は頭をかきながら、乾いた笑みを浮かべた。


 僕に声をかけてきたのは、同じクラスの藤堂 麻耶まやさん。髪型はボブで、健康的な肌色に誰にでも優しく接する、明るい性格であるため、クラスメイトからの信頼、人気は厚い。当然、こんな僕にも話しかけてくれる数少ない人物だ。といっても、いつも話すわけではなく、用があったり、近くにいる時だけではあるけれど。


「なんか奏多君って、あんまり他の女子と仲良くしてるところ見たことないから、少し驚いちゃったよ」


 はははと軽く笑う藤堂さん。

 それを見ていた倉田さんは、突然ぐいっと僕の腕を引っ張り、自分の腕と交差させてくる。


「私達、実は付き合ってるの」


 そして、そんなことを言ってきた。


「え、ちょっ……!」


 僕は突然の行動に慌てふためいてしまう。

 そして、何やら柔らかい何かが僕の肘のところに当たっている……!


「あ……そ、そうなんだ……」


 もちろん、その光景を見ていた藤堂さんも呆気に取られていた。


「じゃ、邪魔しちゃ悪いから先行くね……」


 そして、そう言って、足早に僕達の横を通り過ぎ、先に行ってしまった。


「い、いきなり何するのさ……」


「噂を広めるにはこうするのが一番かと思ってね」


 言いながら、僕と交差させていた腕を外す。


「噂……?」


「ええ、嘆かわしいことに未だに私の所にはそういう類の話とかが来るのよ。だから、第三者に見られて、こう言った方が効果的かと思ってね」


 倉田さんは、はぁとため息を一つ吐いた。


「あ、そうなんだ……」


 だったら、こうやりたいって予め、言ってほしかったな……

 しかし、見られた……いや、見せつけたと言った方がいいか……

 とにかく、見せつけたのがよりにもよって、藤堂さんだなんて……

 まぁ彼女のことだから、言いふらすようなことはしないと思うけど、人脈が広いから、もしかしたらということもあり得る。


 逆恨みのようなことが起きなきゃいいんだけど……

 僕はまた一つ不安材料が増えるのだった。

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