晩御飯
学校を出て、とりあえず倉田さんの後についていく。
一体、どこに向かっているんだろう……
ゲームセンターでも行くのかな。でも、倉田さんがそういうところに行くイメージはないしな。
と、なるとショッピングセンターとかで買い物?
勝手なイメージだけど、服のセンスとか良さそうだし、そっちの方がしっくりくる。
しかし、僕は服のセンスとか一切ないし、もし、そういうところに連れていかれても、困るな……
「ねぇ」
「え……?」
僕が色々と悩んでいると、僕の少し前を歩いていた倉田さんが歩みを止め、こちらを振り返ってきた。
「どうして、後ろを歩いているの?」
「え、どうしてって言われても……」
一番ベストな距離かなと思ってたんだけどな……
隣を歩くのは、なんか近すぎる気がするし。
「彼氏なんだから、隣を歩いてほしいんだけど」
しかし、倉田さんは何故か隣をご所望してきた。
「え、でもフリなんだから、そこまでしなくても……」
僕がそう言うと、倉田さんはこちらに寄ってき、ずいっと顔を近づけてくる。
「どこで見られてるか、わからないの。だから、一人になれる空間以外は続けてほしいのよ」
そして、小声でそう言ってきた。
「え、見られてるって……?」
誰に……?
まさか、倉田さんのお父さん……?
って、さすがにそれはないだろうけど……
「とにかく、私の隣を歩いてちょうだい。いい?」
「わ、わかったよ……」
というわけで、僕は倉田さんの隣を歩くことになった。
しかし、隣に移動したところで特に会話はない。
何か話した方がいいのかな……
でも、倉田さんのこと、何も知らないもんな……
そもそも、日常で人とあんまり会話してないしな……
まぁ、そうだとしても、昨日知り合ったばかりだから、仕方ないと思う。趣味とかあるのかな。って、なんかお見合いの時の質問みたいだな、これ。
「着いたわよ」
そんなことを考えたいると、倉田さんがそう言ってきたので、僕は咄嗟に正面を向いた。
一体どこに来たんだ……
「って、スーパー……?」
なんと、僕達がやってきたのは学校から少し離れたところにある商店街の一角にあるスーパーだった。
勝手ではあるが、身構えていたので、何とも拍子抜けしてしまう。
「さ、行きましょ」
一方の倉田さんはカートにカゴを積んで、足早に店内へと入っていく。
「え、ちょ、ちょっと!」
僕は慌てて、その後を追いかける。
「ここで何するのさ……?」
「スーパーに来ているのに、何するですって?ふふ、買い物に決まっているでしょ?」
倉田さんは可笑しそうに笑う。
「いや、それはそうなんだけどさ……」
「それより、晩御飯は何がいいかしら?」
「え、晩御飯?」
「そう」
まさか、倉田さんは毎日自炊しているのだろうか。って、そんなわけないよな。規模はわからないが、社長令嬢だし、家にお母さんがいるって言ってるんだから、わざわざ作ったりするとは思えないし。
「誰の?」
だから、僕はこう聞くしかなかった。
「誰のって、あなたのに決まってるじゃない」
「え、僕の?」
なんで……?
「ええ。だって、今日も親御さんはいないんでしょう?だから、代わりに私が作ってあげようと思って」
「あ、なるほど……って、それってつまり、家に来るってこと!?」
「そうよ?」
「えええええええええ」
僕は盛大に驚いてしまう。
「何よ、そのリアクション。それより、早く晩御飯の材料選びましょうよ」
倉田さんはスタスタとカートを押しながら、奥へと進んでいってしまう。
ま、まさか、僕の家に来るつもりだったなんて……
あ、待てよ。倉田さんのことだから、またお父さんに彼氏に晩御飯を振る舞うのは当然だ。とか言われてたのかな……?
きっとそうだよな。じゃなきゃ、家に行ってご飯作るなんて、普通はありえないし。ましては、僕は彼氏のフリをしているだけだし。
ご飯を作ってくれるのは、ものすごく嬉しいけど、あんまり過度な期待はしない方がいいよな。特に倉田さんの場合は。
僕は、はぁとため息を一つ吐くと、倉田さんの後を追いかけるのだった。
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