放課後

 お昼休みがそろそろ終わるという頃、僕はようやくお昼ご飯を食べ終え、倉田さんに突然、泣き出してしまったわけを説明した。

 しかし、それにしてもご飯の量が多くて、美味しかったけれど、かなり食べ過ぎてしまった。その上、倉田さんは、ほとんど食べなかったし……


「そう、ご両親が……それは寂しいわね……」


 僕が一通り話し終えた後、倉田さんは神妙な面持ちになった。


「まぁ、もう慣れたけどね」


 はははと笑ってみる。しかし、無理やり笑ったからか、口角が上がっている感じは全くしない。


「私の父はたまに家を開けるけど、母は常にいてくれるから、独りぼっちになった経験はあまりないわね……」


「お母さんと仲は良いの?」


「そうね。たまに嫌な時もあるけれど、私の話をいつも聞いてくれるし、関係は良いと思うわ」


「そうなんだ、羨ましい限りだよ」


「……」


 僕は心の奥底にある願望を言葉にしてみた。

 そんな母が家にいてくれたら、どれだけ嬉しいことか。いや、母でなくても、父でもいい。家に誰かいれば、それだけでいい。


「今日も独りぼっちなの……?」


 すると、突然倉田さんはそんなことを聞いてきた。


「え?ああ、うん。多分、そうだと思うけど……」


「そう……じゃあ、今日の放課後少し付き合ってくれる?」


「放課後……?」


「ええ。もしかして、何か予定があったりするかしら?」


「いや、別に何もないけど……」


「よかった。それじゃあ、放課後ね」


 僕の返事に対し、何故か倉田さんは安心したように微笑んだ。そして、そのまま、お重箱を手に持ち、立ち上がると、屋上から出て行ってしまった。


「……」


 僕は倉田さんの去っていった場所をジッと見つめる。


 放課後……

 え、これってデートの誘いかな……

 絶対そうだよね……?

 いくら、フリとはいえ、この響きはやばい……

 しかも、僕、女の子の作った手料理、初めて食べた。しかも美少女の……

 これって絶対羨ましがられることだよね……

 クラスメイトにバレなきゃいいけど……


 僕は少しだけ不安を抱えながら、立ち上がり、座るために敷いていたシートを回収すると、屋上から出ていくのだった。















 ♦︎












 そして、放課後。

 放課後を告げるチャイムが鳴った途端に、教室へ入る扉が、勢いよく開いた。

 その音にクラスの全員が何事かと反応する。


「……」


 もちろん、扉を開けたのは倉田さん。

 というか、いくら隣のクラスとはいえ、早すぎないか……?

 絶対フライングしてる気がする。


「あ、いたいた!ほら、早く行こ!」


 そして、例のごとく、教室へ入ってき、僕の席までやってくると、腕を掴み、半ば強引に引っ張っていく。

 それをみて、ざわつくクラスメイト達。

 相変わらず、積極的だな……


 僕は引っ張られながらも、なんとか机の横にかけていたカバンを手に取ると、倉田さんと共に教室から出て行った。


 そして、出て行ってすぐに僕は声をかける。


「あ、あの……」


「え?」


「腕、離してほしいな……ほら、自分で歩けるからさ……」


「え、ああ、ごめんなさい。時間が惜しいなと思って、ついね」


 慌てたように倉田さんは僕の腕を掴んでいた手を離した。離れた瞬間、少しだけ、もったいないことをしたと思ってしまうのは、内緒だ。


「え、時間って……」


「まぁ付いてくればわかるから、ほら、行きましょ」


 そう言って、一足先に階段を下っていってしまう。

 その後ろ姿を見ながら、僕は思う。


 どこに行くんだろうか……

 ま、まさか、いきなり家に来て。なんてことはない……よね……


 僕は一人、ドキドキと鼓動を鳴らしながら、慌てて彼女の後を追うのだった。

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