初メッセージ

 結局、陽が随分落ちてから僕はすっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干した後、カフェを出た。

 そして、カフェから十分ほど歩いたところにあるマンションへと入っていく。ここが僕の我が家。


 エレベーターを上がり、四階で降り、カギをポケットから取り出し、玄関のドアを開ける。


「ただいま」


 家に入った瞬間、そう言ってみるが、中から誰かの返事はない。分かってはいたが、やっぱり今日もいないか。


 靴を無造作に脱ぎ、リビングへと入る。

 すると、リビングにあるテーブルの上に達筆な字で「今月の食費です」と書かれた封筒が置かれてあった。


 帰ってきてたのか。でも、またすぐに行ったみたいだな。

 僕はその封筒を手に取り、カバンの中へとしまった。


 僕の両親は二人とも医者である。

 小学生の頃は、そこまで多忙ではなく、週末には遊びに行ったり、一緒に過ごしたりすることもあった。


 しかし、僕が中学に上がってから、生活は一変した。

 仕事がかつてないほど多忙になり、両親のどちらかに会うのは、週に一度会えればいいというくらいの頻度になり、会ったとしてもほとんど会話なんてなかった。

 向こうは帰ってきたというわけではなく、荷物を取りに来た、もしくは置きにきたと言った方が正しいからだ。


 その生活は僕が高校に入っても変わることはなかった。

 最初は寂しいと思っていた。しかし、その気持ちは徐々に薄れていき、やがて、こんな寂しい思いをさせるのに、何故、結婚なんかしたのだろうと思うようになっていった。

 だから、僕は結婚なんかしないと思うようになった。

 誰かに寂しい思いをさせるくらいなら、一人で生きていった方が何倍もマシだと思うから。


 肩にかけていたカバンをリビングの片隅に置くと、僕は洗面所へ向かい、手を洗う。

 そして、リビングへと戻ってき、戸棚の中からカップラーメンを一つ取り出し、ケトルでお湯を沸かす。


 もう誰かの手料理なんて、久しく食べていない。自分で作るのも面倒なので、僕のご飯はスーパーで買った惣菜や弁当、カップラーメンが主である。


 程なくして、お湯が沸き、それをカップラーメンに注ぐ。

 と、そのタイミングでズボンのポケットに入れていた携帯が小刻みに震えた。


 なんだろう。

 僕はソファに座り、携帯を取り出す。


 そこには新規のメッセージ受信したと表示されていた。送り主は、なんと倉田さんからだった。


「……!」


 僕はメッセージを受信しただけなのに、何故か心臓がドキッとはねた。その表紙にソファから少しずり落ちてしまう。


 お、落ち着け。たかがメッセージだろ。

 しかし、ついさっき交換してから、まさかその日のうちにメッセージが来るとは……


 なんとか自分に言い聞かせ、メッセージを開く。そこには短文で「昼休みはいつも学食で食べてる?」と書かれていた。


 な、なんか思ったよりも普通の質問だな……

 って、何を期待してるんだよ……


 僕は手早く携帯を操作して「そうだよ」と送った。

 そして、送ってすぐに「わかった」とだけ返事が返ってきた。


 何かのリサーチなのかな……

 てか、こういう時、何か返事した方がいいのかな……

 でも、わかった。の後に送る言葉ってなんだ?

 何で聞いたの?とか送ろうかな。

 いや、でもな……


 結局、色々と考えているうちにカップラーメンがすっかり伸びてしまい、その日の晩御飯はいつも以上に味気のないものになってしまった。

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