シャイボーイ
学校を出た後、ほど近いところにあるカフェに二人揃って入る。
「私はコーヒー頼むんだけど、あなたはどうする?」
「え、あ、お、同じのでいいよ……」
「そう」
そう言って、彼女はレジへと向かい、コーヒーを二つ注文する。
そして、出来上がったコーヒーを乗せたトレーを持ちながら、人目につきにくい席へと向かい、向かい合わせで座る。
何気に女子とこういう店に入るの、初めてだから緊張するな……
「あ、お金……」
僕は、慌ててカバンに入っている財布を取り出そうとする。
「ああ、いいわよ。別に。大した金額じゃないし。それより、本題について話したいんだけど、いい?」
「あ、うん……」
ようやく、真相が聞けるぞ……
僕は思わず、喉を鳴らした。
「実は私の父はある会社の社長でね。まぁ昔気質というか、固い頭の人だから、女性は早い内に結婚して、家庭を作れ!なんて言ってるの。しかも、厄介なことにわざわざ許嫁なんて見つけてきて、私が高校を卒業したら、その人と結婚しろ。って言ってきてるのよ」
ため息交じりに彼女はそう説明した。
「そう……なんだ。中々大変だね……」
僕はどこか現実離れした話を聞きながら、コーヒーを一口飲む。
「だから、それが嫌であなたに協力してもらおうと思って」
「え、なんで僕……?」
たまらず、首を傾げてしまう。
なんで、結婚うんぬんの話に僕が登場してくるんだろうか。
「これ、さっきの写真」
そう言って、彼女は携帯で撮った先ほどの僕の失態というか、犯罪現場の写真を表示させる。
「あんまりこういうのは、したくないんだけど、まぁ簡単に言えば、脅しよ?これを広められたくないなら私の彼氏になってちょうだい」
「いや、だからなんで彼氏になれなんて……」
それに脅しているとはいえ、彼氏になれなんてある意味、最高ともいえる出来事じゃないか、これ?
「実はなんとか母が父を説得してくれてね、そのおかげで私が結婚しなくて済む方法は一つ。彼氏を父に紹介することなのよ。本当に愛し合った人を見つけたら、許嫁の話は無しにしてくれるって」
「そうなんだ。でも、なんでわざわざ、さっきみたいな手を使って……頼めば、誰だって協力してくれそうなのに。だって、すごく……」
そこまで言ったところで僕は言うのをやめた。知り合ったばかりの子にこんなこと言うのは、恥ずかしいと思ったからだ。
「すごく……なに?」
しかし、彼女は意地悪にそう聞いてきた。
「かわいいから……」
僕は自分で顔が赤くなるのがわかりながら、小さくそう言った。
「ふふ。ありがとう。でもね、私に近寄ってくるのってお金目当てか私の身体目当てなのよ。そんな人達に頼むのなんてごめんだわ。どうせ頼むなら全く知らない人にしようって。だから、あなたがうってつけなのよ」
言いながら、彼女はずいっと顔を寄せてきた。
教室にいた時は、思わなかったが、かなりの美少女である。
パッチリとした目元、整った顔立ち。すらっと長い髪の毛。おまけに腕を内側に寄せ、わざとらしく、胸の谷間を作る。スタイルも良い。普通に考えれば、かなり眼福なシチュエーションだろう。
「ちょっと近いよ……」
僕は言いながら、少しだけ顔を晒した。
なんとも思わないわけではない。僕だって、少しくらい興奮したりする。しかし、それ以上に恥ずかしい気持ちが大きい。見ていられない。まさにこれこそがシャイボーイなのかと思う。
「ふふ、シャイなのね。それくらいの人が一番だわ。それより、私の名前知らないわよね?」
「え、ああ、うん……ごめん」
僕は俯きながら、謝った。
どうやら、彼女は学校では有名人なのか?
まぁそうかもしれない。金持ちな上に美少女って、有名にならないわけがない。
「別に謝るようなことじゃないわよ。私の名前は
「あ、僕は
「奏多ね。それじゃあ、これから私の彼氏ってことで頼むわね」
「は、本当に僕なんかでいいの?」
「いいのって、こっちが頼んでいるんだから。あなたの証拠写真もあるしね。あ、でもあくまでフリよ?彼氏のフリ。お願いするのは彼氏のフリだから。いい?」
念押しで彼女は言ってきた。
「あ、うん……」
そうだよね……
フリに決まってるよね。少しラッキーかもとか思った僕がバカだった。
大体、こんな美少女の彼氏になれる人なんて限られた人だろう。僕みたいなそこらへんのモブがなれるわけがない。その上、犯罪現場の写真も撮られて、脅しって言われているんだから。
「なんかテンション下がった気がするけど……まぁいいわ。とりあえず連絡先教えてちょうだい。これからのことはまた連絡するから」
そう言って、彼女はポケットから携帯を取り出し、メッセージアプリを起動する。
それにつられて、僕も携帯を取り出し、アプリを起動し、連絡先を交換する。
「あ、あのさ、さっき撮った写真って消してくれる……?」
僕は気になっていたことを思い切って聞いてみた。
「え?それは無理よ。私の父に紹介するまでは取っておくわ。じゃないと、協力してくれないでしょ?それじゃ、またね」
連絡先を交換した後、彼女はそう言って、席を立ち、じゃあねと僕に手を振って、店から出て行ってしまった。
「……」
なんか、色々あって整理できない。
ただ、言えることは十月七日。僕は今日のこの日を一生忘れないだろう。
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