僕の弱みを握った美少女が彼氏になれと脅してきました

あすか

0章

全てはここから

 適当な大学に進学し、適当な会社に就職し、そのまま穏便に定年を迎え、残された余生を過ごし、死んでいく。

 それが僕の今後の人生だと思う。

 結婚をするつもりはない。

 生きていくのは、一人で十分だ。

 それが十六年間生きてきて、僕が出した答えだ。

 今もこうして、つまらないが、学校の授業を真面目に受けている。

 周りもきっとめんどくさいと思っているだろう。しかし、こうしておかないと進級もできず、世間の定めたレールから外れてしまう。だから、こうして真面目なフリをして、周りに流されながらも毎日を生きているのだ。












 ♦︎










「やっと終わった」

「今日どこいく?」


 今日最後の授業が終わり、放課後になった瞬間、周りにいるクラスメイト達からそんな言葉が聞こえてくる。


 僕もカバンの中からイヤホンを取り出し、携帯にコードを接続した後、イヤホンを耳につけ、適当な音楽を流しながら、教室から出て行く。


 そして、玄関で靴に履き替え、学校を出る。

 僕は部活もしていないし、塾にも行っていない。

 だから、放課後は自由に使える時間なのだが、クラスの連中と違って、どこかに遊びに行きたいという気持ちは全くないので、毎日こうして大人しく帰宅することにしている。こうした性格からか、クラスで仲の良い、友達と呼べるような人物はいない。

 しかし、それを特に気にしてはいない。

 決して、友達ができないわけではないぞ?


「あ、しまった……」


 もうすぐ、家に着くというところでハッと思い出す。

 今日、英語の課題が出たのだが、ノートを机に忘れてきてしまった気がする。ノートがないと課題ができない。

 僕は一応、カバンの中身を確認するが、案の定、ノートは入っていない。


「はぁ、仕方ない……」


 幸い、ここから学校までは十分ほどで着く。僕は溜息を一つ吐くと、踵を返し、学校までの道を歩いていった。


 そして、程なくして学校に着き、再び、上履きに履き替えると、階段を上がり、教室へ入る。

 教室へのドアを開けた瞬間、床に何かが落ちているのを見つけた。


「ん?」


 僕はそれに近寄り、拾い上げる。

 それは一万札だった。


「なんでこんなところに……」


 誰かの財布から落ちたのかな。勿体無い。


「……」


 僕はキョロキョロと周りを確認する。

 本来なら、これを職員室に届けるべきだろう。

 しかし……

 どうしても、やましい気持ちが出てきてしまう。

 今なら、誰にも見られていない。

 大丈夫、バレはしない。


「……」


 僕は罪悪感を覚えながらも、それを制服のポケットに入れた。

 その時だった。


 パシャ。


 何かで写真を撮る音が後ろから聞こえてきた。

 僕は瞬時に後ろを振り向いた。


「証拠ゲットー」


 そこには携帯のカメラでこちらを撮影していた女の子が一人いた。


「……」


 やばい、見られた。しかも写真まで撮られて……

 つまり、証拠を取られた。

 まずい、マズすぎる。


 僕は全身から血の気がサーっと引いていくのがわかった。

 一巻の終わりってやつだ。

 犯罪者が捕まる時の気持ちってこんな感じなのかな。

 こんな時に呑気にそんなことを思ってしまう。


「ああ、初めに言っておくけど、それ私がわざと落とした一万円札だから」


 僕が未だに動けずにいると、写真を撮った女の子が携帯をポケットに仕舞いながら、こちらに近寄りながら、そんなことを言ってきた。


「え、わざとって、なんで……」


 もしかして、こういう写真を撮って、誰かを破滅させる遊びでもしてるのか……?

 だとしたら、なんて悪趣味な……


「でね、単刀直入にいうんだけど、私の彼氏になってほしいの」


 僕が女の子に対し、心の中で少し恨みを抱いた瞬間、彼女の口から思いもよらない言葉が飛び出してきた。


「……はっ?」


 何言ってるんだ、この子?


「だから、私の彼氏になってほしいって」


「いや、言ってることはわかるんだけど、意味がわからないんだって」


 僕は彼女の言葉を遮り、言った。


「ああ、まぁそりゃそっか。じゃあ、とりあえず場所を変えて、説明させてちょうだい」


 そう言って、女の子は踵を返して歩き出してしまう。

 かと思えば、こちらに戻ってきて、僕のすぐ近くまで近寄ってくる。


「これ、返してもらうわね」


 そして、僕の制服のポケットに入っている一万円札を取り出し、それを自分のポケットにしまいこむ。


「……」


 なんなんだ、一体……


「ちょっと、早く行くわよ?」


 すると、僕が付いてこなかったことに対してなのか、少し苛立った様子で女の子は再び、顔を表した。


「え……ああ、ごめん……」


 促され、僕は慌てて、彼女の後についていく。廊下を歩く途中、僕は思い切って、聞いてみることにした。


「あ、あのさ、さっきのことなんだけど……」


「ちょっと待って。誰かに聞かれるとまずいから、場所を変えてからにしてくれる?」


「え、ああ、わかった……」


 そうして、全てが謎に包まれたまま、彼女と共に学校を出ていくのだった。


 あ、ノート忘れたままだ……

 まぁいっか……

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