先輩の願い

 なんだかんだ言って全ての味のわらび餅をコンプしてしまった。

 どれもおいしかったとは言えやはりわらび餅というものはきな粉に限ると俺は思う。しかし、運悪く緑茶が品切れというのが何とも残念だ。

 この部屋に入ってきたときに先輩が飲んでいたのが最後の一杯だったのだろう。

 どうにもこういった典型的な和菓子には緑茶がベストと思うのは日本人特有の感情なのだろうか。


「それで、俺をここに呼んだ本当の理由は何です?」


「ん? だから入部届の件……」


「それは建前ですよね?」


 入部届を書かせるというためなら俺に紙を届けるだけでいい。選択肢は先輩自身が狭めていたのだし、俺には断ることもできなかった少なくともそういう状況に追い込まれていた。

 そして何より先輩が最初に俺のクラスに来た時の理由と出ていくときの理由はおそらく別物だ。最初に来た時はほぼ間違いなく俺の入部を確定させるため、出ていくときは分からなかったけれどそれでも目的が異なっているのは分かった。なんと言うか先輩は表情に出やすいのかもしれない。

 だから問題なのはわざわざ俺をここまで呼び出して伝えたいこと、あるいはさせたいこと。


「本当に、君に隠し事はできないね。人を見る目が確かというか注意深いというか用心深いというか疑り深いというか」


 先輩が口にする言葉が段々とひどくなってきているのは気のせいだろうか。それに的外れではないというか、そのまま当てはまるだけにそれなりに精神的なダメージが大きい。先輩には加減と限度というものを理解して……いや、この人もしかすると知ってて俺のことをからかっているのか?

 だとしたらたちが悪いどころではない。


「何事にも懐疑的、人を信じられなくて疑い疑うからいつまでも信じることができない……まぁ、そこに関しては置いておこう。私も他人様のことを責められるような立場ではないからな。それで、なぜ拓馬ちゃんを呼んだのか……」


 あれ? この感じ割と最近感じたことが、というか昨日の状況とよく似ている。

 既視感デジャヴというよりもまんまそれだ。

 となると明後日の方向にとんでもない要求が飛んでくるということ。


「そう、君の家に連れて行ってくれ」

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