因果応報
「あぁ、やっぱり降り出した」
まぁ、あそこまで曇っていれば降るのは確定。
しかし、もう少し保ってくれると思ていたのだけれどこの調子だと家に着く前に本降りになるかならないか微妙なところだ。
なにはともれ早く帰った方が吉だろう。
「拓馬さん、拓馬さん。スーパーによって帰りましょう、今日の夕飯の具材買いたいです」
この幽霊は、今のこの状況でまさかのそんな提案をしてくるなんて。
どう考えたって買い物をしている間に雨は本降りになるだろう。あいにく傘も何も持っていないのだからどう頑張ったって俺は濡れるしかないわけだ。
「いや、昨日買った炒飯があるからそれでいいだろ?」
こういう時はやはり冷食のありがたさとお手軽さが身にしみる。
本当に冷食を考えた人は天才だと思う。
「……まして」
「ん? なんだって?」
「ですから、その……昨日食べちゃいまして」
申し訳なさそうに頭をかき俺から目を離す花音。
一体いつそんな時間があったというのだろう。
というかそうなってくると全くもって小食なんかではない。というかそもそも幽霊が俺と同じように食べているということ自体が驚愕なのだが、それは置いておくにしてもこれは彼女の認識を大きく改める必要がありそうだ。
「…………」
とどのつまり、今からスーパーに行かなければ俺の夕飯はないということだ。やはり普段からもう少し買い溜めしておくべきなのだろうか。
でも、買い溜めしてる時に限って次々に新しい物を買ってるんだよな。
「はぁ、仕方ない……か」
買い物をしていたらまず間違いなくこの雨は本降りになることだろう。
傘はもってないからずぶ濡れになるか買うしかないんだろうけれどスーパーに傘なんて売っているだろうか。
***
「拓馬さん、なんで傘を2本買うんですか?」
最近のスーパーは本当にいろいろなものがあるんだなということを実感した。
ここまでいくともうコンビニなんかと大差はないような感じである。それに下手をすればコンビニよりも安上がりだし、少し遠いということを除けばそれなりにいい勝負ができそうだ。
一番安いビニールの傘を二本選んだ時、欲しいものを見つけてきたのか花音が後ろから話しかけてきた。
「いや、お前も使うかと思ったんだが……」
言ってて思ったが確かに幽霊には傘なんて必要ないのかもしれない。
というか花音が傘を使うとそれこそ問題になりそうだ、彼女は難なく調理器具を使っているのだが俺以外には彼女は見えないのでまるでフライパン達が意思を持ったかのように宙を舞っているように見えるそう。
つまりそれは傘でも同じことが言える。
というかそういった状況を避けるためにもこうして俺がかごをもって花音の要求したものを買っているのだ。
「拓馬さんの優しさはうれしいですが、これでも私は幽霊ですから雨なんて大丈夫ですよ」
「……そんなもんか」
結局傘は一本だけ買って帰ることにした。
心配することないという彼女に押し負けたというのと俺の中での幽霊というイメージの結果である。
「雨は好きです、ジメジメしますけどワクワクします」
前を浮く花音は自分が濡れていることなんか気にせずに楽しそうに宙をくるくると回っているのだが。
「やっぱり入ったらどうだ? どう見ても濡れてんじゃん」
やはり実体があるからであろう。髪や衣類が肌に張り付いている。
しかし、そこまではっきりとした実態を持ってるなら他人にも花音の姿を認識することはできそうなのだが……。
「そんなに私と入りたいんですか? やだ、照れちゃう」
雨の中で顔を赤らめながら身をよじる幽霊。
「オーケー分かった。お前はもう濡れて帰れ、そのまま風邪でもひいてろ」
少しでも優しさを送った俺が間違いだったということだろう。
「ふふ、幽霊は風邪とは無縁です。もう病弱なんて言わせないんですから」
空に向かって拳を突き出しそう高らかに宣言する花音。もう誰でもいいからこいつに一泡吹かせてくれないかな。
うなりだした空に向かって意味のない願いを送ってみる。
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