明かされる事情

「……つまりどういうことですか?」


「どういうことって、まるっきりそのままの意味さ。私は私以外に私のような能力を持っている人と繋がりたいんだ」


 何となくではあるが少しわかってきたことがある。きっとこの人は嘘はつかない人、いや噓が嫌いな人といった方が正しいのだろうか。

 他人とかかわることなく、他人の顔色をうかがって自らの存在を隠す。

 決まってそういう人は言い訳を嫌うけれど、どういう訳か建前はこよなく愛するのだ。俺は人を信じない訳じゃない、旧友曰く信じる前にその人を試し過ぎている、とのことだ。

 だから俺が彼らを信じる前に彼らから勝手に去っていく。

 よく言えば慎重、悪く言えば臆病なのだ。

 でもだからこそ人を見る目は確かなはずだ。


「……うむ、信じていないね?」


 先輩が話を切って俺にそう問いかける。


「いえ、信じていない訳ではないんですが……腹の探り合いはやめませんか?」


 しばらくの沈黙が部室の中を支配する。


「ふふ、やっぱり君は面白いよ、拓馬ちゃん。私と違うようでとても良く似ている」


「俺と先輩は全然違いますよ。正直、俺は先輩のことが怖いです」


 この人と話していると何もかもを洗いざらいさらされそうな危機感に苛まれる。言葉を発する度に目が合う度にその言葉、その表情の真意、表も裏も見通されている気がしてならない。


「ううん、やっぱり似てるよ。君が私に感じているその気持ち、それと同じあるいは似たような気持ちを今私も感じてる。何よりも最初にその人のを探す、その気がなくとも勝手に探している……君はどうしようもないくらい私に似ちゃってる」


 先輩は静かに寂しそうにそれでいて楽しそうに窓の外に目を向ける。

 いつの間にか外の景色は薄暗いものになり、今にも雨が降りかねない程に真っ黒い雲が広がっている。


「今日はここまでにしようか。どうにも一雨降りそうだ、傘はもっていないのだろう?」


「……そういうことにしておきます」


 ***


 視界の端ではパラパラと降り始めた雨。

 きっとそう遠くないうちに本降りになることだろう。


「……やっぱり、どうしようもなく似ているよ」


 私は小さい頃からこの能力のせいで誰にも信じられることはなかった。

 別に信じてほしいとは思わなかった、でもだからこそ私は人をよく見る。

 自分が信じられている存在なのか害をなすものと捉えられているのか。一体他人からは私がどのように映っているのか。

 だから私には誰もが言わなくても思っていることがわかる、いつの間にかその人の本心を探っている。

 彼は私が怖いと言った。

 その言葉に嘘偽りはない、でも彼の言葉には真実もない。彼の言葉には重さがない、中身があらずとても軽い、だから彼は私によく似ている。

 本音は隠したまま嘘でもなく真実でもない、曖昧で的確な言葉を弄する。

 それが一番だと知っているから。そう思い込んでいるから。

 だから私は彼が怖い、私のことを怖いとのたまう彼が自分と同じだということが怖い。


「……でも、だからこそ面白い。私はあなたが気にいった」


 外はいよいよ雷が鳴り始めそれを境に土砂降りへと移り変わる。


「……でもきっと……」


 一際大きくとどろいた雷鳴に打ち消された彼女の声を拾うものは誰もいなかった。

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