運命と宿命

「見ての通りここ、オカルト研究部には今のところ私一人しか部員がいない。時期も時期だ、今からでは新入生の歓迎もろくにはできない」


 部室の中は思ったよりも綺麗だった。

 正直訳の分からない水晶やら何やらがあることも想定していたのだが、別に普通の教室と何ら変わらない。

 おかしな点があるとしたら、あのでっかい文字で封印と書かれた紙の貼ってある戸棚くらいだろうか。

 おそらく、いや確実に触れない方がいい事柄筆頭だろう。


 部屋の真ん中にある連結させたよくある長細いテーブルとこちらもよくあるパイプ椅子。

 奥の机の上にはコンロがあり、その隣には白く小さな冷蔵庫がある。ホテルの部屋にあるようなものだ。


 案外というかかなり充実した部室だ。


「でも、歓迎らしい歓迎もしていませんよね?」


 事実、部活動の紹介が何もないのだ、新入生向けに発行された新聞部の作成する新聞紙にもただ一回だけ名前が出てくる程度。勧誘広告も何も出てない。

 俺は詳しいことは知らないのだが入学式の後に行われた部活動紹介の時にも紹介はなかったそうだ。

 かく言う俺もオカルト研究部などという部活を知ったのは割と最近のことだ。そしてそのことを花音から聞いたことでそんな部活があるということを認識した。

 まぁ、帰宅部の俺には関係ないといえばそれまでなんだが。

 何というか、部員を増やすことを避けているような印象すら受ける。


「おや、これはこれは手厳しい。まぁ、確かに歓迎はしていない、代わりに私が勧誘しているんだ。今回みたいに、ね?」


「でも、他に部員がいないってことは俺が初めてなんですよね?」


「君は随分と核心を抉ってくるね……それに、その誰も信じないとでも言いたげな目。本当に君は面白そうだ」


 背筋がゾクッとした。

 今まで見てきた先輩のやる気のなさそうな目とは打って変わったあの何もかも見通すかのような力強い瞳。


「でもね、部員がいないのに関しては仕方が無いとしか言いようがない。この部活に入るにはそれなりの条件があるんだ。別にただの部活だったら、私自身が選定する必要もないのだし、そもそもこれだけの入部希望者がいるんだ」


 先輩はコンロの隣の机の上に山積みにされた書類を指さす。

 どれくらいだろうか、百……あるかないか、大体一学年が二百人だとしても全校をトータルしてこれだけあるというのは相当だろう。

 そもそもこの部活は大々的な宣伝を行っていないのだからこれは驚愕に値するのだろう。


「……つまり、この部に入部するにはこいつみたいのと意思疎通が出来ないといけないと?」


「うむ、あたらずといえども遠からず。正確にはそれと似たような、つまり常人離れした能力が必要なのさ」


 ポカポカと肩をたたく花音を軽くあしらいながら先輩が淹れてくれたお茶をすする。


「それで、何で俺のような人材が必要なんです?」


 普通に生活していく上でまずこんな力は必要ない、となるとやはり普通ではない案件に関わっているということだろうか。


「実はだね……」


 これから話される内容を聞き逃さないように、固唾をのみ込むとは正しくこのことだ。

 後ろでは花音も話の行方を待つように佇ん……漂っている。


「実は……私のような仲間が欲しかったのさ」


 そう、きっととんでもない発表があるのだろうと。


「は?」


「だから、私のように幽霊なんかを認識できる人に会いたかった。私がこの部活を開いたのはそのためなんだ」


 期待というのはこうも簡単に裏切られ落胆に変わるのか。

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