とあるお誘い

 いつの間にか午後の授業も終了して時は放課後。

 しかし、体育の為だけに昼休みは弁当で一喜一憂したというのにその肝心の体育が急遽保健体育へと変更されたのはどうにも解せない。

 おかげで午後の授業は大したこともせずに教室にいただけである。これならギリギリ昼を食べなくてもよかった。

 まぁ、そんなことは置いておこう。それよりも大きな問題が目の前にはあるのだ。

 なんせいよいよ今朝の一件について、今日一日つきまとっていたモヤモヤが解消されるのだ。


「昼にも言ったろ、この後呼び出されてるんだよ」


 ということで花音にもそのことを改めて伝えて先に帰ってもらおうと思っていたのだが……。


「えぇ、ですから私も同行します。どんな人なのか気になりますし。それにそもそも私は見えないんですからいいじゃないですか」


 このようにさっきから一緒に行くの一点張りで全く聞く耳を持ってくれない。

 どうすればこの幽霊の行動を抑えることができるのだろうか。

 確かに花音の言うことも一理ある。彼女は他人には見えない、けど問題はそこじゃないんだ。

 彼女を見られるのが嫌なのではなく彼女に見られているというのが嫌なのだ。

 だってなんか恥ずかしいじゃん。

 というか、もし花音がこのままこの世にとどまり続けるというのなら俺には彼女を制御するなんてことは一生できそうにない。

 何をしても振り回されそう……はぁ、どうしてこうなったんだか。


「まぁ、いいか。お願いだから邪魔だけはするなよ」


「ふふ、任せてくださいよ。そもそも邪魔なんてできないんですから」


 声高らかに宣言し胸を張る彼女を見ているとどうにも安心できないのはなぜだろう。

 何というかこう、いつ何時何をされるのかわからない。そんな不安が生まれてしまう。


 ***


「よかった……ちゃんと来てくれたのね」


 渡された紙に描かれた部屋の前で今朝の先輩は立っていた。


「あなた、名前は?」


 朝と変わらないやる気のなさそうな表情で、しかし今は目もやる気がないというか生気がないというかなんというか。

 この人色々と大丈夫なのかな。


「……斎藤拓馬です」


 というかこの人、俺のことを何も知らないのにいきなり声をかけて呼び出したのか。

 何でいきなり、しかもわざわざこんな場所に呼び出すなんて。


『オカルト研究部』


 呼び出されたこの部屋はその部室。何だか変なところに目をつけられてしまったようだ。この部活はこの学校の中で存在はしているけれど実態がわからず、なぜか誰も入部できないのに廃部にはならない、まだまだ挙げればきりがない噂がありこの学校の七不思議の一角に君臨しているような部活である。

 そんなところに呼び出されるなんていうのは控えめに言ってもかなりまずいのだ。


「ん、それであなたは?」


 先輩は俺の後ろに視線を向ける。


「拓馬さん、あの方私のことを言ってます?」


 花音が小声で俺に尋ねる。


「お前、普通の人には見えないんだろ?」


 花音の問いに小声で返すけれど、花音以外に俺の後ろには誰もいない。

 そうなるともう必然的に花音のことを指しているのだろうけれど、そんなことが……いや、ここは腐ってもオカルト研究部。

 そういうものが見える人がいたとしても不思議ではないのか。


「ん? 私の声聞こえてるよね、そこの幽霊さん?」


「あ、はい。すいません、私は河原崎花音です」


 幽霊を見ても特段驚くわけでもなく、むしろ目を輝かせている先輩。

 そういえば朝もこんな目をしていたし、どこかのタイミングで俺が花音と一緒にいるのを見られていたのだろう。


「ん、花音ちゃんに拓馬ちゃん。私がここに君を呼んだのはおそらくもう察しがついているんじゃないかな」


 ……拓馬ちゃん。

 嫌に久しぶりにそのフレーズを聞いた。


「えぇ、何となく、ですけど……」


 というか、ここまで来てしまうともう選択肢というのはかなり絞られる。そもそも選択肢も何もないだろう。


「私は君たちにはこの部活に入ってもらいたいんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る