一章 日常が変わるタイミング

それは、いつもと変わらない

「んで、お前はこの後どうするんだ?」


 何気なく会話をしながら登校していたらいつも間にか学校、更には教室にまで彼女は入っていた。

 幸い他の人からは認識されることはないのでここにいても問題になるということはないだろう。登校しているときも、こうして学校の中にいる今も周りからの視線や会話に違和感は感じない。いつも通りのくだらない話し合いが淡々と続いている。


「そうですねぇ。私としては拓馬さんと一緒にいたいんですが……その表情を見るにそれは望まれないようですし……どうしましょうか?」


「そうだな。図書館にでもいればいいんじゃないか。あそこなら普段人の出入りはないだろうし、何より時間もつぶせるだろうからな」


「そうします、昼休みくらいになったらまたここに来ます」


「いや、俺が行くよ……ここはお世辞にも居心地が良いとは言えないから」


 何か言いたげな表情をしていたが彼女は黙って頷くと教室の後ろの扉から出ていった。


「……らしくもない、な」


 別に俺はこのクラスで何かをしたというわけでもない。

 俺が言いたいのはただそれが一つの小さな教室だとしてもそこは社会と変わらない、ということだ。


 誰もが進んで喜んで編入生や転校生を受け入れるとは限らない。

 いや、この言い方では誤解を招きそうだ。

 俺は編入生でも転校生でもない、俺は三月にとあるに巻き込まれた。

 そのせいで、生まれて初めて病院に入院するなんて目にあった。それもあって俺は最初からこのクラスで過ごしていない。

 簡単な話、俺が再び登校出来るようになったころには既に俺の居場所はなかった。俺はスタートが出遅れクラスの輪に乗り遅れたのだ。

 そういう意味ではここはどんな現実社会よりも過酷なのかもしれない。

 たった一度の失敗がその人の今後を変える、それは至極当たり前のことだ。

 でも、この小さき世界での失敗はきっとどんなものよりも大きくなってしまうのだろう。悲しいかな、それが人間の性ということだろう。

 でも、俺はそこまで気にはしていないしむしろ今のこの生活が気に入っている。退屈ではあれど不満はない。


「……ねぇ、聞いてる? 話があるんだけど」


 俺のどうでもいい思考を中断する声が聞こえた。

 顔を上げると目の前には少女の顔があった。


「ん、あぁ、何か用か?」


 こいつ、このクラスの奴じゃないな。

 というかこんな人この学年にいたか?

 真っ白い肌にそれよりも澄んだ白い髪、やる気のなさそうな表情とは裏腹にその青い瞳はこれまでかというほどに輝いている。

 ちらりと足元を確認する。この学校は学年ごとに色が決まっているのだ。

 この人が履いている上履きには赤のラインが入っている。

 つまりは二年、先輩ということになる。


「うん、話があるんだ放課後、ここにきてくれたまえ」


 それだけ言い残すと先輩は俺の返事も待たずにさっさと教室を出て行ってしまった。教室はざわめきだし、視線が次々と俺に集まる。

 呼び出されるようなことはした覚えがないしそもそも先輩と慕う人は俺にはいない。帰宅部に先輩も後輩もないからね。


「はぁ、いったい何の用……ってここは」


 渡された紙切れには雑に書かれた校舎の見取り図と赤く囲まれた一つの教室があった。この赤く囲まれたところに来いということで間違いなのだろう。

 でもここは、俺の記憶が正しければ……。

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