つまりはそういうことです。
目を開けると視界が真っ暗に染まっていた。
何事かと思い顔があると思われるところに手を動かす。
何かが手に引っかかった感触がすると途端に視界が明るくなる。どうやらタオルのようなものが顔にかけられていたようだ。
これはハンカチかな?
「……そうか、俺は風呂場で……」
まさか自宅の風呂場で溺れることになろうとは。
流石に情けないとしか言えない。
「あ、目が覚めましたか?」
彼女も僕もいつの間にか最初の格好に戻っている。
「……はぁ、結局こっちも夢なんかじゃないんだな」
少し期待していた、全部俺の妄想だと、ただの夢でしかないと。
まぁ、それはそれで少し思うところがないというのは噓になるが少なくともその方がまだ気が楽だった。
「なぁ、説明をしてくれないか?」
「ふふぅ、どんとこいですよ。好きな食べ物や趣味からスリーサイズまで何だって答えますよ」
それはそれで乙女としてどうなのだろう。
いやまぁ、聞くつもりはない、ほ、本当だぞ。
「それで……君は本当に幽霊なのか?」
これが根本にある一番大きな問題だ。
「多分、それは間違いありませんよ。だって生身の人間がこんな風に空は飛べませんから」
どこか楽しそうに空中でターンを決める。
でもそうだとしたら、いやそれ以外に最適な解はないのだろう。
彼女が浮いていることにも、鍵のかかっている家に入れたことも、幽霊ならば説明ができてしまう。
「その割にはしっかり扉を開けるよな。幽霊なんだったら開けなくてもいいんだろ?」
「いえ? 流石に扉は開けないと通れませんし、地面にも潜り込めません。私にできるのは浮いていることくらいですよ」
まぁ、幽霊にもいろいろとあるのだろう。
物体を透過するというのもこっちが勝手に決めていることだし……。
「ん? ならどうやってこの家に入ったんだ?」
ちょっと待って、鍵も持ってないのに玄関からは入れないよね当然窓なんかも閉めているわけで……。
これが本当のホラー……。
「知ってます? 窓ガラスにガムテープを貼って、そこを叩けばあら不思議。そこには音もせずに鍵の開いた窓が」
「ちょっと待って、そのガムテープとトンカチは何? まさか本当にそうやって侵入したの?」
どこからともなくガムテープとトンカチが出現する。
それはもう普通に犯罪者がよく使用する手法だ。この人……この幽霊? 堂々と犯行を供述したんだけど、俺はどうすればいいの?
「ふふ、冗談です。普通に裏口から入りました」
「……この家、裏口ないぞ……」
少女の笑顔が凍りつきみるみるうちに青ざめていく、幽霊なのにここまで表情豊かなのか。
じゃないじゃない、あまりのことに軽く現実逃避をしていた。
ええっと、こういう時って110番でいいの?
「……あはは、冗談ですよね?」
「……いや、こっちのセリフなんですけど。本当はどうやって入ってきたんだ」
流石にさっきのトンカチとガムテープのコラボレーションではない、んだよね。そうでないことを願いたい。
そうなった場合間違いなく俺は通報しなくちゃいけない。
でも、幽霊を通報しても……。
「い、嫌です。教えたくありません。知られたくもありません、知られるくらいなら私は死にます」
「いや、言うまでもなく死んでるじゃん」
「あぁ、盲点でした。まさか、この奥義が使えなくなるなんて……幽霊になるのも考えものですね」
てへっと舌をちょっと出して軽く頭を叩く。
「それで?」
「い、嫌です。だって仮にも女の子が使うような手段じゃないんです、そう幽霊にしか使えないような、つまりはそういうことです。ガムテープもトンカチも使ってないのでその携帯はしまってください」
幽霊にしか使えない。すり抜けるわけじゃなくて……。
あぁ、今思いついたのが彼女言う方法ならば確かに言えるような手段ではないな。
「隙……むぐぐ……」
「それ以上は本当にやめてください。私のハートがもちません」
うるうると目を潤わせて懇願する少女。
流石にかわいそうなのでこれ以上は追求しないことにする。
なんだか今日はもう話にならない気がするしちょうど眠くなってきたから詳しいことは明日でいいかな。
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