第3話 金子堅太郎と樺戸監獄と北海道囚人道路の話
今回はエッセイというか、まとまりのない長い呟きです。
金子堅太郎はよく北海道の囚人道路の話や、樺戸監獄の話に出て来ます。
金子が北海道の視察に行ったのは明治18年。
「伊藤博文の腹心」という形で紹介されることが多いですが、この頃の金子堅太郎は井上毅の紹介で明治17年に伊藤の部下になったばかりです。
金子堅太郎の視察に付き添ったのは奥田義人。
奥田も明治17年に東京大学を卒業したばかりです。
二人は数ヶ月掛けて、徒歩で馬で船で北海道を回りました。
そして、金子は『北海道三縣巡視復命書』を提出するわけですが、囚人道路と金子の関係について、いくつか思うところがあるので、つらつら書きます。
1.金子堅太郎以外の北海道意見を参照されない
当時、北海道を視察したのは、金子堅太郎だけではありません。
明治15年には西郷従道農商務卿、山田顕義内務卿、佐々木高行工部卿が北海道巡回をしており、明治19年には井上馨・山縣有朋両大臣が多くの部下を連れて、視察を行っています。
北海道に関する方針は金子の建白書だけで決まったとするような意見もありますが、伊藤の新米秘書官過ぎない金子の意見がそんなに強かったのか? 他の人の意見はどうだったのか? と疑問に感じるところです。
2.囚人使役は囚人道路オリジナルではないこと
日本国内では幕末に白糠炭鉱や製鉄所で囚人使役が始まり、明治になると明治6年に三井財閥の三井三池炭鉱で囚人使役が始まっています。
この点が書かれず、北海道の囚人道路だけが特別に囚人が使役されたように書かれているものもあります。
他国や他の場所でも、また、囚人道路の前からも囚人使役があったという点は説明として必要なのではと思います。
3.月形潔などの監獄側の意見が参照されない
樺戸監獄の典獄・月形潔は福岡出身で、金子堅太郎の遠い親戚です。
『北海道三縣巡視復命書』は囚人道路や監獄の部分は一部分で、教育や開拓など多岐にわたっており、金子は現地の人の意見を多く容れたと考えられます。
囚人使役についても月形の意見を容れて書いたという意見もあり、当時の北海道や監獄側の意見がどうだったのか、もっと参照されてもいいのではと思います。
4.金子堅太郎はそもそも自由民権側にいたことが考慮されない
金子堅太郎はハーバード大学を卒業して帰国した後、小野梓の『共存同衆』や沼間守一の『嚶鳴社』に参加し、演説会や外国人を招いてのイベントなど積極的に自由民権活動を行っています。
自由民権運動で活躍した思想家・馬場辰猪とも仲が良く、ふたりで一ヶ月旅行に行ったりもしています。
囚人道路は自由民権派の弾圧、罪のない思想犯・政治犯も送り込んだという意見もありますが、本当に自由民権派の思想犯が送り込まれるとしたら、金子堅太郎は自分の友人がそこに送られるかもしれないわけです。
金子は官職についたため、自由民権運動から離れてはいるものの、関係が断絶したわけではなく、明治20年代の馬場辰猪や小野梓を偲ぶ会にも参加しています。
本当に自由民権派を送るつもりだったら、その点は気にしなかったのかな? と引っかかります。
5.岩村通俊と林有造と自由党
初代北海道庁長官・岩村通俊は北海道の交通網を整備するため、囚人使役に積極的だったと言われています。
しかし、岩村通俊の弟は自由民権運動家の林有造です。
林有造は西南戦争の時に、高知で挙兵を企てた『立志社の獄』で入獄しています。
自由民権活動家、過激派ということで思想犯として北に送られるならば、林有造も十分に該当者たり得るのです。
そういう点はどうだったのだろう? と気になります。
特にこの話にオチはないのですが、なんとなく気になるなーと思う点を並べました。
金子堅太郎は大正・昭和にいろんなところで講演や思い出話を語り、その中には
「ちょっと自分のいいように脚色してない?」と思えるところもあるのですが、この『北海道三縣巡視復命書』については何の手も加えてない感じなのです。
金子堅太郎研究の第一人者である高瀬暢彦先生も、『北海道三縣巡視復命書』を出したときも昭和になった頃も、金子がどう考えていたのかわからないと苦慮してらっしゃいましたが、自分もいろいろと疑問に思うところがある感じです。
『鎖塚』を始め、囚人になった側の人の本を読んでみないとわからないのですが「今の時代なら罪にもならないような自由民権派の人が囚人となり、苦しい労働をさせられた」「“囚人なら工賃が安く、死んでも監獄費の節約になる”と金子堅太郎が最初に言い出して当時の囚人の運命が決まった」というのが絶対なのか、いつか本を漁ってみたいなぁと思ってメモ的に書きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます