第9話

「なんかものすごい下がうるさいブヒな」

ローグのベッドを独り占めしてぐったりと目をつぶっているとしたが騒がしくなってきた。

この魔王様の眠りを妨げるのは誰だと言いたいところだが多分俺様は先代の王都言う位置になっていると思う。

おそらく今の魔国の王は俺様の跡を継いだ他のものがなっているだろう。

人間たちに実質殺された俺を魔国は受け入れてくれるかわからない。

だがもう夢を諦めたくないと決めているこっちにしてみれば関係のない話ブヒ。

魔王ナザールは死んでローグに名付けられたポップという名前を俺は今後名乗って行こうと思う。

ローグはこれから魔国と人間の国を結ぶかけはしとなってくれるはず。

あの純粋な心があれば。

もちろん心が汚れた人間どもが接触して考えを捻じ曲げようとしてもこのポップ様がいる限りそんなことはさせないブヒ。

うるさくて眠れないとゴロゴロ寝返りをする。

そんなこんなで数分経った頃にマリーの声が聞こえてきた。

「どうしよう、心臓が止まっちゃってるわ!?」

ちょっと待てよ。

これから一緒にやっていくはずの少年が死の瀬戸際にいるだと!?

どうしてだ、俺の魔法は完璧だったはず。

(ここはこの偉大なポップ様の出番だな)

急いでポップの部屋から出てリビングの中に入る。

大人たちはギョッとした目で見てくるがこちらを見ている余裕がないだろう。

小僧どもは何をしておる。

「邪魔だブヒ、ちょっとどいてろブヒ!」

ローグの状態に対応できず戸惑っている奴らを俺様は無理やりかき分けてローグの前に立つ。

必死にマリーが心臓を動かそうと処置をしているがもうこうなってしまえば今の医療だと助けられないことは誰だってわかるブヒ。

それでも必死にマリーが手を止めないのは誰より大事な息子だからだろう。

一緒に生活していて深い愛情を持っているのは理解している。

「このポップ様がローグを助けるブヒ、安心するブヒ!」

俺様が名言を口にしているのに全くマリーには届かず、ずっと処置を施そうと必死になっている。

俺様を無視するなど100年早いわ。

正気を保ってない。

俺様は申し訳ないと感じながら手加減を加えた拳骨をマリーの頭にぶつける。

ふん、痛いだろうが正気に戻すには一番手っ取り早い方法だからしょうがあるまい。

「いきなり出てきて大事な息子を助けようとしているマリーをぶつなど俺は許せねー!」

「俺様に向かってこの拳とはな、俺様をなめてるのか!」

ボルグが俺様に向かって本気の一撃を放ってきた。

これが人間の武闘家で一番だった男の攻撃か。

俺様は拳を腹に受けた後、ボルグの顔面にお返しとばかりに左ストレートをジャンプして打ち付ける。

身長がこのオークもどきになってから小さくて飛ばなくてはならないとはなんたる不覚。

「マリー、お前はもうすでに魔法が使えるようになっている、自分の息子に魔法をかけるブヒ」

俺はローグの服を早急に脱がし顔が腫れているマリーにアイコンタクトする。

マリーは信じられないようにこちらを見つめてきた。

呪いがかかっているから無理だと思っているようだが全部ローグに移したから関係なくなっているはずだブヒ。

「私には魔王ナザールにかけられた呪いがあるのよ、無理に決まっているじゃない!」

正気を取り戻し諦めとともに涙を流してしまっている。

そんなマリーの顔を両手でつかみ俺様の顔の前に持ってくる。

なんだこのきれいな顔は。俺が好みな顔をしているじゃないか。けしからん!

「この俺様が言っているのだから真実だ、いや信じろ」

場が凍り付く。

そしてボルグからとんでもないほどの殺気が飛んできた。

いくらマリーが好きだからってそんな目で睨んでくるんじゃないブヒ。

おいなんでマリーは顔を赤くするんだブヒ。

なんかこっちまでドキドキするブヒ。

俺様のピュアな心が揺れ動く。

こんなきれいな女は魔国にはいなかったブヒよ。

「わかったわ」と返事したマリーを離し俺はローグの体にいったい何が起こったのか探り始める。

何か異常があるとは思えない。

この状態は一体どうしたというのか。

一番近くでローグを観ていたジンタに話しかける。

「お前、ローグに何があったかわからないブヒか」

「お、俺も何が起こっているかわからなくて、・・・・・・・・そういえばさっき体が突然光りだしたんだ!」

なるほど、体が光るということは紋章の類ではないのか。

俺様達魔王になる王族はみな紋章を有するのだが発現するのに痛みが伴う例がごくたまに起こる。

実際俺がそうだったから辛さはわかる。

死ぬほど痛くてあれ以上の痛覚は死ぬときも感じられなかった。

思い出したらむかむかしてきたぞ。

あの無駄に顔面偏差値が高い男に殺されるなど一生の不覚。

童貞さえ卒業できていないこの俺様をなんども経験している雰囲気の勇者に殺されたことは今でも根に持っているからな。

ちょうど原因らしきものに当てを絞れているところでマリーが回復魔法をローグに唱えた。

すると見る見るうちに怪我が治って行った。

あのくそトロールどもはこの俺様の命を奪おうとしたのだから当然の罰を受けてもらった。

「嘘、本当に魔法が使えるようになってる!?」

「そのまま回復魔法をし続けるブヒ!」

俺は紋章が前から見て何もなかったから背中にあるんだろうとローグの肩が上になるようにする。

やはり紋章らしきものがあると思ったら3つの模様が描かれていた。

(これやばいブヒよ、なんで俺様の一族の物が出てるブヒか!?)

俺様は一瞬やってしまったとばかり停止をしてしまう。

可能性としてはあったはずだが頭から抜けてしまっていたのである。

すぐに動き出し周りを確認する。

しかしもう遅くみんな目をぱちぱちと焼き付けていた。

これやばいブヒ。

「なんで王族の証である紋章がローグの背中に浮き出てるいるのか、僕は気になるね」

王族、王族、王族。

そうかあまり俺様達の紋章は人間の世界には知られてないはずだブヒ。

知っていたとしてもボルグとマリーしか知らない。

これは俺様の勝利だな。

マリーとボルグが何か漏らさないか様子をうかがう。

ボルグはあのくそ王がとか何とか言っていて気付いてなかったがマリーは絶望した顔をしている。

これはマリーをどうにかしなければならない。

それに俺様達の紋章に興味を示すものもいる。

リーゴはかなり興味審が旺盛のように見えるから気を付けないといけない。

「心臓が動き出したブヒ、多分紋章の数に体が適応するのに遅れてしまっただけだブヒ」

俺様はこれ以上じっくりと紋章を見られ覚えられるのを嫌い早急にローグに服を着さる。

もう大丈夫だとマリーに伝えるととりあえずジンタに回復魔法を唱えた。

ローグに起こった現象がどういう現象だったのかわからないがそれでも回復魔法で体をちゃんと回復したおかげで心臓が動き出したということは器が今耐えられる状態ではなかったということしかどうやったって考えつかないブヒ。

それよりもマリーに本当のことを伝えなければならないブヒ。

多分あの絶望した表情は俺様の紋章を見ているのだろう。

とりあえず、この場をどう乗り越えるか、考えなければならないブヒ。

今向けられている殺気が2つほどある。ボルグとリーゴからだろう。どうにかして逃げたいと思っているが呪いが解けたこと口にした時点で怪しまれてもしょうがないブヒ。

「逃げられると思うなよ・・・・・・・・呪いのこと何か知ってんだろ!」

「そうだね、ここできりきりと素直にはいてくれるとありがたいかな」

「お前らには話さないブヒ、俺様がお前らごとき雑魚に倒されるわけないだろ」

俺様は本気で殺気を放つ。

ここで俺のことを話すのはあまりにリスクが大きい。

こんなところで戦いたくはないが捕まってしまえば何されるかわかったもんじゃない。例えば真実を口にしてしまうような薬を飲まされるかもしれない。

そうならないためには俺様が2人を倒さなければならないブヒ。

「ここで暴れるなら出て行ってくれるかしら!」

何時でも戦闘態勢に入れるように3人にマリーは怒鳴る。

さすがの俺様もビビるぐらい怖かった。

先に仕掛けてこようとした2人も罰が悪そうにする。

これはどうやら戦わずに乗り切れるのではないか。

俺は素早く殺気を放つのをやめて戦わないぞと意思表示をした。

ジンタの治療も終わっており、先ほどから元気がなかったリサも元に戻っていることからこの場は解散になった。

最後まで俺がこの家に残るのにボルグは反対していたがマリーが「今日は出てって!」と追い払ってしまった。

残ったのはいまだに寝ているローグと他俺様とマリーだけになった。

俺様は勝手に魔法を唱え結界を張る。

これで外にはこちらの声が聞こえないはず。

俺様の大勝利ってことだブヒ。

マリーはすらっと立ち上がりキッチンに向かいほどなくすると料理が入った皿を持ってきた。

ちょうど2人分。

正直今晩のマリーは何をするのかわからないほど情緒不安定になっているからか、俺様はどこで地雷を踏んでしまうかわからなかった。

とても不安である。

食事の準備が整っておいしそうなボンゴレビアンコを俺様はマリーが食べ始めるのを待って大き目なスプーンの上にホォークでクルクルと巻き口に入れる。

とても美味で魔界で食べられるような味ではない。

ふざけたことに俺様が魔国の王族であるのにもかかわらずこんなにおいしいものは食せなかったブヒ。

もとから魔国領はどこを行っても荒れ地になっている。

俺様がどんなに仲間たちと手を加えようとも土地は死んだまま。

今でも悔しいブヒ。

どれだけ種族として優れていても生きるための物がなければ意味がない。

正直人間が羨ましくてしょうがないブヒ。

魔国では戦争をして侵略をしていけばいいじゃないかという声もあるがそれは断じてならないと思っている。

戦争が万が一起きてしまわないように魔国に帰る必要があるブヒ。

決心して話し出そうとするとマリーが「ちょっと待っててね」とキッチンに行ってしまった。タイミングの悪さに俺様は玉ねぎのスープをすする。

リセットだブヒ。

帰ってきたマリーはお酒が入っているであろう瓶を持ってきていた。

さらに2人分のワイングラスも。

これから真剣な話をしようというときにお酒が入ってしまって大丈夫ブヒ?

「貴方モンスターだけどお酒大丈夫かしら」

「もちろん飲めるがすでに注いでしまっているのに言うのが遅いブヒよ」

マリーは穏やかにフフフと笑う。

あまり女性と食べることがなかったからか、どう対応すればいいのか悩ましく思ってしまう。

白ワインをジッと眺めた後口にくわえる。

久しぶりのアルコールが口の中に充満して気分が良くなる。

果物の香りが鼻から抜ける。なんて贅沢な時間なのであろうか。

「実はな俺様は、もとはマリーたちのパーティーに殺された魔王ナザールという男だ」

緊張しながら自分の身を明かした後にマリーがどんな反応をするか観察するが柔らかな雰囲気を漂っている。

「あまり驚かないわよ」となんか楽しそうにしている。

あれ、なんか思っていた反応と違うブヒ。

「ローグの背中に魔王ナザールの紋章があった時は落ち込んだけど、貴方が呪いをかけた張本人だってことは冷静になればわかったもの」

「確かにかけたのは俺様だが・・・・・・・・・憎んでいないのか」

「確かにローグのことでとても悩んだわ、でもローグをあなたは全力で助けてくれたでしょ」

「それはローグが死んでしまったら俺様が死んでしまうからであってだな「嘘よね」・・・・・・・嘘だブヒ」

「諦めかけていた私を立ちなおさせてくれた貴方は勇者みたいだったわ」

マリーに話の主導権を握られてしまっている。

顔周りが熱く感じるが熱でも出ているのだろうか。

俺様も生きていれば子供がいてもおかしくはない年になっていることだろう。

いかんいかん。

マリーの顔を見ているとろくなことを考えない。

俺はすべて打ち明けるつもりではなかったがお酒も入っているからかそれとも他の要因があるからなのかベラベラと自分の国を救いたいことやそのためにローラ王国に訪れていたことなどは最初から話すつもりだったが自らの恥ずかしい経験などを離してしまった。

とても恥ずかしいブヒ。

気が付けばワインを6杯も飲んでしまった。

ブドウの香りが軽やかでどんどん口の中に入って行くブヒな。

こっちの事を全て丁寧に聞いてくれた後マリーがものすごく酔いながら「次は~私の番かしらね~」語り始めた。

なんか悪態も尽きている。

主に聞かされたのは俺にかけられた呪いのせいで本当は魔法だがその後に起こった出来事についてマリーのボロボロの心の内を聞かされた。

俺様からしたら正直気に食わぬ内容だった。

俺を討伐する何か月か前に無駄に顔面偏差値が高い男との行為のせいでマリーのお腹には子供がいた。

その子供がローグらしい。

待て待て今知ったことだが俺の童貞卒業の夢を奪った男が現ローラ王国の王だと!?

なんたる不覚。

次にあったら八つ裂きにしてやる!

しかも名をローギスと言うらしい。

覚えたからな。

いい関係になっていたから俺様を倒した後子供がお腹にいることを告白しようとするが魔法が使えなくなってしまったマリーにはその権利はないと大臣たちや周りの貴族たちに拒まれてしまった。

さらには王族の血が入っていることも漏らすことは許されないと現王妃と大臣に言われてしまい家に帰り親が誰であるか話すことができず言い争いになった挙句この土地にたどり着いたと。

これはローギスの気がつかぬ内に大臣に最低の野郎に仕立てあげられていたということか。

誰がどう見てもマリーが悪くないだろう。

話を聞く中でローギス自身が悪い奴ではないのだろう。

正義感もあっていい奴なのも伝わってくる。

しかし、純粋すぎて馬鹿すぎる。

俺の予想だと鈍いローギスはマリーに子供がいることを知らず王妃と大臣の口車に乗ってしまった形になったのではないかと思う。

まぁーマリーにはとても同情するがローギスにはそんな感情がわかない。

一回でもやったらできているのではないかと警戒するのが普通だろ。

「それは災難だったな、でも俺らがいるから安心するブヒよ」

「そうね~、これからもローグを支えてね」

「もちろんブヒよ、ここの家にいる奴は俺にとって守る対象ブヒよ」

そんなことがあって次の日になってからマリーにすごい頭を下げられた。

最初なんでかわからなかったが先代の王が俺にやったことの事だった。

マリーにはいろいろ迷惑かけたし謝る必要がないとは伝えたが終始申し訳そうだった。






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