第8話

「何か忘れているような気がするんだよな」

ちょうど学校が終り自分の家に帰ってリビングでポップを抱っこしながら思い出そうと頭の中を探っているとママから声をかけられる。

「今日はね、ジンタ君の母であるリサさんが家に来ることになってるのよ」

「そうなんだね・・・・・・・・・・・あっ思い出した!」

僕はポップを抱っこしたまま家から飛び出して森の中の公園に向かう。

今日は決闘をするってジンタとの約束があったのだった。

どうして忘れてたのだろうか。ここ最近ずっと忘れてた。

走るのが遅くなってしまうからポップを降ろして全力で走る。

ポップも僕と同じ速さで隣に並んでいる。

せっかく体を鍛えたのに意味がなくなっちゃう。

ジンタも体を鍛えていることを知っているし自分が変わるきっかけになったことだから何もすることができずに終わるのが嫌だった。

それにこの機会でジンタと友達になれたらいいなって思ってたんだよね。なんかここ1週間のジンタは、本当は優しいのではないかと何となく思っていたし、一緒に冒険者になるんだったら魔法が得意なジンタと一緒にパーティーを組めたら頼もしいなと思い始めていた。

だから逃したくなかった。

チャンスだから。

森の公園が近づいていて来ると3人ぐらいの怪我をした僕と同じクラスの子たちが走って通り過ぎて行った。

あれは、ジンタの取り巻きの人たちなんじゃないか。

(ジンタに何かあったんじゃ!)

嫌な予感を胸に公園が見える場所まで来たがそこにまた見覚えがある子が倒れていた。

腕が変形しており、上半身が青く膨れ上がっていてさっき通り過ぎた人たちよりも重い怪我を負っている。

僕は急いでその人の近くによると、痛みに耐えながら「ジンタが俺らを逃がすために」と声が小さかったがこちらに異常が伝わった。

(ジンタが僕みたいなことになっているかもしれない!)

僕は急いで公園の中に入ろうとすると涙声に一人の少年の声が聞こえてきた。

「ローグにあやまって、友達になって、パーティー組みたかった」

「だったら一緒に組もうよ!」

僕は無意識に口にしていた。

トロールや涙を流しながら掴まれているジンタが一斉にこちらを向く。

僕はトロールに恐怖を抱いた過去の自分とは違うと自信を持ちながら「僕が来たよ」と出しながら戦う構えをとる。

ジンタを掴んでないトロールが僕を掴もうとしてくるのを修行で身に着けたオーラを拳にまとい相手のお腹にぶつけた。

「ぐおーーーー」とお腹を抱えながら僕が攻撃したトロールはうずくまる。

僕はトロールに通じるんだと実感しながらジンタを掴んでいるリベンジ2体目の腹にも同じく攻撃を放つ。

1体目と同じように腹を抱えながらうずくまったがジンタを離していないことに気が付き腕に殴りつけ解放させる。

「僕がトロールたちを倒すからジンタは逃げて」

「俺もう体が動かないから・・・・・・・・できないと思う」

「わかった、僕が倒すから待ってて」

僕はちょうど痛みが引いたトロール2体が動けるようになったのを確認して構えをとる。

僕は素早く相手の懐に入り蹴りをかます。

大きさが僕たちの何倍もあるからちょうど膝のあたりに当たる。

体勢を崩したトロールは後ろに倒れて気を失う。

「ローグってこんなかっこよかったのかよ」

僕はうれしくて照れてしまう。

だってあのジンタにそんなこと言われたら嬉しいでしょ。

緩めていた顔を真剣なものに変えもう一方のトロールにも同じく膝を蹴りつける。

同じく倒れたが気までは失わなかったみたいで立ち上がろうとしてくるものだから傷ついてない右膝を殴りつけた。これでもう動けなくなったと思う。

そういえばポップはどこだろうと思ったら公園の端で横になっていた。

マイペース過ぎないだろうか。

「酷い怪我だね早く帰ろうよ!」

「俺今まで酷いことしてきたのにどうして助けてくれたんだ」

「だって、僕はギルドの冒険者だよ、それにジンタは魔法が得意だからパーティー組めたらいいなって思ってたし」

ジンタは驚いた顔でこちらを見てきた後大量の涙を流しながら「今までいじめてごめんと」と謝ってきた。

僕はジンタに肩を貸しながら歩き出そうとすると大きいなし音が聞こえてきた。

ドスドスと。

僕とジンタは急いで後ろを見ると公園の奥から赤いトロールが出てきた。

先ほどのトロールよりはるかに大きくこちらを見つけるとおいしそうな物を見つけたかのような目をし始めた。

トロールの進化系であることは間違いないだろう。

とても先ほどのトロールたちよりも強いことは伝わってきて、冷や汗がローグとジンタともに流れる。

赤いトロールは仲間が横たわっているのを見て怒りはじめた。

トロールたちは群れで行動していたかもしれない。

どうすればいいのか、ジンタを逃がしながらなんて無理だ。

絶体絶命の中ちょうどポップが目に付く。

(ポップで何か打開策があるのかな・・・・・・・・・・よしこれでいこう!)

「ポップ、ジンタを運んでくれないか!」

ポップは、はるかに僕たちよりも小さいけどどうにか足止めできれば少し遠くまで行けるかもしれない。

僕の力は通じるかはわからないけどジンタに手が届くことが少しでも減るかもしれない。

ポップは僕が指示したとおりにポップは走ってこちらのもと来た。

僕はジンタを地面に寝かせる。

「嘘だろ、俺を置いてローグお前が逃げるべきだろ!」

「いや、僕がどうにかするから逃げて、・・・・・・・・・・助けを呼んできてほしいな」

ジンタは悔しそうにしながら、「なんでこんな俺を助けるんだよ」小さな声を漏らし唇をかんでいた。

ポップは僕に目線を合わせた後、ジンタを引っ張って公園を出て行った。

てっきり重いから引っ張っていくのかなと思ったけど軽々と歩いていくのを見て安心した。

でも今、助けが来るまで待つしか僕には選択肢がない。

だけどある程度時間稼ぎができても助けに誰かが来る保証なんてない。

それにここで僕がすぐにやられてしまえば町に被害が出てしまう。

勝てるかどうかわからないけど、やるしかないんだ。だから。

「お前をここで倒して、家に帰る!」

何時まで待てるか、僕がこのトロールと戦える時間は多分長くないと思う。

さっきのトロールより強いだろうし、それなら僕は全力で戦いたい。

僕は深呼吸をして赤トロールをにらみつける。

「ありがとう、待ってくれていて」

何故だかわからないけど赤いトロールは少しの時間を待ってくれていた。

いや正確には仲間を見て何かを考えていた。

だけどこのトロールはこちらに敵意を向けているのはわかっているから、こちらに攻撃してくるだろう。

と思ったのだが木の周りをうろちょろし始めた。

(何もしてこないけど・・・・・・戦う気がないってこともないだろうし)

赤いトロールは何かを見つけたのか飛び跳ねたり揺し始めた。

一体全体何をしているのだと不思議に見ていると、棍棒みたいのが落ちてきた。

えっなんでそんな凶悪なものが気に引っかかっていたの!

どうやら赤いトロールは棍棒をとるために行動していたみたい。

なんか相手は武器持っているのにこちらは素手なんて不利だよね!

どうして人型モンスターたちはみんな道具を持つのだろう。

ずるいよずるいよ。

(武器を持った瞬間このトロール、やりますかって目になったよ!)

赤いトロールは棍棒を振り回しながらこちらに攻撃してきた。

棍棒を振る速度が速いがそこまでの行動が少し遅いため難なく避ける。

相手の腹に思いっきり拳をぶつけるがぷよーんと熱い脂肪で弾き飛ばされてしまう。

「嘘だろ、さっきのトロールより脂肪が厚いじゃないか」

先ほど倒したトロールより断然お腹の脂肪が多く全く攻撃が入らない。

それどころかトロールは蹴りを僕にかました。

「すごい威力だよ、これ」

オーラをまとっているのに蹴られた箇所がひどく痛む。

これはまずい。

耐久力が高いとみて間違いない。

僕は少し距離をとりながらどうすればいいのか考えた結果、足元を先ほどのトロールと同じく食らわせればバランスを崩してくれるんじゃないかと思い立った。

(さすがに足に当てれば、バランスを崩してくれるはず)

赤いトロールの攻撃をよけて足元に蹴りをかます。

しかし、気づいたら僕の体に痛みが走り逆に蹴り飛ばされてしまった。

(全然痛そうにしてないんだけど、もしかして僕の攻撃がそもそも通じてないよ)

足の膝を蹴ったはずなのに赤いトロールは平気な顔をしていて自分の持っているもの実力が大差で負けていることにわかる。

地面から立ちとりあえず相手との距離をとる。

確実にこのままじゃいけないと感じているが現状打開策は思いつかない。

いやあるかもしれない。

ボルグが僕を救ってくれた時に使ったあの回転蹴りがあれば両膝をうまく攻撃することができる。

片方が効かなくても両方ならバランスを崩せるかもしれない。

僕が今一番マスターしたい技。

(まだできないけど、練習してないけど、やるしかないんだ!)

僕は赤いトロールが限界まで近くに寄るのを待って、相手の攻撃を避けて回転蹴りを目に焼け付いている物と同じように放った。

僕の左足からとんでもないほどの痛みが伝わってきた。

できるだけ力を込めた回転蹴りはトロールの大きな回転をしながら赤トロールの両膝にうまく命中した。

赤いトロールは後ろにバランスを崩して倒れた。

「もう足が動かないよ、今できるすべてを出し切った!」

僕は回転蹴りのおかげで左足に大きなダメージが入ってしまう。

だからと言って右足も回転軸にしたせいで少ししびれている。

これで赤トロールが起き上がってきたら、動けないから、どうにもできない。

どうか起き上がってこないで!

「あーこれ以上動かないで!」

赤トロールは起き上がろうとし始めてしまった。

しかし時間がかかっている。

ちゃんとダメージが入っているのだろう。

やっぱりこれって起き上がってきちゃうんのか。

僕は頑張って足を動かそうとするが思い通りにいかず、絶望するしかなかった。

赤いトロールは数分かけて立ち上がりこちらをにらみつけてくる。

自分の足が痛めつけられたことに怒りを覚えている。

横に置いてある棍棒を持ちこちらに少しずつ少しずつ近づいてくる。

(どうしよう、体が動かないし、かなり時間が経っているのに誰も助けに来ないなんて)

全力を出し切り、誰か助けが来るのを僕は待っていたけどさすがに襲い。

さっきすれ違ったクラスメイトがギルドの人を呼んできてくれたりしないのだろうか。大量の汗を流しながら、赤トロールの棍棒を見るしか僕にはできなかった。

そして赤いトロールがこちらに向けて棍棒を振り下ろそうとするとき何者かの刃が僕の命を奪おうとする輩の武器を持っていた腕を貫いた。

「待たせたな、遅れて登場だブヒ!」

マントを羽織って左腕には剣を持った人型の豚が僕の目の前に立っていた。

前回は人が助けてくれたが今回は違う。

助けに来てくれたのは、見た目はモンスターだけど大切な家族の子豚だって僕はすぐに気が付いた。

「なんでポップが人型になってんの!?」

「そんなの後々、あの巨大な脳無を倒したら経緯を説明してやるブヒよ」

ポップは赤トロールが痛みでこらえている間に素早く赤いトロールの胸をブスリと突き刺す。

大量の紫色の血が赤トロール胸や口から流れ出しそのまま後ろに倒れて行った。

とてもグロかった。

僕は初めてモンスターが死ぬ瞬間を目撃したのである。

体のダメージを忘れてあまりに生々しくて慣れてなかった僕はゲロを吐きそうになった。ポップは「お前この先なれないと、やっていけないブヒよ」と僕の背中をさすってきた。

ポップの手から優しさを感じられる。ポップは僕のことを心配してくれているのだろう。あっそういえばジンタはどうなったのだろう。僕は慌ててポップに聞く。

「ジンタは無事か!?」

「大丈夫ブヒよ、さっき倒れていた少年が多少動けるようになってたから預けたブヒ」

「そうなんだって、結構戦っていたと思うんだけど誰も助けに来てくれなくて」

「理由がわからないブヒが誰も助けを読んでないと考えたほうが自然ブヒ」

「だよね、あのわれ先に逃げってた同じクラスの子たちは何もしてくれなかったんだよね」

僕は結構ショックを受ける。

心の内で逃げて行った誰かが助けを呼んできてくれるものだと思っていたからだと思う。

ジンタを置いていく形になったのにわれ先に逃げていくのはいいけど友達なら助けを呼んだりするでしょ普通。

僕だったら救援を呼んでたな。

僕より少し大きいぐらいになったポップは僕をおんぶして運びながら語り始めた。

ポップは僕に魔王ナザールの最後を知っているかと聞いてきた。

魔王ナザールをまず知らないって答えると、苦笑いしながらその人物がどんな人生を歩んだのか説明してくれた。

魔国で1番の冒険者になることが夢だったが前代魔王の父親が何者かに暗殺され引き継ぐことになってしまった。

国民たちの笑顔が好きだった魔王ナザールは冒険者の道を諦めて新しい夢をかかげた。

魔族人よりも長い寿命とさらにこの星に住む人種の中では一番の戦闘力を持っていた。

でも土地は枯れていて食料が輸入でしか手にはいらなかった。

そこで今まで仲が悪かった人の国や一緒の大陸に国があるエルフ王国やドワーフ王国に自ら交渉するために手紙を送った。

ポップは「いかした、王だブヒ!」となんか胸を張っている。

しかし突然魔国に謎の病魔が発生したのである。

途中までうまくいっていた手紙でのやり取りも他の国々から一斉に拒否されていった。

どうしても国民を守りたかった魔王ナザールはそれでもあきらめず手紙を送り続け、ついに一つの王国から「交渉の場をこちらで用意するがそれでいいのなら話し合おう」と返事が来たのだ。

その国は勇者の国と言われていることで有名である。

魔王ナザールはとても喜んだ。

部下に罠だと反対されたがそれを押し切りその国に向かった。

だが信じていた物は罠だった。

部下を置いてきた魔王ナザールは勇者の国を統べる王様と王の間で話をしようとした途端たくさんの腕利きの兵士たちに囲まれた。

王の汚い笑みに相まってすぐに罠だと気が付いた。

生きて国に帰らなければならないとその場で腕利きの兵士と勇者の国の王を殺したが援軍はもっと強力だった。

王族でありながら最強の勇者とうたわれる男のパーティーが到着し、先頭になるが、先ほど受けたダメージもありはらわたを刺されてしまう。

死ぬわけにはいかないと執着心があった魔王ナザールは勇者のパーティーにお腹に子供がいる青髪の女性に魔法をかけた。

それは自分の魂を母とお腹にいる子供に宿らせて魔力を吸い子供をのっとるという恐ろしいものであった。

が魂を宿らせることには成功したが乗っ取ることはできずそこらへんに死にかけていた豚に魂の半分を入れて今や人型のモンスターに進化して世界征服を目論んでいる。

どう考えてもても目の前の豚のことでしょ!

「ポップの実の姿は魔王だったんだ!?」

「よく気づいてくれたブヒ、・・・・・・・・心が痛かったブヒ、それに魔法が使えないのは俺のせいだブヒ・・・・・・恨まないのかブヒ」

ポップの声はかなり暗かった。

僕やママに悪いことをしたと自覚している証拠だと思うし、話が嘘だとは感じられない。だからきっと真実なのだろう。

いきなり伝えられてどうすればいいのかわからないけど、国民のために時刻に帰りたいという気持ちは強く心に刺さった。

なんで僕たちの国がこんなことをしたのか、謎だけど大事な家族だし、恨む理由がない。

「嘘ついてないこともなんとなくわかったし、大事な家族だから恨んだりなんかしないよ」

「うれしいブヒ、ローグならそう言ってくれると思ってたブヒ」

「ちょっと待って、なんか軽くない、なんかその態度じゃ反省してないでしょ!」

「もちろんしてるブヒ、このポップ様は我が国に帰って苦しんでいる民を救うために沢山のお金を集めて魔国でも作れる野菜や耐えられる土を手に入れるブヒ」

ポップは張り切りながら今自分がしたいことを口にした。

僕はその夢を手伝うのもいいかなって思いつつ、冒険者としてもやっていきたいと考えていた。

今すぐには手伝うのは無理だと分かっているから「僕が冒険者として有名になったら手伝うよ」と伝えるとポップは残念でしたと言わんばかりにこちらに脅しをかけてきた。

「両立するブヒ、ローグの中には俺の魂もいるブヒから、無理ブヒ」

僕は何でか、聞くとどうやらほんの少し僕の中にあるポップの魂が抜かれれば僕は死んでしまうらしい。

そんな重要なことではないと耳を傾けているとこの豚は爆弾発言をした。

当の本人のポップは僕から自分の魂を引っこ抜くことができると主張してきた。

いやいや、それってポップに強制的に従わなければいけないってことだよね。

「嫌だー、それって僕がポップの言うことを聞かなきゃいけないってことじゃんか!」

「だからお前は俺と協力して魔国を救わないと死んでしまうブヒ」

「死んでしまうとかじゃなくて、ポップに僕が殺されるんでしょ!」

なんか魔法を使えなくなる以外にこんな呪いがあるなんて、どこまで腹黒いんだよ。ちょうど夕方が訪れようとしているのを僕は眺めていた。

昼間の太陽よりも熱く感じる。

もうお仕事が終わるというのに僕たちを力強く、見守ってくれているようで、目の前にいるポップのピンク色の肌とどこか重なって見えた。

ポップの体温は熱いなって自分の家につくのを待っているとオールバックの男性が走ってこちらに向かってくる。

目はいつもと違ってキリっとしていて額にはたくさんの汗をかいていた。

いつも見かける姿と雰囲気が合わないけどすぐにリーゴ先生だと分かった。

頑張って先生の名前を呼びながら手を振ると「無事だったんだね~」と緊迫した雰囲気を緩めながら走るのを辞め歩きながらこちらに歩いてきた。

まず第一にポップの姿に驚くべきだと思うけど、もしかして気づいてないのかな。

「本当によかったよ、心配したけど生きていてくれて安心したよ」

「心配かけてすみません、リーゴ先生はポップの姿を見て気になることありませんか」

「う~ん、ローグ君を持っているソードオークのことかい、あの子豚が進化しただけでしょ」

「えー!モンスターが進化するなんて大発見じゃないですか、それにポップがモンスターのこととか!」

「ポップ君がモンスターであることはわかっていたし、モンスター自身が進化するところをまだ目にした人は人類にいないけど、 僕は学生のころからうすうす気づいていたんだよ」

「リーゴはずいぶん優秀な頭脳を持っているブヒ、部下にしたいぐらいだブヒ」

リーゴ先生は目を丸くして「しゃっべったーーーーーー!?」と驚いた。

なんでそこなの!

僕はリーゴ先生がびっくりするネタがかなり自分と異なっていることにがっくりする。

普通は僕がこんな人型をする豚に運んでもらっている時点でおかしいのに、それではあまり反応せず、その後のことで目を飛び出るような表情を浮かべるなんて誰が予想するだろうか。

僕ならこんなのと出会った瞬間突っ込みたくなるよ。

ポップは心外だと言わんばかりに「なんでこんなことで驚いているんだブヒ」とイライラと大きな鼻から空気が放たれた。

鼻息はリーゴ先生の髪の毛を揺らす。

たかが鼻息で相手の髪まで出された風が届くなんて、どこまで強力なんだよ。

リーゴ先生もやり返そうと鼻息を荒くするが待ったっく風が生まれず悔しそうにした。そんなことで張り合わなくていいのに。

なんで鼻息を荒くただけなのに鼻血が出ているの!

「たくさんチョコを貰っちゃってね」なんか言っているけどもう夏だしまだそんな季節じゃないでしょ!

「とにかく、ローグ君の家に帰って色々と話さなくちゃいけに事になるから」

リーゴ先生も合流して僕の家に帰ることになった。

リーゴ先生はポップのことが気になるのか手帳を開きながらいろいろ会話をしている。

僕をそっちのけで。

例えばモンスターの進化についてとか。

ポップが言うにはどんなモンスターもある程度経験値を積ませれば進化することらしい。

あれポップは毎日寝ていたのになんで進化したのかな。

不思議でしょうがない。

リーゴ先生はモンスターが人になつくことがあるのかと僕も気になることを聞いた。

ポップは「人間が優しくしてくれれば懐くブヒ」と少し怒りながら言う。

これからはできるだけモンスターを殺すのは避けたいな。

だって人に危害を加えるモンスターもいるけどゴブリンみたいに話が通じる相手がいるかもしれないから、問答無用に殺すなんて僕にはできない。

リーゴ先生も何か興味深そうにしている。

ポップは人間側からの偏見が強すぎて危害を加えない大人しく暮らしたいモンスターたちが殺されていると落ち込みながら口にする。

そんなひどいじゃないか。

モンスターを倒したりするのは何のために殺しているんだろう。

人に危害を加えるからなのか、少し僕は心に引っかかりを覚えた。

かなり濃い会話をしているうちに家の前に着いていた。

リーゴ先生がブザーを鳴らすと僕と同じ青髪が目立つママが出てきた。

最初にポップを見て固まってしまった後に傷だらけの僕の顔を見て慌てて動き始めた。やっぱりこれが普通の反応だよね。

僕が安心していると、ママはポップには何も言わず、僕をリビングに引かれた布団に横にさせるように伝えた。

ポップは僕を素早く布団まで運ぶ。

かなり優しく置いてくれたから痛くなかったけど隣を見るとジンタが別の布団で気まずそうな表情を浮かべていた。

「あれ、お医者さんいかないの?」

「そこかよ、もともとこの辺には医者なんていないだろ」

「あれ、そうだったけ、いつもママが見てくれたから関りがなかったような」

「なんかオークっぽいのが目の前にいるんだけど大丈夫か!?」

「あー、家族のポップだから、危険な生物ではないよ」

ジンタは信じられない物を見るかのように僕を見てくる。

いやそうだよね。剣を持ったオークがいたら誰だってビビるよね。

今気づいたけど家なのだから剣をしまってくれない!

僕が伝えると「いつ敵が来てもいいようにだブヒ」と答えてくる。

怪我人がいる場で剣を構えているのはおかしいと思うよ。

それに剣をしまうところがないからなのかな。

「あれ、もう一人の大怪我をしている人はどうしたの?」

「あーあいつはところどころ骨折しているみたいだけど俺たちより怪我してないみたいだから家の人が迎えに来て帰ったぞ」

「そうなんだね、僕たちどうなるんだろうね」

「どうだろうな、体がうまく動かないから全身骨折かもな」

この怪我が治るのか、これからどうなるのか、分らなくて不安が少し出てくる。

医者が中央パリストンにしかいないからどうやっても治療してもらうには明日以降だし治るのにどんだけ時間がかかるのかわからない。

明日もしかして馬車で運ばれるのかな。

揺れるから絶対怪我しているところに振動が来て痛いよ。

それから玄関で話していたママやリーゴ先生がこっちに来て、僕たちの怪我について調べ始めた。

ママは僕たちの体を順繰りに見て、顔を青ざめる。

「これは酷いわ、回復魔法を使わなきゃ後遺症が残ってしまうわ」

「回復魔法が使える人は希少だからね、王都に行かなければいけない」

もしかして冒険者になる夢は絶望的になってきたよ。

後遺症が残ってしまったら人助けもできないし。

ジンタも落ち込んだ顔をしている。

重い空気が流れていてポップ以外の人たちはみんな暗い。

リーゴ先生は暗いというより悔しそうにしているような気がする。

それから何もすることができない中、僕のお腹が鳴ったことで、ママがみんな分の晩御飯を用意するためにキッチンに向かった。

沈黙を破ったのはリーゴ先生だった。

ママは回復魔法を使える一人だったらしい。

魔法が使えていれば今頃僕たちの怪我を直せているとリーゴ先生はすごく残念そうに話す。

ジンタはなんで魔法が使えないのか疑問に思ったらしく、こちらに聞いてきてどう答えればいいのか困っているとリーゴ先生が「そういう呪いにかかってしまったんだよ」と説明してくれた。

僕はそういえば張本人がいたと思いながらポップを見ると何か集中しているようだった。ものすごく真剣でぶひぶひばっかり豚特有の鳴き声を口にしている。

なんか様子が変だけど、どうしたんだろう。

暇になってきたしご飯まだできないのかなと大怪我をしている中、いつも通りの思考をしているとジンタが「俺のせいでごめん」って涙目で謝ってきた。

いきなりのことだったから驚いていると家のブザーが鳴った。

話がさえぎられるような形になった。

何時もの優しい表情を浮かべたリーゴ先生が「ちょっと見てくるよ」と玄関に行った。一体この時間に誰が来たのだろうか。

珍しくいないボルグかな。

さえぎられてしまったジンタとの会話の続きをしようとしたらさっきまで難しい表情をしていたポップが僕の耳元まで来た。

何か僕に秘密の用事でもあるのかなと思ったら誰にも聞こえない声で話しかけてきた。

「マリーに残されていた残りの呪いをすべてお前に移したブヒ」

「本当に!?もしかしてそのために眉毛にしわ寄せてたの」

「うるさいブヒ、しわを寄せてたブヒけど眉毛は存在しないブヒ」

「何の話をしているんだ」

ジンタも気になるのか話に混ざりたい様子。

ジンタまで僕は巻き込みたくなかったから今解決したことだから大丈夫だとジンタに伝えた。

なんか納得いってなさそうな顔をしているけど嘘はついてないから。

ポップは「寝てくるブヒ」と僕たちから離れていく。

その後にどたどた玄関から騒がしい音がこちらまで聞こえてきた。

「トロールに襲われたって聞いたけど、大丈夫なの!」

リビングに入ってきたのはジンタのお母さんであるリサさんだった。

ジンタが起き上がれないくらい怪我をしていることにすぐ気が付いてとても悲しそうだった。

フラフラ膝をついてそのまま固まってしまった。

その後にボルグが太陽のような笑顔で「結構高い牛肉手に入ったんだぜ」と場違い発言をする。

もしかしてトロールの件ボルグ知らないの!?

「おいおい、ローグその怪我はどうしたんだ!?」

「そんな大声で話さないでくれ、ローグンたちは数体のトロールに襲われたんだよ」

「なんだと!ここはトロールが頻繁に出るほど危ない場所じゃないだろ」

「確かにパリストンに危険なモンスターが出た話などここ100年間のなかったからもしかしたら、トロールが出る地方から群れで移動してきたと考えていたところだけど」

「マジかよ、それってやばいんじゃないか、王都のギルドは何やってんだ!」

「だからすぐ興奮しないで、僕は決して王都のギルドを信用してないから、今回の件だって知っていて情報を出さなかったのかもしれない」

ボルグとリーゴ先生は2人で現状の整理をしている。

ボルグはあのおいしそうなお肉を持ってきてる当たり市場に行っていたことは目に見えて分かるし、2人とも冒険者だったことから僕らが付いていけない話をしている。

野生のトロールが出ることがおかしいことは今思い返せばわかることだった。

僕たちが住んでいるパリストン領は人に危害を加えるモンスターはダンジョンに行かなければ合わないし殺傷能力がないから、とても不自然なことが起こっている。

「ジンタのお母さん動かなくなってしまったけど大丈夫かな」

「あーあ、俺の親父は死んでるからさ、俺が怪我したことですごく落ち込んでるんだと思う」

「ごめん、あまり話したくないことに触れたよね」

「なんで謝るんだよ、別に俺が生まれる前のことだし別にいいんだよ」

ジンタはどこか寂しそうにする。

僕もだけどやっぱりパパがいないのは辛いことだよね。

実は他の人のお父さんを見て羨ましかったり、なんでいないんだろうって感じていた時期があったからすごい心からわかるんだよ。

その分ママが他の親より愛情をくれたから今は別に気にしてないけどね。

「なんかお前体が光ってるぞ!」

「あれ本当だって、痛い痛い痛い!?」

体全体が言葉で言い表せられないぐらいの痛みに支配される。

心臓がバクバク言っているし、意識が飛びそうなくらい辛い。

どんどん痛さが増したと思ったら目の前が赤くなっていく。

耳も何も聞こえなくなってきてさっきから心配して声をかけてくれてる人が誰なのかも分からなくなってきた。

視界が赤いせいで何も見えない。

僕はパニックの中でついには呼吸ができなくなってきてしまった。

僕死んじゃうかもしれない。






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