第7話
ここ1カ月の豚の変わりようが凄い。
何が変わったか。
見た目もそうだし、内面的にも俺に攻撃するようになった。
今所属している学校に入ってからずっと豚と一緒のクラスで印象的だったのは魔法が使えないのと、それ以上に弁当が大きかったことだった。
ただ大きいだけじゃない。
いつも持ってくる俺の弁当の5倍はあるであろう大きさをしているのだ。
何時もは魔法が使えないことで豚を馬鹿にしていたが弁当の大きさのことはあまり触れたことがなかった。
単純に負けた気がして嫌だったからだけどな。
豚が変わり始めたのは多分間違いなく俺とけんかをすることになってからだと思う。
ちょうど期限が1ヶ月後ってことで辻褄が合う。
珍しく豚が冒険職についての本を持ち出してきたからいつものようにからかっていたら予想外の反応をされた。
口でやり返され俺は反応が遅れてしまった。
やり返してくるとは思ってなかったからな。
周りからの視線も相まって、俺は流れ的にケンカをしようぜと提案したのだ。
悔しかった。
今まで自分のほうが豚よりも上だと思ってたから。
だがそれで終わらなかった。
豚がケンカを1カ月後にしろと言ってきた。
うまく言いくるめられて豚の思うとおりになってしまった。
豚が真っすぐと力強い目をしていたからだと思う。
今まで見たことがない表情とともに。
ちなみに豚の真剣な表情を見たクラスの女子が痩せたらイケメン説を立ていたことに腹が立ったし、あいつの顔にもイライラした。
豚は隠れイケメンだった。
いつも情けない表情とだらしなさが合わさって不細工に見えていただけで痩せれば美少年だという事実に俺と一緒に遊んでいる連中は悔しそうにしていた。
なんか好きだった女の子が手のひら返しで豚のほうに行ってしまったからだとか面白いことを言っていた。
決闘の話をした後に魔法実技の授業があり俺の周りにいる奴らは今日も豚を馬鹿にしてやろうぜと悪い笑みを浮かべている。
俺は珍しくそんな気分になれず、静かにしていようと思った。あいつらは馬鹿なのか。
俺といつも遊んでいる連中がリーゴ先生に直接豚を馬鹿にするようなことを口にしたのだ。
その結果、リーゴ先生は少し怒りながらクラスの生徒全員に説教をして少し俺が好きな魔法実技の授業が減ってしまった。
そこで1つ気が付いたことがあったのだ。
豚の苦しそうな表情を見て俺はやりすぎているんじゃないかと思ったんだ。
なんでそうなったのかわからなかった。
それからはやりすぎは控えると意識しながら俺は豚をからかうことにした。
次の日の放課後に突然メンチカツを頼まれて商店街まで走っていると豚がこの辺で、どんな人でも痩せさせると有名なボルグと言う男の人が住んでいる家の前でそわそわしていた。
俺を倒すために来ているに違いないと思いちょっかいを入れたくなった。
近くにからかうにはもってこいの看板があるし。
今日は学校がちょうど休みでお母さんが弁当屋に昼ご飯を頼んだからって言われていたから指定の時刻にアイスでも食べながら待っていると、思ってもみなかったことが起こった。
ブザーが鳴りやっと来たのかと思いながら家のドアを開けると汗だくの豚が弁当を持って立っていたのだ。
驚愕のあまり意識が飛んでいきそうになってしまう。
なんだこの状況は、いつもなら弁当屋が届けてくれるはずなのに。
起動して豚から弁当を受け取ったがあまりにも動揺していたせいか自分が何をいったのかも覚えていない。
手を念入りに洗いながら昨日お母さんに怒られたことが頭に浮かんだ。
たしか内容は豚をいじめるのをやめなさいって内容だったはず。
どうしていきなりお母さんの口から出たのか不思議でしょうがなかった。
その日から境に豚からローグという少年に進化していった。
弁当はいつものように巨大なことは変わらないがどんどん痩せ始めた。
挙句の果てには「仕事が楽しくて」が口癖になってきている。
その時の俺は何が仕事だ。
まだ俺たちは働ける年にもなってないだろうと馬鹿にしていたが街に出てその考えを改めることになった。
ちょうどお母さんに買い物を頼まれて日差しが元気な中で商店街に買い物に出かけた。
俺の家からはかなり遠く近くに家がある人は羨ましくてしょうがない。
うわさで聞くと豚の家が近くにあるらしい。
あの弁当の量からして金持ちなのか。
商店街に着くとたまたま豚を見つけた。
運動嫌いなのにものすごい量の汗をかいてることもあって何をしているのか気になりばれないように後を追うことにした。
それにしても服が汗でびしょびしょなのになんで楽しそうなんだ。
汗をかくことも嫌いだったのに。
豚はメンチカツ屋さんと武器屋さんの間を通っていく。
あれそこってギルドがあるところだよな。
嘘だろって思いながら豚を追うとやはりそうだった。
俺が驚いて固まっているとギルドに入って行ってしまった。
まさか所属しているわけではないだろうと割り切り買い物に戻ると依頼書を持った豚が走っているところを目撃してしまった。
嘘だろ。
14歳にならないと入れないはずなのに。
心のどこかで焦りを覚えた。
よし、俺も体を鍛えてみよう。
そう思い、家に帰ってから筋肉トレーニングと体力をつけるために走った。
豚が努力している姿を見て俺は感化されたのだ。
どんどん豚が本来の姿になりつつあるところを見て俺はトレーニングの量を増やしてハードにしていった。
魔法もさらに磨きをかけたくなってしまい、授業以外で図書室から借りた魔法についての本を家で勉強するようになった。
何故だかわからないがリーゴ先生がこちらに優しい笑みを向けてくる。
むずむずするからやめてほしい。
2週間が経つ頃には体がだいぶ痩せて豚ではなくなってしまった。
俺の心の中でも変化が起きた。
今までは豚だのデブだのからかっていたがもうどちらも使うことはできなくなり、頑張りを知ってしまってからはローグと呼ぶようになった。
俺の周りのやつらは俺がちゃんとローグって呼んでいることにビックリしていた。
俺だってこんなことになるなんてびっくりだ。
だがローグの変化はここからだった。
14日の間に急激に変わっていく。
俺の約束が近づいていくほどに体のキレが増して前よりも喋るようになった。
俺らが過剰にからかっていた時よりも断然明るくて太陽のようだった。
クラスの女子たちは目の色を変えてローグに積極的にかかわっていくようになった。
もともとローグはこうなんだなって知った。
口に出しては言えないが、俺たちのせいで暗くなってしまったと罪悪感が湧いている。
ほかの人に俺もよく「変わったね」と言われるようになった。
理由をほかの人に聞いたらいじめることがなくなったことがあげられるらしい。
その時俺はどういう顔をしていたのだろうか。
体育の時間になり着替えをしているローグの体を見たときに俺は驚きを隠せなかった。ところどころ傷がついているが3週間前までただの豚だった少年の体は引き締まっていて、男らしい肉体をしていた。
俺の周りの連中も目が飛び出そうになるぐらい見ていた。
自分の腹や腕などを確認する。
確かに筋肉はついたけどローグには勝てなかった。
俺は心の中でローグがに負けてるんじゃないかと思い始めていた。
その証拠に体育で鬼ごっこすることになった時にローグは見せたことがない俊足をあらわにしてどんどんクラスの生徒たちを捕まえて行った。
俺も捕まった。
なんかおかしくね。
クラスで一番早かったのに。
今のローグは俺の夢なんじゃないか勘違いしてしまうほどだ。本気を出せば俺もああなれるのか。
決闘をする予定の1日前にローグを放課後の教室に呼び止める。
「ローグはどうやってそんな肉体を手に入れたんだよ」
「うーん、ボルグさんに鍛えてもらってるんだ」
「そうなのか、俺も体鍛えてるんだけローグほどにいかなくて」
「僕は放課後から夜ご飯までの時間を修行に費やしてるから、時間の問題なんじゃない」
俺とローグが話していると珍しいものを見るようにクラスの生徒たちがこちらを見てくる。
罪悪感と素直になれないことからあまりローグと話していなかった。
みんなはローグが俺を怒らせたなどと言っているが違う。
こんなに努力しているのかと驚く。
確かにローグがここまで変われたのは死ぬ気で頑張ってきた成果だと思う。
明日やる決闘は勝っても負けても謝ろうと決めた。
いじめていたことを正直に。
俺は心のどこかでローグと友達になりたいと思っていた。
「畜生、どうしてこうなっちまったんだ!」
目の前に友達を両手に掴んでいるトロール2体が立っていた。
掴まれているみんなは痛みに顔を歪ませていた。
このままじゃ4人とも死んでしまうのは明白だった。
俺たちは決闘本番になって放課後に森の中にある公園でローグを待っていた。
少し遅いから周りを見てくると俺が少し離れたところで「助けてー!」悲鳴が聞こえた。
急いで戻ってみると今の状況につながった。
どうする。
ここで逃げたら俺は助かるかもしれない。
自分が助かるほうへ思考が転がっていく中、ふとローグの顔が浮かぶ。
どうして浮かんだのかわからなかったがローグならこの状況で逃げようなんて思わないはず。
ローグは俺に勇気をくれた。
「俺は立派な冒険家になって、ローグの隣に立つ男になるんだ!」
「タツマキ!」と学校で一番魔法が使えると自負する俺の中で一番威力が高い魔法を唱える。
トロール2体の足元から1メートル弱までを覆う竜巻を発生させた。
威力は自由に変えられる便利な攻撃魔法で、初歩中の初歩の中でも最強の魔法の一部である。
トロールの何ともいえない鳴き声が公園全体に鳴り響き掴まれてた友達は解放された。
トロールは2体とも座りこむ。
「早く立ち上がって逃げろ!」
みんなところどころ怪我をしているように見えるが必死に公園から逃げていく。
しかし最後の一人がうまく走れておらず、公園から遠くまでに行く間に捕まってしまうかもしれない。
俺は追いついてこれなくするためにもう一回「タツマキ!」と魔法を唱える。
(よしこれで逃げられる!)
完全に友達は公園から出てトロールにちゃんとタツマキが効くのだと思っていた俺は急いで逃げるために背を向けてしまい、後ろから来た攻撃に気付かず受けてしまった。
かなりの衝撃が体に伝わってくる。
(油断しちまった、早くしないと捕まっちまう!)
体がありえないほど痛む中起き上がろうとするとトロールに体を掴まれてしまった。
さっきの友達たちと同じように。
ギシギシ体が悲鳴をあげ、もう死がすぐそこまできている。
(あそこで逃げれば、俺は一生冒険者になれなかった)
そうだ自分は悔いがないのだと恐怖の中で感じていた。
でもそれではゴマかれない気持ちもあった。
自分が犯した過ちを無くすことなんてできないのに。
「ローグに謝って、友達になって、一緒にパーティーを組みたかった」
ドンドン握りが強くなっていく。
もう死ぬと確信出来ている中「だったら一緒に組もうよ!」と声が聞こえてきた。
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