第4話
最近町の人から声をかけられることが多くなったわ。
それに今まであまり外に行かなかった私の息子のローグが積極的に外に出ていつも夕方に帰ってくるわ。
私は少し不思議に思って商店街のいろいろな人に話しかけて聞いてみるとどうやらローグはギルドに届く依頼をこなしているようだった。
「ローグったら冒険者になりたいんなら私に行ってくれればいいのに」
今まで隠し事なく素直にいてくれた息子が何も言わずにギルドに入っているなんて私ショックだわ。
私のせいでローグが魔法を使えないことが悲しいだけで、冒険者になることは反対じゃないわ、むしろ賛成だわ。
言ってくれればいつでも手続きしたのにどうしてなのかしら。
もう一度言うけどショックだわ。私はとりあえず生徒がいない放課後の学校に行きリーゴのもとを訪ねた。
彼本当にイケメンよね、王都にいたときは女性のファン群がって通れなかったのを覚えてるわ。本当に迷惑な話よね。そのせいでトイレ行きたいのにファンの人が多すぎていけなかったのよ。
「えっローグ君がギルドの依頼をこなしてるだって!?」
「知らなかったんですか、てっきりリーゴが進めたんだと思っていましたけど」
「いえ、僕はただ冒険者のことが載っている本を渡しただけだけど、まさかローグ君がすぐにギルドに入るとは思ってもいないよ」
「そうなんですか、私に一言も相談がなかったんです」
私が落ち込んでいるとリーゴは少し目をつむりながら考える。
何か思い当たる節でもあるのかしら。
私はリーゴが出してくれたお茶をごくりと一口飲む。
このあじ、リーゴが出したお茶ってかなり高いものじゃないかしら。
「実はですね、ボルグのやつのもとに向かわせたんですよ、ローグ君にはぴったりだって思って」
「そうなの、ボルグのもとに向かってみるわね」
お茶を飲み干して席を立ち歩き出すと「僕はついていきますよ」とリーゴもついてきた。どうやら責任感を感じているみたい。
学校のいじめをなくそうと日々頑張っているローグから聞いている。
昔からそうだったけど告白されて毎回断っているけど最初は罪悪感に悩まされてる時期があったのよ。
男からは羨ましがられてたけど、本人はただただ辛そうだったわ。
私たちはボルグの家につきブザーを鳴らす。
ボルグは金に目がないけど仲間思いでよく私たちを救ってくれたわ。
ボルグは私たちと同じパーティーなのよ。
だから私の髪と同じ髪を持っているローグにお金をとるなんてマネはしないはずだわ。
「お客さんですかって、マリーとリーゴじゃねーか!」
家の中から出てきた黒い肌が特徴的に筋骨隆々な男。
間違いなく私の同僚ね。
突然リーゴがボルグのお腹に拳を放つ。
あまりの近距離なのでボルグは避けられるはずがなく命中してしまう。
ボルグはあまりに痛みにしゃがみこんでしまった。
「僕の生徒に金をとる真似はしてないだろうね」
「ちょっとまて、何の話だ」
「とぼけても無駄だよ、青髪の13歳くらいの少年が来たでしょ」
「ああ、来たな、それがどうしたんだ」
「マリーさんを見ても気づかないのか」
「なに~、おいおいおいおい、マジかよ」
いきなりボルグの顔が真っ青になっていく。
もしかしてないと思っていたけど、そういうことなのかしら、ちょっと残念だわ。
ボルグは急いで訂正するために口を開く。
「ち、違うんだ、まだ子供だからお金を理由に断ろうとしただけなんだ」
「お金を理由にしたからローグはギルドに私に何も言わずに入ったんだわ」
「マジかよ、あいつ親に無断で入ったのかよ」
ボルグは参ったような表情になる。
だけどローグがギルドに入るきっかけを作ったのはどっからどう考えてもボルグじゃない。
なんでボルグが落ち込んでいるのよ。
それからボルグはいったん家に戻りちゃんとした格好に着替えてきた。
多分タンクトップと短パンだったから体を鍛えている最中だったんじゃないかしら。
「すまねぇー、今からギルドに俺が行ってくるからよ」
「私も行くに決まってるじゃない」
「僕もついていくよ、担任としてローグ君が心配だからね」
再度いうけどボルグはお金が大好きで冒険しているときは筋肉のこととお金のことしか考えてないような人だけど誰よりも仲間思いな男だ。
きっと今回の件も自分がしてしまった行動を反省してのことだと思うわ。ギルドに向かう。
「マリーと会うの13年ぶりだと思うけどよ、け、結婚とかしたのか」
「してないわよ、私今年で29歳だし、そろそろしてもいいかしら」
「そうなのか!?引きずってないみたいだが」
「そうね、今はもうあの人だって子供がいるでしょ」
「そ、そうだな、まだ俺も結婚してないんだよな~はっはっはっはっはっ」
「貴方私よりも全然金があるじゃない、すぐ結婚できるんじゃないかしら」
「大丈夫かボルグ、ほら元気出しなよ、まだチャンスはあるぞ」
「そうだよな、俺にだってチャンスが回ってきてもいいよな」
商店街を歩いている中で私たちはたわいもない話をしていた。
なんか悲しそうにしているけどどうしたのかしら。
何故リーゴはボルグを励ましているのかしら。
なんか私がボルグを傷つけたみたいじゃない。
メンチカツ屋さんで差し入れ用に沢山のメンチカツを買ってギルドの中に私たちは入る。私は良くここに各地方のギルドの動きを知るために訪れている。
モンスターの情報や一番気になっているのは王都に本部を置くギルドが今どうなっているのかかしらね。
確かもう少ししたら王都のギルドで大規模遠征が行われるはずだわ。
確か神の秘宝とやらがあるとされているダンジョンだわ。
神の秘宝は5つあってこの国が手に入れたものは4つのはずだわ。
すべて集めたら何が起こるのか注目されてるわ。
「リーゴさんにボルグさんだ!」
「この町の英雄が帰ってきたんだ」
「すごいわ、オーラが違う」
「2人のサイン、ずっと欲しかったのよね」
ギルドの中にいる人たちが一斉に騒ぎ出す。
みんな2人に注目してるのね。
パリストン領で初めて王都のギルドに入ったんですものね。
とても難しいことなのよ。
最低でもAランクの冒険者にならなくちゃいけにから。
2人は初めてのS級パーティーになったのよ。とても名誉なことなのよ。
2人の才能ももちろんすごいけどそれを凌駕するぐらい努力をしていることもしってるわ。
「2人ともなんでわしに言わなかったんじゃ!帰ってきてるんだったら報告ぐらいするじゃろうに、なんで13年間しなかったんじゃ!」
「悪かったな、ちょっと冒険職から離れたくてよ」
「僕もボルグと同じかな、心が癒えるまでここに来る気はなかったんだけどね」
昼間からテーブル席でお酒を飲んでいたここのギルドマスターであるラルドさんが走ってきてボルグやリーゴにぷんぷん怒っていた。
確かに大事に育てた子たちから連絡を取れなかったらそれは心配する。
私も息子であるローグが行方不明になっていたら心配でしょうがないわ。
「感動の再開でいいわね、ちょっと空気を読まない質問していいかしら」
「うむ、何か聞きたいことでもあるのかの?」
「そうなんです、かわいい息子のローグが依頼をこなしているようなんだけど」
「そうか、最近町中でローグの活躍が知れ渡っているの・・・・・・・・・ボルグのせいで!」
ボルグの腹にラルドさんの拳が入る。
今日二回目の腹の痛みで「何するんだよ!」と鋭い痛覚に顔を歪めていた。
やっぱり事情を知って、ローグをギルドに入れたみたいね。
かわいそうだけどボルグがやったことは最低だから自業自得よね。
私たち4人は椅子に座り話を始めた。
私と対極にボルグが座っているからすごい目が合うわ。
私の顔を少し見ては顔を赤くしている。
なんかすごい恥ずかしいわ。
ラルドさんとリーゴはかなりニヤニヤしているけど、どうしたのかしら。
私が不思議に思っているとギルドの受付の仕事をしているミサさんが走ってきた。
「久しぶりね、今度私の家でゆっくりお茶しようか」
「いいですね、でもローグ君のことで話さなくちゃいけないことがあるのよ」
リサさんが事の始まりを詳しく話してくれたことで全体像が見えてきた。
でもかなりショックだわ。
私のせいでローグがいじめられているといっても過言ではない。
魔法を使えないように受けた呪いが息子であるローグに引き継がれてしまったために辛い思いをさせてしまっている。
成長したんだなってうれしく感じる反面罪悪感がどんどん湧いてきてしまってどうしようもなかった。
私のことを気を使ってボルグは何故私やローグが魔法を使えないのか口にした。
「実はローグが魔法を使えないのは生まれる気ではないんだ、魔族の王である、魔王ナザールを倒すときにマリーがかけられてしまった魔法に関係しているんだ」
場が凍り付く。
当たり前だ。
今まで公の場で知っているのは階級が高い貴族か私とパーティーを組んでいた人しか知らないもの。
多分ボルグは事実を知る一人だからすぐに呪いがローグに引き継がれてしまったんだろう。
こういう時にボルグは頼りになるのよね。
「マリーが突然冒険者を引退したのはその呪いのせいで魔法が使えなくなったからなんだ。俺はこのかた魔法が使えない人間を見たことがねーし、事例もない」
シーンと静かな空気の中、リーゴはニヤニヤしながら「面白いね」と大きな笑みを浮かべた。
何か面白いものを見つけたかのような、鋭い目を持つ蛇のようだ。
何かを理解しているようだ。
リーゴがみんなと真反対の態度をとっているものだからボルグが注意をする。
「お前空気を読めよ、この話の何が面白いんだよ」
テーブルをボルグはバンと割れない程度でたたく。
相当イライラしているのが見て取れる。
私がバネット総合学園に通っているときも実験中とかによくリーゴは表に出していたので驚きはしないけど、この話の中でそうなる材料があるのかしら。
残ったメンチカツを勝手に取り食べ始めたリーゴは楽しそうに理由を説明し始めた。
「ローグ君とポップ君嫌あの子豚君が会話できるのはマリーさんは知ってるよね?」
「ええ、ええ知ってるわよ、それで」
ローグはよくポップと意思疎通をしていることはよく目撃するわ。
私の頭の中でポップについての情報が動き回る。
そして不審な点がないか見て回っていると、ふっとご飯の時に以上に行儀が良いポップの姿が浮かんだ。
あれ、そういえばあんなに知能がある豚がいたかしら。
私が何か違和感に悩んでいるとリーゴはメンチカツをザクッと一口食べる。
「ポップ君と接しているときに気付いたことがあるんですよ、ポップ君は人間の言葉を理解することができるようだった。だから僕は家畜で飼われているような豚か確かめるような質問をしたけど、ポップ君は首をすごい勢いで横に振ったんだ、その意味この場にいる人ならわかると思うけど」
私は絶望のどん底にいた。
人間がモンスターと意思疎通することができないことが人類全体の答えだし、この世に現れたことなんてないわ。
モンスターと会話ができたり従えたりできるのは魔族だけ。
それはつまりローグが魔族かもしれないということでもある。
否定ができないことがとてもつらいわ。
実際魔王ナザールが私に施した魔法はまだ解明できてないの。
それもそうよね。
魔王レベルが使う魔法なんて解き明かせるわけないわ。
私は酷く落ち込む。
「とりあえず、俺がマリーもその子供も両方守ればいいってことだな!」
ボルグは私の肩に手を置きながら真面目な表情をしている。
恥ずかしいわね。
ラルドさんやリサさんは呆れた表情をしていたがリーゴは無邪気に笑っていた。
「よくそんなこと平気で大声で言える、恥ずかしくないのかね」
「すごいわね、かなり大胆だったね」
ボルグは顔を真っ赤にしながら急いで私の肩から手を放してそっぽを向く。
それから雰囲気がシリアスな物から明るいものになる。
でもさっきのボルグはかっこよかったわ。
「そういうことだね、メンチカツ後で買ってよ~」
「うるさい!俺のことはほっといてくれ」
「結構僕頑張ったと思うんだけどな」
本当にあの二人はいいコンビだ。
でもローグのことで心配ごとがあるけどそれでもみんながいれば乗り越えられる気がするわ。
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