第2話

「走るのってやっぱりつらいや」

朝早くから僕は走っている。

まだお店が準備している商店街を通り過ぎ今まであまり来たことない道をひたすらに走る。隣にはポップもついてきている。

大量の汗を腕でぬぐうがどうしても目の中に汗が入ってしまいとても染みる。

昨日リーゴ先生から助言をもらって自分磨きをしようと決意した僕はまだママが起きて来ない時間帯に起床してとりあえずパジャマから運動しやすそうな服装に着替えて家を出た。

早起きが大の苦手だったけど目覚ましを使って気合で起きられた。

僕は朝に弱いから本当につらかった。

毎日同じようなことを繰り返さなければいけないと考えると少し嫌な気分になってしまう。

僕が今走っている道は王都に向かうための道だ。

パリストン領の中心都市から馬車で5時間くらい揺らされてようやっとたどり着けるらしい。

パリストンの商人たちがよく使用している道なのだが整備されているとはいいがたいけどちゃんと道だってわかるようになっている。

僕が住んでいる町はパリストン領の西側にあるズッキーニ地区にある。

僕が走っても転ばないからちゃんとした道だと思う。

少し足場が悪いところだと僕はすぐに転んでしまうからよく足首ひねってしまう。

体重が重い分痛い。

今まで何度もそれで怪我をしたことがあるよ。

さっきからすぐに息切れしてしまっている。

最初のうちは体力を付けるより脂肪を落とすことに集中していきたいと思っている。

「やばい、ここまでが限界だ」

僕は腕に着けている腕時計を確認する。

家から出て1時間。

自分のペースできたけどこれ以上足が上がんない。

引き返すとしよう。

初日にしては頑張ったと思う。

顔に沢山べとついた汗を手でぬぐう。

ここまで走ったことに満足して逆方向に向いて家に向かってマイペースに僕は走り始めた。

もちろんポップも隣に走っている。

「また1時間走るのか、かなりハードだよ」

単純に1時間走ればいいと思ったけど、それは間違っていた。

行って帰って1時間にしなくちゃいけなかった。

なんで1時間ずっと道を一直線に走り続けてしまったのだろう。

もう僕フラフラだ。

ふと僕はポップを見ると余裕そうに走っていた。

「ポップは僕より体力があったのか」

その通りだとポップは首を縦に振る。

もしかして僕のために手加減して走ってくれていたのかな。

こんな小さなポップに負けているなんて僕はなんて不甲斐ないのだろうか。

早く帰らなきゃママが心配しちゃうし、おいしいご飯が待っているはずだから。

頑張らなきゃ。

自分の家を目指して黙々と走り続ける僕とポップはついに商店街まで戻って来た。

するといつもお世話になっているメンチカツ屋さんのおばちゃんが僕に話しかけてきた。

「さっき走っているのを見たよ、こんな朝から頑張っているわね!」

「自分磨きをしたいなって思って」

「そうなのね、今メンチカツ揚げたばっかりだから1つあげるよ」

「本当ですか!やったー!」

僕はメンチカツ屋さんに寄って好物を無料でもらう。

お腹ペコペコな僕は勢いよく貰ったメンチカツにがぶりと食いつく。

なんておいしいのだろうか。

肉汁がたまらん。

いつも食べるメンチカツより大げさかもしれないけど100倍おいしく感じる。

たくさん運動した後の食べ物や飲み物がとてもおいしく感じるってこういうことだったと初めて感じた。

最高だよ。

「どうだい、おいしいでしょ」

「すごくおいしいよ、運動したとのここのメンチカツは最高だね!」

「そうかい、そうかい、また朝走ったらうちの店に寄りな、1つメンチカツ分けてあげるよ」

「やった!これなら毎日走れるような気がするよ!」

こんなにおいしいメンチカツが食べられるなら毎日頑張れるよ。

3日坊主になんてならないね。

僕はメンチカツを食べて家に全速力で走る。

メンチカツのおかげでなんかパワーが出た気がする。

やっとのことで家についた。

早くご飯も食べたいシャワーも浴びたい。

こんなに服やズボンを汗でびしょびしょに濡らしたのは初めてだな。

僕はドアを鍵で開けて玄関に入ると「今までどこに行っていたの!」とママに抱きしめられた。

何も言わずに走りに行ったのがまずかった。

「ちょっと遠くまで走ってきただけだよ」

「そうなの、確かに汗がべとついているわね」

「ごめん、最初にママに言えばよかったね」

「まーいいわ、ご飯にしましょう」

僕たちはリビングに移動してテーブルの近くに置いてある椅子に座る。

ママに怒られるかなと思っていたけどそんなことにはならなくてよかったよ。

メンチカツを食べたからと言ってまだまだ腹ペコで朝ごはんが待ちきれない。

ポップもそうみたいで自分の分のご飯が来るのを待っている。

「お待たせ、いっぱい作ったから食べてね」

「うわーおいしそう、よしたくさん食べるよ」

かなり大きいさらにスパゲッティーが大量に盛られたお皿をどんっとテーブルの上に置く。

さらにサラダやスープが置かれていく。

僕の家は1人5人前ぐらい食べるのだ。

学校に弁当を持って行っているけど最初のころはみんなにすごいドン引きされたことがありその時初めて僕たちが食べているご飯の量が尋常じゃないことに気が付いた。

今までは全く気にしたことがなかったからわからなかった。

もしかしたら弁当の量が尋常じゃないからみんなから豚呼ばわりされる原因の一つになったのかな。

「最近、ポップは焼いたお肉とかしか食べないわよね」

「うーん、なんか最初のうちはペットフード食べていたけどね」

ポップは時間が経つにつれてドックフードを嫌がり僕たちのご飯を食べたがるようになってしまった。

何回か食べるように促しているけど断固拒否された。

体に悪いからしょうがなく焼いたお肉を食べさせている。

ポップは食べ応えがある肉が好きで豚肉とかよく食べている。

共食いになってもいいのって質問したら首を縦に振っていいよと主張してきた。

やっぱりポップが豚じゃないのは確定だと思う。

知能も高くなっているのか、わざわざ椅子に載ってテーブルに置かれている自分の食べ物を食べるようになった。

マナーもしっかりとしていて僕たちが食べ始めるまではちゃんと食べ物に口をつけない。極めつけには食べ終わった後も口についたお肉の汁とかを舌で舐めないで僕にテッシュで拭くように主張してくる。

なんかもうポップの中に人が入っているのではないかって疑ってしまうレベルになっている。

もちろん僕たちは一切何も教えてない。

「すべて準備が終わったし食べましょうか」

「やった、いただきます」

最後にポップの分の焼かれたお肉が上にのった皿をママが置いた。

すべての皿が並び僕たちはご飯を食べ始めた。

ポップはがつがつとお肉を食べるのではなくゆっくりと口に運んでいく。

それに対して僕はガツガツと食べている。

「なんだかポップのほうがローグより食べるのきれいだわ」

「なんか、どっちが豚なのかわからないよ」

確実にポップは僕よりも品があるように見える。僕自身ポップのほうが食べるマナーなどを熟知していることに気付いている。ポップから「ブーブ!」と豚独特の鳴き声があがる。ポップが僕に行儀よく食べろって怒っているのが伝わってきた。

「わかったよ、僕もゆっくり食べるね」

「あら、家に来てからもそうだけどローグはポップの言葉がわかるのね」

「そうだね、ポップが言いたいことが伝わってくるよ」

「不思議ね、そんな人見たことがないわ」

ポップと出会った当初は少しわかる程度だったけど、ここ数日で急激にわかるようになった。

感覚的にポップが口にしていることじゃなくて考えていることが伝わってくるようになった。もちろんすべてじゃないけど今みたいに、豚独特の鳴き声だけだと何を言っているのかわからないけどポップが何か僕に伝えようとしていることが無意識にはっきりとわかるようになったよ。

だからポップが声を出さなくても言いたいことがこちらにテレパシーとして伝わる。なんか特殊能力を手に入れたみたいでうれしいな。

「なんかポップとローグって兄弟みたいね」

「へへ、そうかな、やっぱり僕がお兄さんだね」

「違うわよ、ポップがお兄さんで、ローグが弟だわ」

「そんな!なんでポップも首を縦に振るのさ!」

昔から弟が欲しかったら言ってしまったけど、本当はポップが自分よりも利口なことも知っているし、ここに来てからは僕にダルそうにしながらついてきてくれている。

それを考えるとやっぱり僕の兄的存在だって考えられる。

でも自分磨きが成功したら自分が兄だって言えるようにすごい男に僕はなるぞ。

ご飯を食べ終わり、僕は学校に行く前にお風呂に入ることにした。

ポップを抱きかかえて入ろうとするが嫌がられてしまった。

何が嫌なのかわからなかったけどそのままじゃ汚いので、無理やりお風呂場に連れてきた。

僕は先に自分の体を洗う。

その後ポップの体を洗う作業に移った。

「胸から下を洗うことができないでしょ」

ポップは背中や足、お尻を洗わせてくれたが胸から下を洗わせてくれないのだ。

さっきから何故嫌がるのか僕にはわからないよ。

少し考えていると。胸から下を特にあそこを見られたくない、と頭に突然伝わってきた。

「そっか、ポップも中身が人間みたいだから見られたくないってことだね!」

なんかポップの頬が赤い。

ポップが恥ずかしいから静かにしろと考えているのが伝わってくる。

僕は考えた末に諦めた。

男としてわかる部分があるのでここはおとなしく洗わないでおく。

だからお風呂に行くのを嫌がったのか。

理由がわかったよ。

お風呂から出てからポップは扇風機の前で自分の毛が自然乾燥をするのを待っていた。

そういえば今思ってけどポップを見つけた日にお風呂に入れたら普通に体すべてを洗わせてくれたのになんで今はダメなのだろか。

不思議でしょうがない。

午前10時から始まるけどまだ学校が始まるまで30分もある。

10分歩けばつくので、僕は時間に余裕があるのを感じながら、家から出て学校に登校する。

本当はポップも連れて行きたいくらいだけど、授業を受けるみんなの気をひいてしまうかもしれないからしょうがないね。

リーゴ先生に聞いてみようかな。

僕は学校につき自分の教室に入る。

中には数人しかいない。

すでに来ている人たちは勤勉でいつもテストでいい点数を取っている。

僕もその中に入りたいけど魔法実技が足を引っ張ってしまって総合の成績は真ん中より少し上くらい。

僕もクラスの雰囲気に合わせて自分の机でテスト対策のための勉強を始めた。

それから10分ぐらいしてからクラスをにぎやかにしている集団が入ってきた。

「それでさ、俺見ちゃって朝からローグが走っているからびっくりしちゃってさ」

「マジか、あいつ豚から卒業しようとしているのか」

「大丈夫でしょ、どうせ、三日坊主に終わるよ」

恥ずかしい。

僕が朝走っているところ見られてしまったみたいだ。

それにしてもどこから僕のことを見ていたのだろか。

それにジンタに目撃されるなんていじめのネタになっちゃうよ。

案の定、僕のほうに歩いてきた。

「よう、朝から頑張っているじゃねーか、お前何のために走っているんだよ?」

赤髪が特徴的な少年ジンタが僕に笑いながら走る理由を聞いてきた。僕を集団で虐めてくるグループの中心的な存在。

突然のことで少しつまったがその後真剣に返答する。

「このままじゃダメな気がするから、僕は自分磨きをしようって決めたから!」

「なんだそれ、自分磨きしてローグは何かになりたいのか」

「それは・・・・・・・・・・まだ考えてなかった」

「考えてないのかよ、俺の夢はS級冒険者になることだ、まぁ、魔法すら使えないダメダメなローグ君には一生関係ない話だけどな!」

ジンタを取り囲む集団がゲラゲラと笑う。

魔法を使えない僕を馬鹿にしている。

とても悔しい。でも自分磨きした後のことを考えてなかったな。

僕は何になりたいのだろうか。

わからない。

それから時間が経ち昼休みになった。

僕は自分が何になりたいのかわからくてリーゴ先生に聞いてみることにした。

「あれ、リーゴ先生どこにいるんだろう」

リーゴ先生がどこにいるかわからず色々なところを探す。

学校のほとんどの場所を走ってみて回ったけど中々見つけることができない。

「あとは図書室しかないや」

最後にまだ訪れてなかった図書室に向かう。

リーゴ先生はいつも色々の本を読んでいるからいるかもしれない。

僕は足を速め向かう。

図書室に入るとリーゴ先生が椅子に座りながら本を読んでいた。

室内は静かで純粋に本を読んでいる人やこの雰囲気に身を任せながら勉強をしている生徒たちが複数人いた。

でもあまり人数はいない。

僕はリーゴ先生のもとに歩いていく。

僕が近づいているのに、リーゴ先生は気づく気配がない。

かなり集中して本を読んでいるみたいだ。

なんだかすごく真剣だよ。

僕がリーゴ先生に声をかけるとはっとしたように本を閉じて僕のほうに向く。

「ど、どうしたのかな、僕に聞きたいことでもあったかい」

「そうです、僕将来何になろうか考えているけどわからなくて、どうすればいいですか」

リーゴ先生は優しい顔を浮かべながら僕に「何か理由があるのかなと」と聞いてきた。

僕はジンタに言われたことを頭に繰り返す。

「僕は自分磨きをした後にしたいことがないです、考えてもわからなくて」

「冒険職なんてどうだい、ローグ君なら似合いそうだけどな」

「冒険職なんて魔法がなきゃ活躍できないじゃないですか」

リーゴ先生は僕に冒険職を進めてきたけど、魔法が使えないと活躍できないのは有名な話でとても自分に向いてないと思う。

リーゴ先生は首を横に振り席を立ち冒険職の本がたくさん置いてある本棚に行く。

そして1つの大きめな本を元いた席に持って戻ってくる。

リーゴ先生は持ってきた本を広げて僕に見せてきた。

「ここ見てみればわかるけど、魔法を使えなくてもなれる職業もあるよ」

「確かに、魔法を使う必要性がないって書いてある」

そうだ。

今までジンタの言葉を信じて冒険職についての本を読まなかった。

ずっと魔法が使えないことで馬鹿にされてきたけど卒業してみればどうってことないかもしれない。

「でしょ、確かに魔法が使えればその分離れえた距離から敵を攻撃できるけど、世の中で最も有名な武闘家たちはそれを上回る実力があるし、そもそもオーラを使うから関係ないかもね」

「オーラって何ですか?もしかして僕にも使えるのかな」

「だれにも使えるよ、出せる量やコントロールには才能がいるけど、このページを見ればわかるよ」

リーゴ先生は先ほど持ってきた本を開き僕に見せてきた。

 開いたページにはオーラは体外に放って攻撃する魔法とは違い体内の強化をすることができると書いてあり僕は喜びを感じながら読んだ。

「やったー!これでジンタにぎゃふんといわせられるぞ」

「こら、図書館だから静かにしなさい・・・・・・・・でも自分で現状を打破するために動くことは結構いいことだよ」

すごくうれしくて図書室なのに大きな声を出してしまう。

リーゴ先生に注意されてしまったけどしょうがない。

それくらい興奮した。

冒険職はみんなの憧れ的な職業だけど魔法が使えないから勝手に自分で諦めてしまっていた。

本当は僕にだってなりたいと思っていた時期はあった。

リーゴ先生が言っていることはその通りだと僕は思う。

今回だってリーゴ先生にのもとに行かなければ冒険職に魔法を使えなくてもなれる武闘家なるものがあるなんて知ることがなかった。

「もうチャイムが鳴るね、ローグ君が観ている本はいいものだから借りていくといいよ」

「そうします、僕とりあえず武闘家になるために頑張ります!」

リーゴ先生は嬉しそうにしながら「そうかい、頑張りなよ」と口にする。

僕は図書室の受付でリーゴ先生がおすすめしてくれた本を借りるように伝える。

借りることができた僕は廊下で待っていてくれたリーゴ先生とともに自分の教室に戻る。

「お前どこに行って・・・・・お前そんないいものを持って冒険者になる気なのか」

「図書室だけど、これから僕が読むから横取りはやめてよ」

「そんなことしないぜ、ただ魔法が使えなくておデブなローグ君が読むものなのかよ」

ジンタの仲間たちのゲラゲラとした笑い声が聞こえる。

僕は今まで反撃に出たことがなかったけどついイライラしてしまって「うるさいよ、僕がなろうとしているものに口を出す権利ないだろ、この勘違い野郎が!」って言い返してしまった。

ジンタは一瞬目を丸くしたが僕に言われたことを理解すると青筋を浮かべながら席を立ちこっちまで歩いてくる。

どうしよう。

怒らせてしまった。

僕これからどうなるのだろか。

怖いよ!

こうなったら僕も度胸で何とかするしかない。

「お前いい度胸じゃねーか、ぼこぼこにしてやるぜ」

「僕はまだ体を鍛えてないから1ヶ月後まで待ってよ」

ジンタは何言っているのかわからないような雰囲気でこちらを睨んできた。

僕は内心怖がりながらこっちも負けてないぞってアピールするため睨み返す。

リーゴ先生どうして止めてくれないの!?

教壇からニヤニヤして見ているの気づいているからね!

ジンタが「そんな待つわけないだろ」と言ってきたので僕は「待てないの?」って反撃する。

絶対僕はひかないぞ。1ヶ月間時間があれば勝てる可能性だってあるかもしれない。

このままでは負けてしまうことを知っているからここは譲れない。

「わかったぜ、しょうがねーから1ヶ月後の放課後に森の公園で決闘しようぜ」

「ありがとう、僕も負けないようにその期間努力してくるね」

ジンタは悔しそうに席に戻っていく。

そんなに僕に言い負かされたのが嫌だったのかな。

僕も自分の席に座るとリーゴ先生と目が合う。なんか楽しそうだ。あんなに僕の心臓が張り裂けそうだった場面を見てリーゴ先生は何が楽しかったのか理解できないよ。

でも本当に怖かったよ。

こんなことをしたのは初めてだから。

昼休みの終りを告げるチャイムが学校全体に鳴り響き、授業が始まる。

僕は生徒に配られる時間割を見てがっかりする。

そうだった。

今日の午後の授業はすべて魔法実技だった。

最悪だよもう。

教室にいる生徒たちは校庭に移動し始める。

魔法を建物内で使ったら危ないからね。

僕も早く移動しなきゃならない。

「新しい魔法を今日はみんなに身につけてほしと思うけどみんな準備できているかな?」

リーゴ先生は校庭に設置されている朝礼台の上に立ち魔法実技の授業では毎回教えている。

ジンタの取り巻きの1人が手を挙げた。

珍しいな、なんか不備でもあったのかな。

「ローグ君は魔法を使えないのでみんなではないと思います」

ジンタと仲がいい人間だけではなくクラスにいる生徒も思わず笑ってしまっている。

なんてひどいことを言うの!

まだ実技も始まってないのに。

クラスのみんなにも笑われてしまった僕は恥ずかしさや悔しさに押しつぶされそうになりながら下を向く。

「お前らローグ君のこと馬鹿にしすぎだ、足元をすくわれてもしらないよ」

僕は上を向くとリーゴ先生は真剣な表情で生徒たちを見下していた。

強い圧がかかっているみたいだ。

すごい汗が出てきてしまう。

リーゴ先生はいつもニコニコしているから知らなかったけど、力強くてこんなに風格がある人だったのか。

場が静かになり授業が再開される。

いつもより静かで僕が魔法を使えない場面が来てもみんな何も言わない。

そしてあっという間に授業が終わってしまった。

放課後になり僕はリーゴ先生にお礼を言うために職員室の前に来た。

少し緊張しながらコンコンとドアにノックして「失礼します」と中に入った。

複数人先生が机に座って書類に目を通しているのが目に入る。

やっぱり先生たちは忙しいよね。

僕はリーゴ先生が仕事をする机を見ると茶髪をオールバックにしている男の人が椅子に座って本を読んでいた。

先ほどの表情と違いニヤニヤした下品な顔をしている。

なんでリーゴ先生は仕事しないで読書しているのだろうか。

しかも鼻の下を伸ばして「あなたの生徒来ていますよ」と隣のクラスで担任をしている人がリーゴ先生に声をかけてくれる。

きっと僕のために気を使ってくれたに違いない。

リーゴ先生は本を見られたくないのか急いで閉じて僕を見る。

なんか酷く挙動不審なのだけど。

何か見られたくない物を見られてしまったような表情をしている。

あの本すごく気になる。

「ご、ごめんね、お待たせ」

「僕リーゴ先生が読んでいた本がすごく気になるのですが」

「あ、あの本はね、大人が読む本で、子供が手を付ける物じゃないかな」

そうなのか、それって何だろう。

早く大人になって読んでみたいな。

でもなんかリーゴ先生の態度が変なのはどうしてなのだろうか。

「魔法実技の授業のときはありがとうございました」

「お礼なんていらないよ、僕は当たり前のことをしただけだから」

やっぱりリーゴ先生は優しい。

僕も笑顔で人を助けられるようになりたいな。

鞄から図書室で借りた本を出す。

冒険者だった人からこれから何をすればいいのか聞くのが一番早いと感じた僕はリーゴ先生に質問する。

「その、冒険者になるためにどうすればいいですか」

こちらをじっと見た後、リーゴ先生は顎に指を置き少し考え間を置いた後に口を開いた。

「そうだね、今から友達の住所を書くから尋ねてみるといい、かなり有名な奴だからローグ君には適任だと思うよ」

僕はジンタに勝つ手掛かりになるかもしれない人の住所が書かれた紙をリーゴ先生から受け取った。

怖い人じゃなければいいけど。

僕は家に帰り、図書室から借りた本を自分の部屋にあるベッドに腰かけながら読み始めた。

ポップも僕が何読んでいるのか気になるみたいで一緒にページを眺めている。

「ポップは文字を読めるの?」

僕たちの言葉を理解しているポップは人間の文字を読めるかもしれないと思い聞いてみると案の定首を縦に振った。

もしかして学校でわからない問題が出たらポップに聞けば答えや解き方を教えてくれるかもしれない。

もうポップの知能がどうのこうのって考えても何も起こらないから気にしないことにした。

「冒険者って何の仕事をするのかな?」

僕は一番初めのページにある目次をから自分が読みたい部分を確認する。

僕はそのページを開いた。

「人助けになる依頼は・・・・・・・あった!」

ちゃんと人助けの依頼も来ているね。

お金稼ぎもできて人を助けるができるなんて憧れるよ。

僕は冒険者の仕事で知りたいのは人を救うことができるのかだけ。

リーゴ先生の影響もあるけど昔から困っている人をできるだけ助けてあげたいと思っている。

僕は不器用だから好きなことをしないと頭がごちゃごちゃになってパンクしちゃうと思う。

「やっぱり人助けするのっていいよね」

ポップはこっちに目を合わせニコッと笑った。

人助け何回しても悪い気分はしないよ。だって、助けた人の笑顔を見るのが大好きだから。

「職業も気になるよね」

僕は冒険職が詳しく解説されているページを開ける。

代表的な職業からあまり知らない物まで網羅されている。

戦士や武闘家などメジャーな冒険職が前のページに載っていて後になるほどこれってなるようなマイナーな職になる。

「すごいや、こんなにたくさん職業ある・・・・・・・・あまり知られてないのかな、結構かっこいいのに」

僕の目には全く有名じゃない物ばっかりを映していた。

どれも個性的で見ていて楽しい。

武闘家とか戦士より、絶対個性的だと思うけど。

なんで人気がないのだろうか。

僕は不思議に思いながら冒険職の特徴を書かれているところを読む。

「適性を身に着けるのが難しいのか、せっかくかっこいいのに」

どうやら人気の職業に対して一つのことしかできないことや、有能でもなれる人がそう現れないらしい。

でも使いこなせばどれもメジャーなものに引けを取らない強さだと書いてあるから、実際なれる人が少ないのかな。

こんなに魅力的なのに残念だよ。

「そうだ、ポップはこの中だったらどの職業が僕にあうと思う?」

何となくポップに自分に似合う職業を聞いてみる。

ほとんどが魔法を使う職業だったりするので僕には選択肢がないことはわかっているのに。

ポップは少し悩んで、ローグは何でもなれるよとテレパシーで僕に伝えてきた。

「嘘だよ、魔法が使えないのに武闘家や戦士ぐらいにしか僕はなれないじゃないか!」

僕は感情的になる。

ポップに当たってしまっても、意味がないのもわかっているけどつい。

数秒してから我に返り罪悪感が湧き、僕はとっさに謝ろうとしたらポップは謝る必要なんてないと首を横に振った。何故かポップは少し落ち込んでいた。












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