第1話

 何でこんなにも魔法が使えないんだよ。

 こんなに頑張ってるのに使えないのは僕のせいじゃない気がする。

 毎日毎日こんなにうまくいかなことがあるだろうか。

 すべてにおいて不幸な僕ことローグは自分の不甲斐なさにため息をつきながら帰路についていた。

 もう学校に行くのは散々だと僕は最近本格的に思い始めてきた。

「どうしてこんなところに豚がいるんだろう」

 家への帰り道の途中で子豚がいた。

 目がキラキラしているのが特徴で可愛い。

 家畜にしては育っていないし、こんなところに子豚一匹であるのはおかしい。

 近くにいる子豚は僕を見つけると嬉しそうに近寄ってきた。

 なんだこのピンク色の生物は愛くるしくてしょうがないじゃないか。

 豚独特の鳴き方をしながら足元にきて、僕を見上げる。

 ついついかわいくて抱き上げてしまう。

「お前可愛いな、どこから来たの?」

 豚だから人の言葉を理解できないことを知っていながら僕は質問する。

すると「ぶひー?」とあいまいな返事をした。

 何となくわからないといわれた気がした。

 ジッと子豚を見るが可愛いの一言に尽きる。

 すごくかわいいのだ。持ち帰りたくなってしまった。

 ママは動物好きだしこの子を持って帰っても怒らないで飼わせてくれると思う。

 一応この子にも僕の家に来るか聞いてみると「ぶひぶひ!」と返事が返ってきた。

 さっきは何となくだったけど今回は行きたいと主張しているとはっきりとわかった。

「どうしようかな、名前を僕が決めたいんだよね」

 僕はうーんと少し悩んだ後、ポップという名前が浮かんだ。

 なんか響きがとてもよくこれならこの子も喜んでくれるだろう。

「君の名前はポップだ!」

 嬉しそうにしている。

 名前を気に入ってくれたようだ。

 いじめられていた僕は気分が良くなり家までポップを抱きかかえた状態で走って帰った。

 家に入り、もし飼うのはダメと言われたらどうしようかと緊張しながらキッチンに立っているママにポップを見せる。

 ママは青髪が特徴的でよその人から美人だって言われている。

 確かにほかのお母さんたちよりすごい若く見える。

「どうしたのその子豚ちゃん!?」

 いきなり僕がポップを連れてきたことにママはかなりびっくりしている。

 きっと許してくれるよね。

 深呼吸をして僕は口を開く。

「道端で拾ったんだ。家で飼ってもいい?」

「うーん、ちゃんと面倒見るなら飼ってもいいわよ」

「わかった、僕ちゃんと面倒見るよ」

 許しを得た僕はこれでポップと暮らせるんだとうれしかった。

 ポップも何故かうれしそうにしていた。

 僕たちが嬉しそうにしているところを見たママはにこやかにこちらを眺めていた。

 その後一様家で暮らすことになるからきれいにしたほうがいいとポップをお風呂に入れることにした。

「ポップ痒い所ある?」

 僕はポップの体をごしごしと洗いながら聞くと気持ちよさそうに「ぷーーーーーー」と返事してきた。

 表情もとろけている。

 とてもプリティーだ。

 ポップを飼う許可が出て一週間が経過した学校が休みの日に僕はポップと町をお散歩していた。

 日差しが気持ちよく、町はにぎわっている。

 僕が住んでいる家はパリストン領の商店街から少し離れたところにあるんだ。

 パリストン領には4つの区があって僕はズッキーニ地区というところに住んでいる。

 中々に栄えた街でこの領地の中央にある首都パリストンには及ばないけど住みやすいところで、町のところどころに自然があって、遊ぶ公園だってたくさんある。

 野菜や果物の生産が豊かでたくさんの商人が行きしていたりする。

 今まで人を襲うようなモンスターが出ていなことでも王国全体で有名らしいよ。

 かなりの人が通り過ぎる中ポップは僕の隣をくっついて歩いていた。

 不思議なことによそのペットとは違い僕から離れようとはしない。

 普通は体にリードをつけなければ逃げて行ってしまうのに。

 それくらいポップが僕になついているってことだろう。

 お腹がすいてきたと感じていると後ろから茶髪をオールバックにしているリーゴ先生が話しかけてきた。

「利口な豚さんだね、君がしつけたのかい」

「いや、初めからそうなんですよ」

 リーゴ先生は他のペットとは違いリードを付けていないことに興味をひかれたのか視線を斜めにしてポップをじっと見る。

 僕が通っている学校の担任であるリーゴ先生は美形な顔立ちが特徴で保護者からとても人気があり、クラスメイトの女の子たちがよく顔を赤くしていた。

 簡単に言えばモテモテな人なのだ。

 リーゴ先生とはお互いの好物であるメンチカツ屋さんが近くにあるためこの辺で会うことが多々ある。

 1年ぐらい前から魔法実技の授業が本格化してきて、危うく留年というところで僕のハンデギャップを校長先生に頼んで他の教科の成績が良ければ赤点を回避してくれるようにしてくれた。

 これ以上ママを悲しませたくなかったから割り切っているが学校に行っているみんなには少なからず罪悪感がある。

「帰り道で出会ったけど、最初からリードなしで散歩できるからびっくりですよ」

「そんなに頭がいいのかい、驚いたね」

「先生もメンチカツを買いに?」

「そうだね、急にお腹すいてきちゃったよ、一緒に行こうか」

 先生と一緒にメンチカツ屋さんに行くことになり、歩き出す。

 商店街に昔から通っているメンチカツ屋さんがあるけどそこで作っているお惣菜はどれも肉汁があふれておいしい。

 小さいころにママに連れて行ってもらって好きになった。

「あらいらっしゃい、2人とも来たのね」

 メンチカツ屋を営んでいる老夫婦のおばちゃんが笑顔で僕たちのことを出迎えてくれる。

 店にはたくさんのコロッケやメンチカツを中心に揚げ物が並んでいる。

 すべて食べたことあるけど全部おいしい。よくママがこの店でお惣菜を買ってくるからいつの間にかすべての商品をマスターしてしまった。

 僕はこの店にお買い物をするために来ているからママからもらったお金をポケットに入っている財布から取り出す。

「すみません、メンチカツ4つとコロッケ4つください!」

「いつもたくさん買ってくれてありがとね、今揚げたてが来るから待っててね」

 僕が頼むとおばちゃんは笑顔を浮かべながらキッチンに向かっていった。

 僕やママが頼みに来ると揚げたての物を出してくれる。

 僕はそれが不思議で並んでいるものを出さないのかと聞いたことがあった。

 おばちゃんは「たくさん買ってくれる人には揚げたてをあげないとお客さんに見せる商品がなくなっちゃうでしょ」と言われた。

 僕は納得した。

 お客さんに見せる物がなかったらおいしそうなのかわからないよね。

「すみません、僕は外で食べたいのでメンチカツを2つもらっていいかな」

 僕が頼んでいた物を受け取ったのを確認して、リーゴ先生がメンチカツを注文する。

 2つ頼むなんて珍しい。

 今日はたくさん食べたい気分なのかな。

 リーゴ先生はいつも1つだけ頼んでベンチや学校で食べているらしい。

 「僕のも熱々じゃないか」と言いながら紙でくるまれたメンチカツを両手に持つ。

 出来立てなのに熱がっているそぶりを見せない。

「近くにいいベンチが置いてある公園があるんだよね、これ1つローグ君にあげるからさ、一緒に食べようか」

「えっいいんですか、リーゴ先生のお金なのに」

「いいのいいの、僕は今ローグと話したい気分だから」

「そうなんですか、やった、ごちそうゲットだ!」

「若いのはいいね、僕も君みたいな純粋な子供を見るとうれしくなっちゃうよ」

「リーゴ先生もかなり若ですよね」

「まぁー30歳になってないからね、僕も若者さ」

 僕たちはリーゴ先生おすすめの公園に向かう。

 相変わらず僕の隣にポップが歩いている。

 リーゴ先生はとても興味深いものを見る目でポップを見つめていた。

「ポップ君は、人間の言葉を理解できるのかい?」

「リーゴ先生何してるんですか?」

「見ればわかるでしょ、ポップ君があまりにも賢いから言葉が通じるかなっと思ってさ」

「結構無理なこと言ってますよね、理解できるわけないでしょ!」

 僕が動物に言葉が通じないといったすぐ後にポップは首を縦に振った。

 リーゴ先生もかなり驚いていた。

 これってもしかしてポップは人の言葉を理解できるってこと?

 僕はポップをまじまじと見つめる。

 もしかしてこれって大発見じゃないか。

「驚いたね、よしもう一つ質問しよう、ポップ君は動物の部類に入るのかい?」

 リーゴ先生は少し笑みを浮かべながら顎を指で触りながらポップがどういう反応するかを楽しみに待っている。

「ポップが動物は頭が良くったって動物ですよ!」

「もしかしたら、面白い回答が出るかもしれないね」

 ポップはまたもや首を横に振る。

 リーゴ先生は指で顎を触りながら考え始めた。

 嘘でしょ、ポップはどっからどう見ても可愛い豚ちゃんに見えるのに。

 動物以外ではモンスターしかいないはずだけど。

 リーゴ先生は「ローグ君になついているから大丈夫かな」と口にする。

 いろいろとポップのことで引っかかる点があるようだった。

 僕たちは公園の中に入って行く。

 商店街の外れまで来たけどこの公園結構僕の家に近い。

 こんなところに公園があるなんて知らなかったな。

 僕の家は商店街から出て少し歩いたところにあるけど多分この公園からちょっと離れたところにある。

 学校からも近いし結構便利なところにある。

「ここだよ、このベンチが結構気に入ってるんだ。風景もよくて風も気持ちいいんだよね」

「本当だ、木がたくさんあって外よりも風が美味しいよ」

「この公園はね、僕が小さいころからあるんだよ、思い出の場所なんだ」

 リーゴ先生は懐かしそうにしている。

 リーゴ先生は子供の時にこの公園で遊んでいたのだろうか。

 思い出がたくさん詰まっているところだって伝わってきた。

 春が終りを告げて緑色がたくさん見られる時期になったからこそこの公園の木が活躍しているのだろう。

 上を見上げればたくさんの緑の隙間から太陽が顔を出している。

 少し熱くなってきたと思ってもこの公園の緑たちが日差しをちょうどよく和らげてくれているみたい。

 たまに吹く風も気持ちがよく木の葉が耳にちょうどいいアクセントを奏でる。

 この公園は心を落ち着かせるにはちょうどいい公園になっていると思う。

「よし、座れたことだし、学校の話をしよう」

「えー学校での僕の話なんていいことないじゃないですか」

 僕は先生が話したい話題を聞いて気分が落ち込む。

 学校生活がまったくうまくいかない分自分の表情が暗くなってしまう。

 僕の様子を見ながらリーゴ先生は優しい笑みを浮かべる。

「そんなことないよ、ローグ君は魔法が使えないのは事実だとしても・・・・・誰よりも優しいことは利点だし、評価してくれているよ」

「でも僕が魔法使えないからママはすごい落ち込んでるし」

 僕が一番コンプレックスに感じているのは魔法が使えないことなんだよね。

 学校で魔法が使えないのが原因で馬鹿にされるのはいいけど。

 魔法が使えない僕を見て悲しそうにするママの顔を見るのがどうしても辛い。

 どうしてそんなに悲しい顔をするのか僕にはわからないけど。

「いや、世の中に出てみれば魔法が使えなくても普通に生きていけるよ」

「それじゃー解決になってないよ、それに自分が中途半端な気がするよ」

「そうだね、ならこれから自分磨きに力を入れればいいよ」

 リーゴ先生は僕の頭をごしごしと撫でる。それにしても自分磨きか。

 今まで何をやっても自分が不器用で普通の人より劣っている面が出てしまって途中であきらめてしまうことが多かった。

 それでも、これからは僕の姿を見て笑ってほしい。

 いじめられる自分を僕はしょうがないと思ってもやもやする心がリーゴ先生の言葉で晴れた気がする。

 なんか活力が湧いてきたよ。

「あっメンチカツ食べてなかったね、食べようか」

「そういえば忘れてた!」

 リーゴ先生は慌てて僕にメンチカツを渡してきた。

 話に夢中だったからすっかりメンチカツの存在を忘れてしまっていた。

 僕はメンチカツにかぶりつく。

 少し冷めてしまったけど肉汁があふれてきてジューシーでとてもおいしい。

 薄くてカリカリしている衣もとてもいいアクセントになっている。

 衣が薄いおかげで普通のよりたくさんのお肉が入っているのが一口食べた後のメンチカツから確認できた。

 僕はリーゴ先生からたくさんいい話を聞けたうえにこんなおいしいものを買ってもらえるなんて幸せ者だよね。

 リーゴ先生が僕に「おいしいかい?」と聞いてきた。

 僕はおいしいですと元気よく答えるととても満足そうにする。

「よかったよ、僕のクラスの元気印が苦しんでいるのをどうしてもほっとくことができなくてね・・・・・・・・その心配だったんだよ」

 とても照れながらリーゴ先生は頭を右手で触る。

 きっとリーゴ先生は学校での僕の様子を気にしてくれたのだろう。

「僕はリーゴ先生が担任でよかったです」

「うれしいこと言ってくれるね、僕からしてみれば当たり前のことをしてるだけだけどね」

 いいな、僕も助けた人にリーゴ先生みたいな言葉を言える大人になりたいな。

 確かにリーゴ先生は趣味みたいに人助けしている。

 前なんて登校するときにリーゴ先生を見かけたけどおばちゃんが背負っている重い荷物を代わりに運ぶのを手伝っていた。

 その結果1時間目の終わりに遅刻して教室に入ってきたけど。

「もうそろそろ帰る時間だね、帰ろうか」

「もうーそんな時間になったんですね」

 メンチカツを食べ終わり僕とリーゴ先生は席を立った。

 ポップも地面で寝ていたけど僕たちの様子を察して立ち上がり少しぶるぶると体を震わせる。

「送っていくよ、今日は何も予定がないからね」

「そうなんですか、そういえば家が近いって言ってましたよね」

「あー覚えてたの、結構学校に近いところにあるからね」

 僕たちは話しながら公園を出て歩き始めた。

 まだ夕方ではないので日差しが熱く感じる。

 最近は少し熱くなってきたような気がする。

 公園内が涼しかったから一層感じられた。

「自分磨きって何を磨けばいいのかあまりわからないですけど」

 僕は何を自分磨きすればいいのかわからずリーゴ先生に質問した。

 リーゴ先生は僕のお腹の脂肪を指さす。

「ローグ君の分厚い脂肪をバキバキの筋肉に変えてみるとかいいと思うよ」

「そっか、僕学校で豚って言われてるんだった」

「そうだよ、みんなが言う豚さんから卒業すれば周りの反応もがらりと変わるんじゃないかな」

 そういえ魔法以外では太っているからいじめられてるんだった。

 運動神経が悪い自信はないけど僕が重いせいで運動もままならない。

 よし自分磨きの目標が決まったよ。

 とことことなりを歩いているポップを頬ずりために抱きかかえた。

「ポップ!一緒に豚さんを卒業しようね!」

「ポップ君は豚の姿から変わらないんじゃないかい」

「あっ変わるのは僕だけだった」

 ポップはどこか嬉しそうにしているが僕の言葉を理解してのことなのかな。

 勢いで豚さんから卒業しようといったけどただ僕が脂肪を落とすだけだね。

 僕の家が見えてきた。不思議なことに僕の家はよその子の家より大きい。

 ママは仕事に行っている様子がないし、僕にはパパがいないからいろいろと謎に包まれている。

 家のドアがちゃんと大きく見える距離まで僕たちが来たところ中からママがジャストタイミングで出てきた。

「あら遅かったわね、あれお隣の男性は?ってリーゴじゃない!」

「あれリーゴ先生はママと知り合いなの?」

 リーゴ先生は大量の汗をかき始めた。

 いつもはどこか余裕そうな表情をしているのに今のリーゴ先生はから感じられない。

「うそー。ローグ君の母親が僕と同級生だったなんて・・・・・・・・確かにローグ君の髪の毛は青いもんね」

「あら、何か私に会いたくない事情があったのかしら」

「そんなことないけど、静かに暮らしたいなって思って」

「大丈夫よ、私たちはもう冒険職から遠のいてるじゃない」

「まぁーそうなるよね、とりあえず僕がローグ君の担任をしてるんだ、よろしくお願いします」

「うん、貴方ならローグを預けても心配いらないわ」

「そんなに信頼してくれてるのかい、うれしいことだね」

 それからリーゴ先生はママとたわいのない話をして帰って行った。

 もう夜に差し掛かりリビングでご飯を食べていた僕はママに質問した。

「そういえばリーゴ先生と話していた時に話題に出た冒険者って何?」

「知らなかったのね、冒険者ってダンジョン攻略したり、活躍が認められてくると階級が高い人から護衛の依頼がきたりするのよ」

 すごい仕事じゃないか。

 そもそも冒険者って何なのか知らなかったけどもしかして有名な仕事なのかな。

 僕はママがどんな活躍をしているのか聞きたくて「ママはどうだったの?」と聞く。

 ママは少し困ったような顔をした。

「私はねS級パーティーにいたのよ、簡単に言っちゃうと一番すごい冒険者の一人だったの」

「だから、パパがいなくてもこんなに裕福な生活ができるんだね!」

 ママはみるみる落ち込んでいく。なんか僕なんかいけないこと言ったかな。

 かなりすねながら「こんなはずじゃなかったのよ!」といきなり怒り始めた。

 あれ、なんかママの様子が変になっている。

 この話はできるだけ口に出さないようにしようかな。













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