PIGエボリューション
テン
第一章
プロローグ
俺の名前はエルド・ズッキーニという。
パリストン領にあるギルド出身だけど、あるとき無理やり王都の中央ギルドに所属することになった。
あこがれの人物はもちろんボルグさんだ。
パリストン領で初めてS級冒険者になり、魔王討伐を成し遂げたパーティーの一員だった人でその後ろ姿に俺は憧れた。
そんな俺は調査のために森の中にいる。
ローリングス家の話では最近大型モンスターが大移動してある森に住み着き始めたらしい。
ただの森ならよかったのだが俺ことエルドの地元であるパリストン領とローリングス家の狭間にあるためかなりめんどうくさいのである。
かなり王都から離れた位置にあるし援軍を派遣するにも位置的に難しい。
敵に攻められたら確実に落ちる場所になっていた。
一応調査しに来たが平気でキング種がいる物だから肝を冷やしてしまっている。
キング種はモンスターの中で一番強い種族のことである。
例えばゴブリンの中で一番強いのは今のところキングゴブリンになっている。
だいたい、キング種は高い戦闘力と知能を有しているため人々や俺たち冒険者たちから恐れられている。
大量にいるキング種をこのまま放置してしまったらとんでもない被害が現れるかもしれない。
この森にいるキング種の数だとローリングス領やパリストン領は半日にして壊滅的な被害が出てしまうだろう。
だいたいにしてキング種は地方ごとに1匹現れるだけでも非常にまれだというのに、こんなに出現してしまうとは異常である。
はっきり言って不自然だと思う。
てっきり俺のパーティーだけ派遣されたからそんなにやばいモンスターがいないであろうと高をくくっていたがそれは間違っていた。
俺が所属しているパーティーはA級パーティーである。
F~Aまでのパーティーがある。
Fから上がっていく度に実力が上がっていく。
Dより上の依頼をこなすには必ず4人一組で行動しなければならない。
そのことを冒険者用語でパーティーという。
決して甘い考えを持っていたわけではないがこれは予想外な状況だと思う。
今までの事例に載っていないぐらい大規模で危険な森になっている。
不安の中、歩いて奥に行くと何者かがいびきをかいていた。こんなでっかい音を立てる物は大物に違いないと感じ、草むらをかき分けてあるところまで来たら俺たちは絶句した。
草むらが終わってたくさんの大きな卵が置いてある広場に出るがそこにはたくさんの竜たちが寝ていたのである。
しかもキング種にあたるキングドラゴンが5体ほど紛れていた。
キングドラゴンはSランクモンスターである。
モンスターにもパーティーと同じくF~Sまでのランクがあり、強さも下から上がっていく度にパワーアップしていく。
あの卵はもしかしたらキングドラゴンが生んだものかもしれない。
それに竜たちもかなりの実力を誇る種がほとんどである。
俺のパーティーにドル、ジェーシー、ボムが大量の汗をかきながらひそひそ声で話し始めた。
「嘘だろ、キングドラゴンがこんなところに5体もいるなんて」
「これ以上はまずいわね、撤退しましょう」
「これはやべー、急いで帰らないとこちらがどうなるかわからないぞ」
ジェーシーとボムは早くここから抜け出さなければと気持ちいい汗ではなくべっとりとしたものを額に浮かべながら顔に焦りを浮かべる。
「まだ金を思う存分稼いでいないのに死にたくねーよ」
「何泣き出してるのよ!どうにかして生きて帰るわよ」
もう死ぬことが確定しているようにドルが泣き始めた。
うちのパーティーで紅一点のジェーシーがドルのケツをひっぱたく。
ドルはお尻をさすりながら泣き止んだ。
実物を見たことなかった俺はキングドラゴンがあまりにもかっこよかったため見入ってしまった。
他の竜種と比べて体が大きく大きな鱗を持っていた。
綺麗で力強さを感じてしまう。
「エルドしっかりして、早くここから脱出するわよ!」
「ああー、すまない」
ジェーシーのおかげで俺は現実に戻された。
俺は再度キングドラゴンを見ながら自分がいかに危険なところにいるかを再認識した。
キングドラゴンを発見してからこのまま生きて帰れるかが危うく思えてくる。
どんなダンジョンよりも危険であることは確かだと思う。
こんな絶望感を味わったのは久しぶりだな。リーゴさんに助けてもらった以来か。
リーゴさんは過去に冒険者として最高のSランクに到達した俺の先輩で今は姿を消してしまった。
パーティーとは別に個人にもF~Sの級がつけられている。
仕組みはパーティーの級と同じになっている。
俺たちはこれ以上ここにいるのは命の危険を感じてこの場を後にすることを決意した。あいつ等が目を覚ましてしまったら俺たちが死んでしまうだろう。
多分瞬殺であろうことはわかっている。
俺がメモをした紙にはたくさんのキング種がこの森にいたことを記されていた。
モンスター同士だから縄張り争いをするのかと思われたが不思議にもそんなことをした痕跡は見当たらなかった。
それ自体が異常なのである。
俺たちは生きてこの場を出られるであろうか。
そんな不安が込み上げてくるぐらい危険に満ちている。
だてにA級パーティーを名乗っていないが目をつけられてしまえば一巻の終わりなのは目に見えている。
とにかくこの場を切り抜けて王都に帰らなくてはならない。
俺たちは生きて報告するのだ。馬に乗り4人固まって森を抜けるために走り出す。
頼む何も起こらないでくれと願うばかり。しかし現状は甘くなかった。
キングトロールが率いるトロールの大群と出くわしてしまったのである。
俺は他のメンバーに指示を出す。
「お前ら止まるんじゃない、一列に走るぞ!」
「あんたが前に行くんじゃないの!」
切羽詰まっている状況のためジェーシーが眼を鋭くしながら聞いてくる。
「それは副リーダーのお前がやれ、俺は後ろであいつらを妨害する」
ジェーシーを先頭に俺を列の一番後ろに置き全員走り出す。
俺もそうだがみんな切羽詰まっている。
ミスが多発しやすくなってしまう状況下に置かれてしまっている。
そこで土魔法という相手の足元を止めやすい系統の魔法を使える俺がリーダーとしてトロールどもを止めなきゃならない。
このパーティーで一番強い俺がこなすべきだ。
キングトロールはとても高い知能を有しているため群れているときの危険度が上がる。
一体だけだったらSランクモンスターには認定されないだろうが複数のトロールを率いているときは誰もが認める最強モンスターの仲間入りをする。
このままではまずいと俺は自分が持っている土魔法で大きな壁を作りトロールたちの進行スピードを遅くさせた。
馬だから追いつかれることはないかもしれないがこの先にどんなモンスターに絡まれるかもわからない。
こういうのはできることを着実にすることこそ生き残るには一番必要なことだと俺は思っている。
このままいけば抜けられると思っていた矢先にまた変な奴らに絡まれることになった。当然こんなにいるのだからキング種だがさっきのトロールどもよりも、もっと危険なキングゴーレムに出くわしてしまった。
「これは人生で1番危険な体験に違いないぜ」
「何バカのこと言ってんのよ、どうするのよ」
俺の余裕な態度にジェーシーが焦りながらこの場を切り抜ける方法を聞いてくる。
砂魔法が得意なドルに指示を出す。
「俺とドルの魔法であのバカでかいモンスターの動きを止めるぞ」
「よっしゃ、給料増やしてくださいよ!」
キングゴーレムはあまりに動きが遅かったため、俺が得意な土魔法とドルの砂魔法をブレンドして相手の足を止めることに成功した。
こんなのと俺たちだけで戦っていたらきりがないし何より命が足りない。
何とかあの森から脱出して俺たちはローリング領の中央にある都市ローリングを馬で走っていた。
こんなに生きていることを実感できるのは何年ぶりだろうか。
まだ胸のドキドキが収まっておらず他のメンバーも顔が青い。
そんな時に結構栄えている都市を通っているものだから子供たちから「チームエルドだ!」って指をさされることがしばしばあった。
さっきの地獄のような体験をした後だけど俺は嬉しくてついつい立ち止まりサインを書いてあげてしまった。
子供たちの笑顔は最高だ。
気が遠くなる距離を走り続けて王都に着くと何やら騒がしかった。
理由が王都にある中央ギルドの大規模遠征にあった。
そうだ、明日から大規模遠征が行われる予定だった。
俺たちは徹夜の中、急いでギルド内に入り緊急で上層部に報告した。
かなり動揺していたようだが上層部の人たちは何やら話しをしてうなずきあった。
「報告はわかったが大規模遠征が明日行われるためそれに時間をかけている暇などない」
「しかし、このままでは確実に王都に被害が来るはずです」
「それはおそらくまだだろう、それにこれからの1年間はモンスターたちが動き出さないかぎりこちらは対応することはない」
こいつら何を言っている。
このままではローリングス領や俺のお世話になったパリストン領が危機にさらされてしまう。
王都だって被害が出てしまうだろう。
その可能性があるのに大規模遠征のほうが大事なのか。
自分のことしか考えてないのかこいつらは!
俺は強い怒りを覚えた。
「そんな、それで被害が出てしまったら大問題になりかねないと俺は思うのですが」
「いい加減にしてくれ、明日に大規模遠征が行われるのだから早く帰って休みなさい」
俺の主張は上層部のやつらに無視されてしまった。
無力感にさいなまれるっていうのはこのことだろう。
俺たちはきっと奴らにいいように扱われている。
だからこんな大事な報告を無視されてしまうのだ。
俺は何もできない自分をせめながら家に帰った。
大規模遠征はどうやっても自分が出るしかないからどうやっても時間が足りない。
俺が手紙を送ろうともあの上層部のことだからばれてしまうだろうし、明日の大規模遠征をさぼってパリストン領に行ったとしてもラルドさんたちに何かしらの重い罰が課せられてしまうのは想像がつく。
ラルドさんは俺が元々所属していたパリストン支部のギルドのマスターで、お世話になった人だ。
ギルドは王都を中心に各領に支部を持っている。
王都にある中央ギルドに俺は所属している。
どうしろっていうのだ。
大規模遠征が終わってから伝えるってのもありだと思おうがそれもまずい。
俺が王都を出入りするのは権力を持っている上層部のことだからわかるはずでばれてしまえば他の人たちに迷惑をかけてしまう。
人の命がかかっているというのに俺は何も判断できない。
俺はどうすればいいのかわからないまま次の日の朝を迎えることになるのだった。
もちろん俺の目覚めは最悪でクマだらけになりながらギルドに向かった。
当然仲間思いなパリストンの同僚たちに心配されてしまった。
これから何が待ち受けているかとても胃がキリキリして辛い。
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