第137話 お披露目パーティー(前編)

 3月13日土曜日。いよいよ、俺とミユのお披露目パーティーの日がやってきた。会場は筑派国際会議場つくはこくさいかいぎじょうというところで、二階の中会議室と控室を合わせて10万円未満に抑える事が出来た。


 メニューも一人頭3000円というリーズナブルな価格帯のコースがあったので、心配だったパーティの金銭問題は無事解決したのだった。とはいえ、貸衣装も含めると30万円をオーバーしてしまったので、親戚からもらった内祝いが無かったら、親父たちに頼らなければいけなかったかもしれない。


「会費は一人3000円ですよー」


 当日の受付は木橋きばし陽向ひなたの関西コンビに任せることにした。


「あ、お手洗いはあちらです」


 さすがにこういう場では大阪弁を控えているらしい。


「お疲れ、木橋、陽向」

「お疲れさま、ふたりとも」


 既にタキシードとドレスに着替えた俺とミユは二人をねぎらう。


「美優のドレス姿ほんまかわええなあ。旦那としてはどんな気分や?」

「どんな気分と言われてもな。綺麗だし可愛いと思うけど」

「もうちょっとひねりの効いた褒め言葉出てこんのかいな」

「無茶言うなよ。たとえば、どう言えばいいんだ?」

「こう……。花とか鳥に喩えるとか」


 非常に微妙なことを言ってくれる。


「やっぱ普通の言葉でいい気がしてきた」

「ははは……」


 ミユの方も苦笑いだ。とはいえ、純白のドレスに着替えたミユは化粧もあって、普段より可愛いというより色っぽい感じがする。


「結婚、したんだよなあ。俺たち」

「どうしたの?いきなり」

「やっぱり形から入るのは重要だなって。それだけ」

「私も、リュウ君のタキシード見て、結婚したんだなあって実感してるかも」

「だろ?」


 受付近くで雑談していると、次々と招待客がやってくる。


「お、美園ちゃん。久しぶり」

「隣にいるのが彼氏さん?」


 まだ中三だからだろうか。制服が正装という事になるのだろうか。でも、いつもより背筋をきっちり伸ばしている感じがして、少し背伸びをしている様子が可愛らしい。


「う、うん。けんちゃんって言うんだけど……」


 既にあだ名で呼んでいるのか。微笑ましいな。


「どうも、初めまして。守口健太もりぐちけんたと言います。現在、高二です。美園ちゃんからお話は色々伺っています」


 礼儀正しくお辞儀をする守口君。高身長で、鍛え上げられた肉体に爽やかスマイルといかにもモテそうな外見をしている。


「守口……さんは、美園ちゃんとは塾で知り合ったと聞いてますけど」

「美園ちゃん、そんな事まで言ったの?」

「だって、竜二兄りゅうじにい美優姉みゆねえは、昔からの付き合いだし……」


 何やら縮こまっている美園ちゃんだが、大切にされている様子が伺える。


「美園ちゃんは俺たちにとっても妹分ですから、大切にしてあげてください」

「ええ。凄くいい子ですよね。俺なんかには勿体ないくらいです」


 髪をかいて照れくさそうにしている様子からは本当に美園ちゃんの事が好きなんだなあという事が伝わってくる。


(美園ちゃんの相手の人、良い人そうだね)

(ああ。少しだけ心配だったけど)


 次に来たのは、しゅんさんとみやこの二人。都はともかく俊さんがスーツにネクタイという正装なのはそこはかとなく違和感がある。


「とうとうゴールインだな、二人とも」

「本当におめでとうございます。末永く幸せに暮らしてくださいね」


 俊さんは大学に入ってからずっとお世話になった人で、都はそれ以前からの付き合いだ。その二人からこうして祝福してもらえるのは嬉しい。


「うん。もちろんだよ。ていうか、都ちゃんも俊さんも遊びに来ていいからね?」

「さすがに俺は老人だからなあ。遠慮しとくよ」


 博士後期課程の俊さんとしては、どうにも年齢差を感じてしまって気軽に遊びにというわけにはいかないんだろう。


「Byteでこれから何度も会うでしょうし。これからもよろしくお願いします」

「都ちゃんも俊さんとゴールインしてもいいんじゃない?」


 らしくもなくミユの奴がからかっていやがる。


「わ、私としては、俊さえ良ければ何時でも良いかなと思っているのですが……」

「勘弁してくれ。無理に籍を入れても、当面は別居婚になるだろう」

「それはそうなんですが……」


 俊さんはまだしばらくつくなみ市にいるし、都は都内だ。俊さんがストレートに博士号を取れたとしてあと二年。確かに、それまでは籍を入れるのにも躊躇するのも道理か。


「ま、都とも長い付き合いになりそうだ。博士を取ったら心を決めるつもりだ」

「約束ですからね?」

「あ、ああ」


 俊さんもタジタジである。ただ、この二人はこれくらいの方がバランスがいいのかもしれない。


 後は先生たち、俺達の両親、親戚筋が来て一通り挨拶を済ませる。ちなみに、スピーチこそ任せなかったものの、招待しないのも悪いかということで、奇行で有名な野口のぐち教授も招待している。パーティー中に変なことをやらかさないでくれるといいんだけど。


「おーい、二人とも、そろそろパーティー始まるで」

「二人とも、さっさと会場に入らんと」


 最後の客と挨拶していると、木橋と陽向から呼び出される。


「いよいよ、披露宴つか、お披露目パーティーか」


 たかが内輪でのお披露目とは言えど、少し緊張してくる。


「ふふ。リュウ君、緊張してる?」


 ニコニコ顔で見つめてくる。


「思ったよりはな。パーティー中にキスとかもあるわけだし」


 パーティーの進行はシンプルだ。まず始めに木橋が司会として挨拶を。

 次に、新郎新婦入場ということで俺たちが会場に入る。

 立食形式での食事および歓談を経て。

 俺たちの産まれてから今までの写真をDVDに収めたものを流す。

 新郎新婦の友人ということで、都が軽くスピーチ。

 最後に誓いのキスをして終わり、というシンプルなものだ。


 やりようによってはもっと豪華に出来たかもしれないが、あまり凝っても疲れるだけだろうということで、そんな感じになった。


「確かに。皆で見られてる中でキスとか初めてだよね」

「そうそう。なんか恥ずかしいっていうかさ」


 やはりキスは二人きりの時にという気持ちが強い。

 周りが見ている中でというのは少し気恥ずかしい。


「でも、きっと、そういうのも思い出になるよ」

「ま、そうだな。とにかく、行くか!」

「うん!」


 こうして、内輪でのお披露目パーティーが始まったのだった。


※後編に続く 

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