第131話 夫婦の営みとYES/NO枕
一月十一日の金曜日。明日明後日は休みだ。
というわけで、解放感に浸りながら、ミユと二人でお茶している。
ただ、時計をちらっと見ると、午後十一時。
そろそろ、切り出してもいいかなあ。
「あのさ、ミユ」
この話を切り出すときは、いまだに少しドギマギする。
夫婦になった、というのも関係しているのかもしれない。
今までよりも一層愛しくなったのだし。
「どうしたの?リュウ君」
向かいのミユは笑顔で尋ねてくる。
「ええとさ。今日これから、その、いいか?」
なんとも自分の事ながらぎこちない聞き方だ。
二人して布団に入った後、なんとなく流れでする時は楽だ。
ただ、事前に言うのがどうも気恥ずかしい。
「これからエッチしようぜ」とかなんか違うし。
「今夜はお前を抱きたい」というワイルド系キャラでもないし。
「あ、う、うん。今日は、大丈夫、だよ?」
こういう時はお互い妙に照れる。
ちなみに、女性には生理というやつがある。
その時は、「ごめん、生理、なんだけど……」なんてことも。
逆に、俺の方が「悪い。今日は疲れてて……」なんてことも。
「なんかさ。昔のバラエティ番組でYES/NO枕ってあったらしいんだけど」
実際にあると、こういうやり取りをしなくて気楽かもしれない。
「うん。ネットで見たことある。オッケーな日はYESを表にするんだよね」
「ああ。このやり取り、こそばゆいから、そういうのあるといいな、と」
もちろん、こういうのも含めて夫婦のコミュニケーションでもある。
嫌というわけじゃないけど、妙にドギマギするのだ。
「……買ってみる?YES/NO枕」
顔を上げたミユの提案は意外なものだった。
「ていうか、売ってるのか?YES/NO枕」
「うん。ネットで検索したら出て来たよ。色々」
「じゃあ、ちょっと見てみるか」
というわけで、夜の営みの前に、二人して眺めることに。
「なんかさ。実用品ってよりパーティーグッズぽいよな」
国内大手通販サイト、
どうも、こういうのは、Amazunよりこっちが充実してるらしい。
「NOに×がついてるの、見せられると気まずくない?リュウ君」
今見ているのは、ピンクの生地にYESと♡が書かれたのと。
青の生地に、NOと×のマークが書かれたものだ。
「今日は、すぐ寝るから、みたいな感じにも思えるな」
ミユがNOの方の枕で寝ている様子を想像する。
……何か、微妙な気がしてきた。
「それに、バッテンマークがついてるのが、どうにもな」
そもそも、今日は別に、という時だって色々なケースがある。
お互い疲れてる事だってあるし。ミユが生理の時もある。
あるいは、なんとなく気分が乗らないこともある。
それを、YES/NOで表すのは、どうにも寂しい。
「私も、YESの時だって、求めてくれるならいいかなって時のこともあるし、積極的に求めて欲しい時もあるし」
だよなあ。YESだったからといって、そこでがっつけばいいわけじゃない。
お互いのムードを探り合いながら、ていうのが基本だ。
というわけで、ミユもどうにも微妙な気持ちを感じているらしい。
しかし、一度も試さないというのも、と少し思う。
「一度、買ってみないか?値段が3000円くらいするけど」
「うーん。そだね。一度、買ってみよっか」
というわけで、ポチっと注文。明日には届くらしい。
「で、今日だけど……」
「少し、気分、盛り下がったけど、大丈夫、だよ?」
「そっか。じゃあ……」
と二人して寝室に直行。色々し合ったのだった。
そして、翌日の夜。届いた枕を早速使うことに。
ちなみに、俺の都合もあるので、二セットだ。
「今日はYESってことだけど、どんな感じだ?」
常夜灯の寝室で、隣のミユに語りかける。
「割と、激しくして、欲しい、感じ」
激しく、か。
「お、おう。わかった」
「リュウ君もYESだけど。昨日ぶりなの大丈夫?」
ああ、そうか。体位にもよるけど。
男の方が疲れる事も多いし、性欲の問題もある。
「心配してくれてありがとな。でも、結婚してから、今までよりもミユのこと愛しくなって来たし。俺の方は大丈夫」
「そっか。私もその、結婚してから、リュウ君ともっとイチャイチャしたい気持ち強くなってるよ」
夜の寝室で静かに語り合う俺たち。
「意外と、YES/NO枕、悪くないかもな」
YESだとして、どんな感じか尋ねることだって出来る。
逆にNOだったとして、気分か疲れてるのか、生理か、とかも。
探り探りよりも、かえってやりやすいかもしれない。
「うん。これから、使う?これ」
「毎日使うのはアレだけど、時々使っていいんじゃないか?」
「うん。ちょっと、こういうのも楽しいよね」
というわけで、会話の潤滑剤という形で、導入が決まったのだった。
ちなみに、なんで、激しくしてほしいのか聞いてみたのだけど。
「だって。明日、これ試すんだって思うと。色々考えちゃったの!」
とのこと。
夫婦でも夜の営みは色々難しい。
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