第123話 クリスマス・イヴ(前編)
■12月24日(月)
お昼をやや過ぎた14時のこと。
俺達は、
相変わらずの寒さなので、全員コートに手袋という冬の装い。
「ほえー。飾り付けが綺麗やねー」
と感嘆のため息をもらす
周囲を彩るクリスマスツリーにイルミネーション。
彼女ならずとも唸りたくなる綺麗さだ。
「今もいいけど、夜はもっと綺麗になると思うよ?」
「だよな。夕飯の後が楽しみだ」
早くもクリスマス・イヴの夜を思い描いて、期待に胸を膨らませる。
「ま、とりあえず回ろうや」
すたすたと木橋が室内に入っていく。
「健一!待ってーなー」
そんな事を言いつつ、陽向も楽しそうだ。
「いい一日になりそうだな」
「うん。きっと」
と、さりげなく手を繋いで歩き出す俺たち。
「なんかお二人さん、やっぱ年季入っとるねー」
俺達が歩いている様子を観察していたらしき日向がぽつりと一言。
「そうか?」
「
「別に普通にしてるだけなんだがなあ」
「こんなこと言ってるけど、リュウ君、昔は私が履き慣れない靴履いててもスタスタと歩いて行っちゃったことあるんだよ」
「それって高校の頃の話だろ。今更過ぎる」
「あー、鈍感やった頃の話か」
その言葉は胸にグサリと来るのでやめていただきたい。
「もう、鈍感の話はいいだろ。今の俺は昔とは違う!」
「と言ってますけど、どうですのん?美優さん」
マイクを持つ仕草をして、美優のコメントを求める陽向。
「うーん。今はほとんどなくなった、かな」
「ほとんどと言うことは、たまには?」
ええい。そこを突っ込んで聞いてくれるな。
「たまには、ね」
いかにも意味深な言い方が気になる。
「なあ、それって例あるのか?例」
もし至らなかった所があるのなら、是非とも知りたい。
「それは秘密」
「別に教えてくれてもいいだろ」
「聞かない方がいいと思うよ?」
目が笑っていない。
「わかった。聞かないことにする」
これは、なんか溜め込んでる奴だと直感した。
「でも、やっぱ、イヴだけあって混んどるねー」
「逆に混んでなかったら、ヤバいけどな」
「それだったら、ここ、丸々貸し切りとかどう?」
「どんくらいかかるんか……想像もつかんわ」
店を冷やかしながら、歩いていくと、ふと、
アイスクリーム屋があるのが見えた。
「な、健一。アイスクリームとかええと思わん?」
早速、陽向が何やらおねだりを始めた。
「なんで、外があんな寒いのに、アイスクリームとか……」
そして、予想通り渋る健一。
「ええやんか。暖かい部屋でアイスクリーム!」
「だよね。スッゴイ贅沢だよー」
ミユも同調したようで、物欲しそうな目で見ている。
「ま、いいか。行こうぜ、アイスクリーム」
「そやね。別に不味いわけやないし」
アイスクリームを食べる羽目に。
俺は、オレンジソルベ。こういうシャーベット系の好きなんだよな。
木橋はというと、ラムレーズン味。
「なんか、ラムレーズンってチョイスが渋いな」
「ラム酒の香りがええんやで?今度試してみ」
「じゃあ、今度な」
そして、ミユはというと、バニラとチョコレートのダブル。
「また、甘ったるそうなものを。ダイエットはどうしたんだ?」
「ダイエットしなくていいって言ってたはずだけど」
「いや、でも、先週はダイエットどうこう言ってただろ」
「今日はダイエット休みの日なの!」
「さいですか」
まあ、ミユなら大丈夫だろうけど。
で、最後の陽向は……抹茶にいちごミルクのダブル。
「また、妙な組み合わせだなあ」
「抹茶にいちごが意外と合うんやで?」
「本当か?」
「本当やって。試してみる?」
と何気なく、スプーンですくって渡されたのでついパクっと一口。
「おお。これ、意外に行けるなー」
「そやろ?そやろ?」
と盛り上がっていると、ミユと木橋からの冷たい視線が。
「おい、陽向ぁ?いつの間に高遠とそんな仲になったんや?」
「リュウ君も……私は悲しいよ」
「いやいや、ちょっとした勢いって奴だよ、勢い」
「そうそう。ちょい味見してもらいたかっただけなんよ」
あわあわして言い訳をする俺たち。
「リュウ君。この分は貸しだよ?」
「陽向もな」
妙なところで貸しを作る羽目になってしまった。
◇◇◇◇
イーヤスには、実に多種多様なお店が入っている。
雑貨屋もあるし、衣料品店もある。
特に、雑貨屋は目を奪われる事が多くて、
四人で足を止めて色々眺めてしまった。
「んー。ええ記念になったわー」
ガマ蛙のキーホルダーを見て、ニコニコしている陽向。
確かに、つくなみっぽいけど、いいのか、それで。
木橋に視線を送ってみると、
「ま、これで喜んでくれるんやったら、安いもんやろ」
と仕方がなさそうに微笑んでいたのが印象的だった。
「リュウ君は甲斐性なしだね。うん」
「いやだって、いきなり見繕うとかそんな高等技術ないって」
ミユに似合うかなという小物はあったけど、ポンと
買って渡すようなテクニックは俺にはないのだ。
「冗談だよ。でも、夜は期待してるからね?」
どこか目を輝かせて言うミユ。
クリスマス・プレゼントのことだろうか。
それとも、夕食の事だろうか。
「ま、期待しといてくれ。大丈夫……なはず」
「なんで自信なさげなのー?」
賑やかに話しながら、ショッピングモールを回っていく。
気がつくと。あっという間に夕方を過ぎて、18:00過ぎだ。
「あー、そろそろ、夕食の時間だなー」
「そっちは、何時予約しとるん?」
「18:30。そろそろ行かないと」
「俺らも同じようなもんやな」
というわけで、ダブルデートは解散。
「じゃあ、良いお年をー」
なんて定番の言葉で、二人とは別れた。
「よし、じゃあ、夕食行くか?」
「うん!」
イヴの本命として予約していた店に向かう俺たち。
イヴの夜はまだまだこれからだ。
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