第121話 初雪
■12月15日(土)
少しの寒気を感じて、気がついたら意識が覚醒していた。
「おー、さむさむ」
布団の中でつぶやいて、リモコンで暖房を入れる。
「……リュウ君?どうしたの?」
暖房の音で目が覚めたのか、うっすらと目を開けている。
こういう寝起きの様子はいつも可愛いなと思う。
こいつの方が早起きだからあんまり拝めないんだけどな。
「いや、妙に寒い感じがしてさ」
「そういえば、なんだか寒いよ……」
ぶるっと身体を震わせるミユ。
時刻を見ると、まだ6:00。起きるのには少し早い。
「リュウ君。雪、雪が積もってる!」
窓を開けて外の様子を見たミユが手招きをする。
「おお、マジだ。積もるもんだなあ」
同じく外を見て、ビックリする。
まだ空は薄暗いけど、それでもわかる程の積雪。
一面雪化粧で、地面が見えないくらいだ。
「東京だと、滅多に見ないよね」
「だな。それに、まだ12月だし」
そんな事を話し合う俺たち。
確かに、昨晩雪が降るという予報はあった。
しかし、こんなに積もるとは予想外だ。
大阪出身の二人組もびっくりしたらしい。
ライングループでメッセージを送ってきた。
つくなみ市ではこの時期に雪が積もるのが普通なのだろうか。
やけに皆早起きだな。
俺たちと同じように、寒さで目が覚めたのだろうか。
少し遅れて、
東京に居る都からのメッセージ。
やけにはしゃぎ気味のミユだ。
「場所、どこにするんだ?」
「
「ここからも近いしな。じゃあ、そうするか」
というわけで、集まって雪遊びをすることになった俺たち。
末身池に13時集合ということになった。
何故か、東京にいる都までが来る羽目に。
◇◇◇◇
というわけで、お昼過ぎに末身池に集合した俺たち。
俺もミユも厚手のコートに手袋と寒さ対策は万全だ。
「池も見事に凍ってるな」
「鯉はどうしてるのかな」
「さあ、底に潜ってるとか?」
食べたら除籍という都市伝説が残る末身池の鯉。
しかし、今は池の表面が凍っていて、その姿は拝めそうにない。
「雪遊びはええんやけど、何する?」
木橋からの問いかけ。
「やっぱり雪遊びゆーたら、雪合戦やろ!」
「うん。やろう、やろう!」
雪合戦を主張する陽向とミユ。
「いや、雪合戦とか、冷たくて嫌なんだけど」
「俺もちょっとごめんやな」
そして、雪合戦反対派の俺と木橋。
「俺はどっちでもいいが」
中立の俊さん。
それにしても、女性陣が雪合戦派。
男性陣二人が雪合戦反対派とは。
「都ちゃんはどう?雪合戦したいよね、ね?」
「雪合戦やろーや」
残る一人である都を説得しにかかるミユと陽向。
都は決して運動が苦手な方ではない。
中学の頃を思えばむしろ得意な方だ。
「……うーん。やっぱり、私は雪だるまとか作る方が」
というわけで、3対2で、雪合戦は否決された。
そして、それぞれ好きに雪遊びをしようということになった。
俺たちはシンプルに雪だるまを。
「雪だるまとか何年ぶりだろうな」
東京で雪だるまが作れる程の積雪はそんなにない。
「小学校低学年の頃に作ったと思うよ」
「ああ!そういえば、超巨大雪だるま作ったよな」
マンションの近くで二人で雪だるまを作ろうということになったのはいいのだが、凝り性のミユは延々と雪玉を大きくしていき、胴体がかなり巨大になったのを覚えている。
「懐かしいな。確か、二人がかりで頭の部分運んだっけ」
「確か、1週間くらい残ったよね。ほんと、懐かしい」
思い出話に花を咲かせながら、雪だるまの胴体と頭部をそれぞれ作る。
最初はころころ。次第にごろごろという音がするように。
さらに大きくなると、ごとごとごとという音がする。
「よしっ。そろそろ合体させようぜ」
胴体部分は十分大きくなった。
「もう、ちょっ、っと、待って」
うんしょ、うんしょ、とミユは雪玉を転がし続けている。
「お、おい。もうそれくらいでいいって」
既に、ミユの雪玉は足の高さくらいになっている。
「もうちょっと、もうちょっと」
「はあ。仕方ないな」
プログラミングに夢中になった時のように、俺の声が耳に入っていないらしい。
そして、小一時間程待って出来たのは、胸の高さくらいまである巨大雪玉。
「なあ、これ、雪だるまの頭だよな」
「えへへ……」
「可愛く言ってもな……。無理やり乗せたら、下がグシャってなるぞ」
「じゃあ、逆にリュウ君のを頭にしよ?」
「うーん……まあ、それしかないか」
そして、二人がかりで苦労して頭部を巨大な胴体に乗っけることに成功。
「出来たー!」
「超でかい雪だるまになったな」
出来たのは俺達の背丈程もある巨大雪だるまだ。
「ね、ね。記念撮影しよう?」
「色々な意味で記憶に残りそうだな」
苦笑しながら、
俊さんにスマホを渡して、ツーショットを撮ってもらう。
「リュウ君、にやけてるよ」
「お前もだろ」
写真を見て、二人で言い合う。
「ほんとうに仲がいいことだな」
「私達も記念撮影しましょう?」
俊さんと都のカップルを見ると、足元には雪細工が。
腰の高さくらいまであって、何やらゲジゲジのような。
「それ……なんですか?」
「トランジスタだ」
「え?」
「だから、トランジスタだ」
「言われてみると……」
四角い雪のブロックに、脚のようなものが8本くらい生えている。
言われてみると、トランジスタの形状をしている。
「脚の部分、大変じゃなかったですか?」
「なかなか骨が折れたな」
「折れないようにするのが大変でした」
そういう問題じゃないと思うんだけど。
だいたい、なんで雪でトランジスタを作るんだ。
「私は可愛いと思うよ?」
「その可愛いがわからん。ま、いいか。撮るぞ?」
トランジスタ雪だるまを前に座っている二人を撮影。
都はにっこり笑顔。俊さんは相変わらず少し照れくさそうだ。
「私らも撮ってーや」
「陽向たちは何を……って、うお」
陽向たちの足元にあるのは、やけに平べったい形に整形された雪の塊。
そして、雪の塊の上には、何やら細かい雪がふりかけられている。
「えーと、念のために聞いておくが、それは」
「お好み焼きや」
「え?」
「お好み焼きや」
自慢気に言う陽向。
確かに、言われるとお好み焼きに見えなくもないが。
「なんで揃いも揃ってネタ枠なんだよ」
「俺は止めたんやで?」
木橋は何やら疲れた顔をしている。
「少しキャベツが足りないかな」
「それはどうでもいいって。ま、いいか。撮るぞー」
お好み焼き雪だるまを前に、満足げな陽向と疲れた笑顔の木橋。
尻に敷かれてるなあ、と少し同情する。
「じゃ、そろそろ解散するか」
なんだかんだ言って、3時間くらいが経過していた。
身体も冷えて来たし、そろそろ頃合いだろう。
「それじゃ、また来週なー」
「また今度ー」
と、それぞれ別れて去っていく。
「俺達も帰るか」
「うん。ちょっと寒くなってきちゃった」
「帰ったら、さっさと風呂入ろうぜ」
「一緒に入る?」
「また変なこと試すつもりじゃないだろうな」
「しないよー。普通に温まるだけ!」
「本当だろうな?」
「本当だよー」
そんなどうでもいい言い合いをしながら俺たちも帰ったのだった。
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