第114話 学園祭を楽しもう(後編)
さて、俊さんが取材している企画のために、再び北上する羽目に。その企画、つくなみロボコンは、計算機学部棟と隣接している工学システム学部棟で行われるのだ。
「玉入れか。テレビで見たことはあるけど、学生でも作れるんだな……」
会場に向かうと、既に学生たちは準備万端という感じで、それぞれが作ったロボットを何やら調整している。今回は、作ったロボットに玉を拾わせて、カゴに入れる速さを競うらしい。
「私も、ロボット作ってみたいな―。来年は履修してみよっと」
そう。つくなみロボコンは、イベントであると同時に大学の講義でもあって、履修すると単位が取得できる。とはいえ、簡単なものでもロボットを作るのは苦労があるらしい。そういえば、俊さんは……と探していると、信じられない光景を見た。
「俊はどのチームが優勝すると思いますか?」
言いながら、俊さんに寄りかかっているのは……都。こう、いかにもカップルしてます、という感じだ。そして、予想外なのは、俊さん。なんだか落ち着かない様子で照れている!
「なあ、都。腕を離して欲しいんだが」
都に苦言を呈する俊さん。しかし、どう見ても頬が緩んでいるし、嬉しそうにしか見えない。
「あの、俊さんが……」
確かに、付き合ったとは聞いていたが、こんなデレデレとしているとは。
「だから言ったでしょ?俊先輩はむっつりなんだって」
得意げに言うミユ。だが、認めるしかない。
「確かにそうだったみたいだ……こんにちは、俊さん」
近づいて二人に声をかける。
「あ、ああ。ふたりとも。見に来たのか?」
「こんにちは。竜二君。美優ちゃん」
落ち着かない様子を見せる俊さんだが、俺たちに都にデレデレとしているのを見られたのが恥ずかしいのか?
「ええ。学内でのロボコンなんて滅多に見ないですからね」
「まあ、そうだな。ゆっくり楽しんでいくといい」
慌てて俺達から離れていく俊さん。
「いや、ほんと意外なんだけど」
彼もやっぱり男だったのか。
その後、ロボコンを見て、誰が優勝するか手に汗を握りながら鑑賞したり。
気がつけば、すっかり日が暮れようとしていた。
「もう11月だから、日が暮れるの早いな」
まだ17時にもなっていないのに、すっかり夕焼け模様だ。
「あと1ヶ月もしたら、冬になるんだよね」
しみじみというミユ。
「聞いたことあるんだけどさ。ここ、毎年氷点下になるんだってさ」
「冬は家に引きこもりたくなりそう……」
暑さには強いミユも寒さには弱い。
学園祭の夕方に、冬の訪れを感じた俺たちだった。さらに、いくつかの出し物を見たり、屋台で買い食いしてると、時間は19:00。学園祭もそろそろ終了だ。
「もう真っ暗だな。そろそろ、帰るか」
手をつないで、一緒に帰ろうとしたのだが。
「ねえ。今日はByteに泊まっていかない?」
意外なミユの申し出。
「そりゃ、いいけどさ。なんで?」
「なんだか、もうちょっと、学園祭の気分を味わいたくなって」
少し恥ずかしそうに言うミユは実に可愛らしい。
「わかった。じゃ、行くか」
そうして、俺達は、いつものようにByte編集部の部室に向かったのだった。
編集部で泊まりはよくあるが、こういう日に泊まるのもそれはそれでいい。
そして、深夜になって、学部棟の洗面台で歯を磨いて、シャワーで身体を洗って。
「なんだか、青春してるって感じするよな」
部室の布団に寝っ転がりながら、そんなことを言ってみる。
「なあに、それ?」
ミユがクスっと笑いながら問い返す。
「だって、こんな可愛い彼女と学園祭を一緒に楽しんで。それで、こうやって部室で泊まるとかさ。まさに、青春じゃないか?」
雰囲気に酔っているのか、そんな少し恥ずかしい言葉が自然と出ていた。
「ふふ。確かに、そうかも。思い出、これからも作ろうね」
「ああ、約束だ」
そうして、俺達の、普段と違う、それでいて、普段と同じような日常は過ぎて行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます