第113話 学園祭を楽しもう(前編)
11月は随分イベントが多いように思う。最初の週には
そして、今日、11月17日はといえば-
「さすが大学の学園祭って感じだよな。本格的だ」
ミユと計算機学部棟前を並んで歩きながら、ぼやく。
「高校の学園祭とは全然違うんだね……。すっごい自由」
周りには、人、人、人。今日は筑派大学の学園祭である
「あ、チョコバナナ。食べたいなあ……」
ちょうど歩いている横にチョコバナナを売っている屋台があった。高校の頃の出店といえば、校則の縛りなどもあり、制限が色々あったものだけど、大学の学園祭は道具も含め、色々本格的だ。
「食べればいいんじゃないか?」
「でも、ダイエット中だし……」
「お前、欠かさずジョギングしてるだろ。そんな事くらい気にしなくても」
ミユからは年がら年中ダイエットという言葉を聞いているような気がする。それでいて、甘味を食べたりするのだから基準がよくわからない。
「先週、ちょっと甘いもの摂りすぎちゃったの!節制しなくちゃ」
ぐっと拳を握りしめているが、何も学園祭で……と思う。
「学園祭なんて一年に一回しかないんだぞ。今日くらいはいいだろ」
戸惑っているミユを横目に100円を渡して、チョコバナナを受け取る。
「ほれ。俺の奢り」
ぐいっとチョコバナナをミユの手に押し付ける。
「……そうだね。今日ぐらいはダイエットは無しにしよ!それと、ありがと」
「ま、たった100円だしな」
「お礼くらい素直に受け取ってよ」
そんな軽口を叩き合いながら、ミユがチョコバナナにかぶりつく様を眺める。なんていうか、こうして、もぐもぐとお菓子を食べている姿も様になるというか、小動物ぽくて可愛らしい。
「?」
じっと見ていたのを不思議に思ったのかミユが視線を向けてくる。
「ああ、いや。食べてる様子もなんか可愛いなって思ったんだ」
素直に思った事を言ってみる。最近は、こういう事にも抵抗がなくなってきた。
「食べてる姿が可愛らしいって言われても、恥ずかしいよ」
言いながら、照れくさそうな表情。
「それこそ、褒め言葉は素直に受け取っておけよ」
さっきのお返しとばかりに言ってやる。
「……」
ミユはといえば、渋い顔をしていた。
大学を南に進むと、上り坂の先に図書館と、特設ステージが見えてくる。
「へえ。マジックショーなんてやるんだな。準備中みたいだけど」
特設ステージは昨日の内に組み上げられたみたいだけど、即席の割には案外しっかりしている。マジックショー以外にもいくつかのステージイベントがあるらしい。
「これ、
ステージを見上げながら、つぶやくミユ。学実委とは学園祭実行委員会の略で、この学園祭の企画・運営を行っている委員会だ。オレンジ色のユニフォームを着ていて、ここに来るまでにも忙しく動き回っているのを目にする。
学実委の人たちにも色々なドラマがあるんだろうな。そう思いながら図書館前を通り過ぎると、緩やかな下り坂だ。その後に上り坂があるので、この先にある外国語センターに行く時はいつも地獄だ。
「ね。あの、バングラデシュカレーっていうの、食べてみたくない?」
坂を下った道の両側にはたくさんの屋台が並んでいて、その中の一つがバングラデシュカレーとやらだった。
「インドカレーとは違うのか……?まあ、そろそろお昼にするか」
300円を払って、バングラデシュカレーとやらを受け取って、近くの芝生に座る。学園祭当日とあって、芝生も大賑わいで、あちこちで、男女のカップルや男女のグループ、学外から来たと思われる人が座っていた。
「んぐんぐ。わあっ。サラッとしてて、凄いあっさりとしてる……!」
「だな。スープカレーって言うんだったか」
バングラデシュカレーとやらは、普段俺たちが食べるドロっとしたルーのカレーライスとも、インド風の香辛料がたっぷり入った独特のソースとも違い、サラサラのスープに黄色いご飯が浸っているような感じ。
「なんだか、身体に優しそうな料理だよな。油っけが少ないし」
「わかる、わかる。すーっとお腹の中に入ってくるよね」
バングラデシュカレーを二人でしばし味わう。と思ったら、ミユがスプーンでカレーをひとすくいして、何やら突き出してくる。ああ、そういうことか。
「んぐ。うん、美味いぞ。ミユもほれ」
お返しに、同じようにカレーをすくってミユの口に近づける。
「うん。美味しい」
前までだったら照れくさくて出来なかった行為がいつしか、さりげなく出来るようになっていて、我ながら驚く。
「お。お二人さん。昼間っからお熱いもんやね」
かけられた声に顔を見上げると、そこには、
「お前らも人のこと言えないだろ。って、たこ焼きか。大阪人にはどうなんだ?」
「ん?」
「いや。大阪人はたこ焼きの味にうるさいって聞いたことあるからさ」
「割とよく出来とるよ。大阪出身の学生が作っとるんやって」
美味しそうにたこ焼きを頬張りながら、話す木橋。
「へえ。関西からも結構うちに来てるんだっけ」
改めて、うちの学生の層の広さを実感する。
「ウチも来年から、ここの学生なんやね」
「受験に受かったらな。これで落ちたら実質二浪やからな」
彼女のことが心配らしい木橋。
「大丈夫やって。
となんだか謎の自信を振りかざす如月。
「はは。
乾いた笑いを漏らすミユ。二人の間で何かあったんだろうか。
「それじゃ、俺らは別のとこ見るから。また後でなー」
と手をひらひらと振って去っていく大阪コンビ。
さらにキャンパスを南に歩くと、体育・芸術学部棟、通称体芸棟が見えてきた。
「ここはなんか出し物やるんだっけ」
パンフをぱらぱらとめくる。
「この女装喫茶っていうの、行ってみようよ」
女装喫茶というのは、どうも芸術学部の連中恒例の出し物らしく、その名の通り、男性が女装をして、もてなしてくれる……らしい。
「わざわざ、そんなの行きたいのか……」
俺としては、男どもが女装して迎えてくれても嬉しくもなんともないが。
「年に一回だよ。行ってみようよー」
繰り返しねだられるので、仕方無しに女装喫茶へ行くことに。
「お帰りなさい、ご主人様!」
教室を改装して作られた女装喫茶は、まあ見た目通りだったが、それにメイド喫茶要素も加わっているのが特殊だ。
「メニューはこちらになります」
と渡されたメニューだが、意外にも普通で、アイスティーやレモンティーなどが並んでいる。
「うん。甘くて美味しいー」
とはミユの弁。
「意外にちゃんと作ってるんだな」
ネタネタしい企画なのに、意外にクオリティが高い事に驚く俺。
さて、そろそろ、俊さんが取材しているという例の企画を見に行くか。
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